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【マンガ版連載中】異世界は猫と共に ~システムエンジニアは失われた古代の魔法理論を解析し、魔法具界に革命を起こす 【書籍4巻&コミック1巻 2025年9月同時発売!】  作者: ぱげ
第3章:動きはじめた世界

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●第52話●遭遇戦

 街道を常歩で進軍していたセルファースたちの耳に、馬の走る音が聞こえて来た。

 一旦足を止めていると、程なくして偵察に出ていた騎馬が一騎戻って来るのが見えた。

 向こうもこちらに気付いたようで、速度を上げて一気に近づくと、馬から降りて片膝を突いた。


「偵察部隊より報告!」

「ご苦労! 報告頼む」

「はっ!

 ここより西、およそ4メルトル(1メルトル=約1km)の地点で、街道を進行中の敵集団を発見、その数およそ120!!

 まもなく我が領へ入ると思われます。

 が、数が多いため仕掛けてはおりません……」

 騎士は、一旦そこで悔しそうに言葉を区切る。

「良い。その数相手では無駄死にだ。勇気と無謀は違う。自制したことを誇れ!」

 そんな騎士に対してセルファースは賞賛の言葉を贈る。


「ありがとうございますっ!!

 1名は、動向を監視するため敵団に張り付かせております。

 またもう1名ですが、先の報告より敵の数が少ないのが気になりましたので、街道の先を調査させています」

「うむ、賢明な判断だ。敵の種類は?」

「6割がゴブリン、残りがほぼオークですが、オーガと思しき個体を最低2体確認しておりますっ!」

「オーガが……」

「あの騎士の言っていた事は本当だったのか!」

 オーガと言う単語が出てきたことで、全員に緊張が走り騒がしくなる。


 ゴブリンは数が多くすぐ繁殖する事が脅威ではあるものの、訓練を受けた騎士や兵士であれば、1対1で後れを取ることはまず無い。

 オークについても力は人より強いが、騎士であれば1対1で互角に戦えるし、集団戦では知略に勝る人がもう1段有利だろう。

 奇襲をかけられない限り、同数であれば勝てる見込みが高い。


 しかしオーガとなると話が別だ。

 オークを遥かに上回るパワーとスピードを兼ね備えた身の丈3mを超える巨人は、並の兵士や冒険者では、数がいくらいても相手にならない。

 それほど知能は高くないのだが、こと戦闘においては本能的に技術が高い。

 また、筋肉と外皮が硬く、まるで鎧を纏っているかのように頑丈なのも特徴で、1体につき最低騎士5人以上で当たるのが常識となっている強敵なのだ。


 中級に手の届きかけた冒険者の命を、最も多く散らしてきたのがオーガだ。

 たった1匹のオーガで、戦況をひっくり返される危険性をはらんでいる。


「静まれっ! 他に特殊な個体はいたか?」

「ゴブリンの何割かが、おそらく上位のホブゴブリンかと思われますが、それ以外に目立った個体は確認出来ておりません」

「分かった! 報告ご苦労。

 あまり休めんかもしれんが、輜重部隊の馬車で少し休め!

 全隊もしばし休憩だ!

 ディルーク、ここからの方針を決めるぞ!」

「はっ!」

 敵のおおよその規模と位置が分かったため、セルファースとディルークは、急ぎ作戦の最終調整を行う。


「やはり予想通りバラけているようですね」

「だな。街道を進んでいる本隊だけなら、この人数で何とか対応できるが、別動隊が厄介だな……」

「そうですね。

 しかし兵を割るとなると、共倒れまではいかずとも、かなり被害が大きくなるのでは?」

「だろうな……」

 偶然か必然か、敵のばらけ具合が、こちらが兵を割る事を躊躇させる絶妙な数になっていることに腹が立つ。

 セルファースは眉間に皺を寄せしばし瞑目していたが、目を開けるとニヤリと口角を上げた。


「よし、ここはひとつイサム殿渾身の魔剣の性能を見せてもらうとしようか。

 全員でもって街道の敵本隊を強襲。速やかにこれを撃滅し、その後分隊を叩くぞ!」

 力強く言うセルファースに、ディルークもニヤリと笑いながら答える。

「了解です!

 なぁに、この魔剣なら怖いもの無しですよ」

「よし。装備の点検と軽食をとったら、少し速度を上げるぞっ!」

「はっ!!」

 こうして作戦も決まった一団は、行軍速度を上げて一路街道を西へと向かった。


 やや早足で行軍する事30分、灯りを消して警戒しながら進んでいると、自領の境界付近でついに目視できる距離に魔物の一団を捉えた。

 幸いにして、まだ自領の村や町には敵の魔の手は及んでいない様だった。


「結構な数ですね……。当初の報告より多い」

「ちっ、道すがら元々いた奴等が合流(リンク)したな」

 偵察が見た時に120程度だった集団が、倍近く、200を超える集団になっていた。


 普段の魔物は、縄張り内での力関係によって主従関係に近いコロニーが出来ている。

 コロニーに所属する個体間ではあまり争いは無いと言われているが、外部から入って来た魔物に対しては攻撃的だ。

 しかし、一度集団となった魔物が群れで行動し始めると、近隣の魔物もコロニーごと群れに加わり、どんどん集団が大きくなることがある。

 魔物が集団で行動する場合に厄介なのが、この合流(リンク)と呼ばれる習性だ。


「まぁ、ここまで来て引く事も出来ん、か……。

 よし。予定通り殲滅するまでだ。

 力押しはやめて、まずはセオリー通り魔法と弓で削るぞ!」

 敵に気付かれないよう、セルファースが小声で指示を出す。

 セルファース含め、魔法を使える15名程と、弓を持った兵士30名が最前列まで上がって来た。


「森の境界ギリギリから弓を3射したら一気に魔法を叩き込め。

 その後、騎士は二手に分かれて側面から強襲、フェリス2型を持った槍隊は中央から突撃する。

 オーガとやるまでに、なるべく削る。無理はするなよ?」

「「「はっ!」」」

 引き続きの小声の指示に小隊長達は小声で返答すると、各隊へと散っていく。


 ぎりっ、と弓を引き絞る微かな音が暗闇に響く。

 魔力集中を始めると薄っすらと光るため、魔法は弓の1射目と同時に準備開始だ。

 攻撃開始の合図を出すディルークが、右手を上げたまま敵との距離を見極める。


 そして、掲げた右手が鋭く振り下ろされた。


 ヒュンヒュンッと言う微かな風切り音と共に、敵の前列に弓が降り注ぐ。

 森の中に少しだけ入っているため、あまり射角をつけない射撃だが、前列であれば十分射程圏内だ。

「ぎゃぎゃっ!?」

「ブモ、ブモモモッ!!!」

 前列にいたゴブリンとオークが、突然の攻撃に騒ぎ始める。


 同時に魔法使いたちが魔力操作を始めると、魔物たちもこちらの位置に気付いたのか、ぎゃあぎゃあブモブモと指差して走り出そうとする。

 そこへ弓の2射3射が降り注いだ。

 立て続けの斉射を受けて、前から2列ほど、およそ20体の魔物が戦闘不能に陥る。

 弓だけで息の根を止めるのは中々難しいが、頭などの急所に当たれば殺せるし、そうでは無くても継戦能力を削げれば十分だろう。


 前列にいた魔物の動きが鈍った事で、群れ全体の動きも遅くなる。

 そこへ、遠隔攻撃の主役とも言える魔法が放たれた。

 森が近い上、街道上なので、普段であれば火の魔法は厳禁なシチュエーションなのだが、今回は威力優先だ。

 まず、セルファース含め3名の騎士が、爆発系の魔法を撃ち込む。

『無より生まれし火球は、爆炎となって敵を打ち倒す爆炎弾(ファイアブラスト)!』


 軽く弧を描いて飛んだオレンジに輝く光球が、敵集団の真ん中あたりに着弾、炸裂した。

 中でも、勇から詠唱の意味を聞いて練習していたセルファースの魔法は、ほぼ旧魔法と言っても良い威力で、10体ほどを巻き込み爆散させた。

(これは……初めて十分な魔力を込めて撃ったが、とんでもない威力だね)

 その威力に、撃ったセルファースさえも驚いている。

 他二人の爆炎弾(ファイアブラスト)も敵を数体ずつ吹き飛ばし、敵集団を大混乱させることに成功した。


 そこへ、控えていた残りの騎士から、次の魔法が放たれる。

 選択したのは、風の魔法と土の魔法だ。


『見えざる無数の刃よ、嵐となって刈りつくせ。嵐刃(ストームカッター)!!』

 小さな竜巻と共に、無数の不可視の刃が襲い掛かる。

 間髪入れず、土の魔法も発動する。

『穴を穿つ石の矢雨は、虚空より出づるもの也。石霰(ストーンヘイル)!』

 長さ10センチ程度の矢じりのような石礫が、嵐刃ストームカッターの暴風も相まって牙を剥く。


 相乗効果を得た魔法は、先の爆裂魔法と合わせて30体以上の魔物を仕留めた。

 それが敵集団の真ん中で引き起こされたため、集団は分断され混乱に拍車がかかる。

「よしっ、槍兵突入だ! 騎兵は側面と後方を強襲!」

「「「おおおーーーーーーーーっっっ!!!!」」」

 セルファースの指示に、黙っている必要のなくなった兵士たちから鬨の声があがった。


 街道中央に、横15人縦4列の槍衾が出来上がり、敵集団前方へと突っ込んでいく。

 小さな盾も持っているので、規模は小さいがファランクスのような戦術だ。

 最前列の15人と、両側面、2列目の半数ほどがフェリス2型を使っている。


 声を上げて向かってくる集団に敵も気付いたのか、それぞれに武器や盾を構えて突撃してきた。

 そして激突……

 金属と木や肉がぶつかる鈍い音がしたと思った次の瞬間、断末魔の叫びが響き渡る。


 槍衾の最前列に配置されたフェリス2型が猛威を振るっていた。

 元々大した防具を身に着けていないゴブリンやオークが主体となっていることもあり、鋭さを増した穂先が易々と串刺しにしていく。

 むしろ想定より刺さり過ぎて相手を貫通、最初はそれを引き抜くのに慌てる事になってしまっていた。

 2列目からの牽制でどうにか事なきを得た一団は、確かな手ごたえと共に戦線を押し上げて行く。


「よし、この槍なら押し勝てる!

 このまま敵の足を止めたら、2列横隊に移行するぞ!

 手筈通り、2型持ちと通常槍とで必ずペアを組め!!」

「「「「おおうっっ!!!」」」」

 槍兵隊の隊長から檄が飛ぶ。


 このまま無闇に突撃しても分が悪いと見たのか、敵も進軍の足を止め俄かに睨み合いになった。

 槍兵隊は、手筈通り2型と通常槍のペアを最小単位として少し横に広がり戦線を整える。


 遭遇戦で幕を開けた魔物の群れとの戦闘は、第1ラウンドをクラウフェルト軍が取った形で第2ラウンドへと突入していった。

毎日1話アップ予定。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 距離は1メルトル(1km)って単位があるのにオーガの体長は3mって表示なのが気になりました。
[気になる点] 槍兵隊の隊長から檄が飛ぶ 檄を飛ばすという表現がほぼ間違えている現代だが、戦闘を描く場合指摘せざるを得ない。意味も無く檄(文)を飛ばしても戦闘は描けない。ここはせいぜい、槍兵隊の隊長か…
[気になる点] >「よし、ここはひとつイサム殿肝入りの魔剣の性能を見せてもらうとしようか。  ◇ ◇ ◇ 《きも‐いり【肝煎り】》 1 双方の間を取りもって心を砕き世話を焼くこと。また、その人。 …
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