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【マンガ版連載中】異世界は猫と共に ~システムエンジニアは失われた古代の魔法理論を解析し、魔法具界に革命を起こす 【書籍4巻&コミック1巻 2025年9月同時発売!】  作者: ぱげ
第16章:イサム・マツモト男爵

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●第264話●外洋船の視察

「以前見せてもらったボクレール商会の船より少しスリムな感じですね」

 造船所の壁面上部をぐるりと取り囲むように作られた足場から、船の全容を見渡した勇が言う。

 ボクレール商会は、シャルトリューズ侯爵家が出資をしている侯爵お抱えの海運商社だ。


「そうだな。侯爵様んとこの船はよ、積載量重視で速度は重視してねぇからな。マツモト様んとこのは倍くれぇの速度を出すってんだろ? あんま太ぇと効率が悪いんだよ」

 勇の横を歩いていたジルデッリが答える。


 ボクレール商会の外洋船は交易が主な目的なので、積載量を増やすため幅を広めにとっている。

 全長は勇の船より少し短いが、逆に幅は少し広いためずんぐりとした見た目だ。

 地球で言う所のキャラック船に近い形状をしているが、船首楼や船尾楼の高さはやや控えめである。


 対する勇の船は、ある程度の速度を出して大海原を探索するのが主目的なので、水の抵抗を減らすためにスリムな形状をしている。

 こちらは地球で言う所のバークタイプの船の形状に近いだろうか。


 また、船体のスタイルだけでなく帆装にも大きな違いがあった。


「言われた通りマストは二本、しかも両方とも縦帆にしてあるが本当に大丈夫なのか? 港に入ってきた船は確かに帆も張らずに動いてたけどよ」

 そのあたりに不安があるのだろう。ジルデッリがあらためて確認をしてくる。


 この世界(エーテルシア)の船は、勇が魔改造したレベッキオの双胴船を除くとすべて手漕ぎか帆船で、動力船は存在しない(繰風球もあくまで帆走を補助する魔法具であり動力ではない)

 中でも海上を長距離走る外洋船は、全て帆船である。それも、効率よく追い風を受けて走れるよう横帆をメインとしている。

 実際、先のボクレール商会の船は、四本マストの内三本が横帆だ。

 帆船による長距離航海が一般的ではないので、縦帆の風上への切り上がり性能があまり検証されていないのと、風向きが安定している特定の航路を航行する交易船は、風上に無理して切り上がる必要がないためだろう。


 対して多少水の抵抗が小さいとは言え同じくらいの大きさの勇の船が二本の縦帆だけというのは、ジルデッリからしたら少々頼りなく見えた。

 しかもそれでいてボクレール商会の船より速いというのだから、いくら魔法具を取り付けるとはいえ疑いたくもなる。


「実際に魔法具を取り付けてみないと何とも言えませんが、まぁ大丈夫だと思いますよ。ありがとうございます」

 一方の勇は余裕の表情だ。

 ウォータージェットを使った大型船がある事も知っているし、こちらでもその試作を繰り返しているので当然だろう。


「まぁイサム様が問題ねぇっつうならいいけどよ。よし、そいじゃあ今度は船内を案内するぜ」

 ジルデッリは若干腑に落ちない表情ではあったがそれ以上追求する事も無く、階段を下りて船の甲板へと向かった。


「おー、こうして乗ってみると中々広いですね」

「まぁ細ぇつっても幅が十メートルあるからな。その上マストも少ねぇし、船首楼も小せぇから広々としたもんだぜ」

 甲板に上がった勇が、思ったよりも広い事に驚く。


「これなら気球も上げられそうじゃな」

魔法巨人(ゴーレム)での作業も出来そうですな」

 同じく甲板に上がっていたエトとドレクスラーが、それぞれの目線で感想を口にする。

「そうですね。甲板を広くとってもらってよかったですよ」

 二人の言葉に勇も満足そうに頷く。


「そうか、魔法巨人(ゴーレム)をコイツに乗っけるつもりだったのか。確かにありゃあ便利だからな」

 そんな彼らの話を聞いて、ジルデッリが驚く。


 今回の造船をサポートするため、マツモト家から一体の魔法巨人(ゴーレム)が操縦者付きで貸し出されていた。

 大型船を作るための部材は必然的に大きく量も多くなる。

 器用さと力を両立している魔法巨人(ゴーレム)は、そんな現場で重機代わりに大活躍していたのだ。


「ええ。まぁ航行中は危ないからあまり使えませんけどね」

「ガハハ、さすがの魔法巨人(ゴーレム)も泳げねぇか」

 肩をすくめる勇に、ジルデッリが楽しそうに笑った。


「んじゃ次は船室だな」

 ひとしきり甲板を見終えると、一行はジルデッリを先頭に船尾楼へと向かう。

「甲板からも船倉には入れるんだが、メインはこっちからだな」

 船尾楼の一階部分に取り付けられた両開きのドアを開いて中へと入っていった。


 勇の船の船尾楼は、甲板から上が一階建てプラス屋上のようなオープンデッキになっており、オープンデッキの船首側には小さな小屋のようなものが見える。

 地下は三階層で、それぞれ甲板下の船室・船倉スペースへと繋がっている造りだ。


「あ、灯りは魔法カンテラなんですね」

「おうよ。火は船の一番の敵だからよ。火事になっちゃお終ぇだから、全部魔法カンテラだな」

 船尾楼の中へと入った勇が、壁面や天井に取り付けられた灯りを見て言う。

 火が大敵だというジルデッリと同じことを考えていた勇は、灯りが普通のランプだったら全て交換しようと思っていたので、手間が省けたのは嬉しい限りだ。


 船尾楼に入ってすぐはフリースペース兼倉庫のようだ。

 向かって左側の脇に六人掛けのテーブルと椅子が床に据付られており、壁面の一部にも棚のようなものが据え付けられていた。

 テーブルの反対側には上下階へ行くための階段がある。


 少し奥にいくと数段の階段が付いた小さな小上がりのような場所があり、床から長い棒が飛び出していた。

 小上がりの上部は少し隙間が空いており、そこから外の様子を窺う事が出来るようになっている。


「ああ、そいつは操舵手の席だ」

 不思議そうに勇が見ていると、ジルデッリが説明してくれた。

 この棒が舵から伸びる横棒と繋がっており、倒すことで舵を切るという。まだ操舵輪は発明されていないようだ。

 操舵手席の脇には扉があり、その奥が船長の船室になっているらしい。


 そんな事を軽く説明したジルデッリは、テーブルと反対側に設けられた階段を上がっていく。

 屋上のようなデッキに上がった目の前には、下から小屋のように見えた建屋があった。


「ここが艦橋だな」

 そう言ってジルデッリが建屋の扉を開ける。

 三畳ほどの小さな部屋で、テーブルと椅子が床に据え付けられていた。四方にガラス窓があり視界は良好だ。

 ちなみにこのガラスは、ベネディクトのコネである教会ルートから手に入れたものを使っている。

 「おいおい侯爵様の船よりデカくて綺麗なガラスだな」と納入した時にジルデッリが苦笑していたらしい。


「この伝声管を使って、甲板やらさっきの操舵所に指示を出す感じだな」

 ジルデッリが、天井付近にある漏斗のようなものを指差しながら言う。

 地球でも割と最近まで軍艦などで使われていた、金属の筒を利用した伝声管と同じ原理の物だろう。

 操舵輪のほうが先に発明された地球とは、逆になっているのが少々面白い。


 デッキ部分の確認を終えると、今度は階段を下りて甲板下の船室へと向かう。

 地下一階に相当する部分の多くは、乗員の生活スペースだ。

 天井は一般的な成人男性がギリギリ立って歩けるくらいなので一八〇センチ程度と低い。


 一番スペースをとっているのは就寝用の場所で、シングルベッドが二つ入る本室に小さな前室が付いた貴賓船室が一つ。シングルベッドが二つまで入る一等船室が三つ。

 二段ベッドが二台置かれた二等船室が五つに、ハンモックを吊るして眠る大部屋が一つとなっている。

 それ以外に厨房と、そこに隣接する一度に十名が食事を摂れる食堂があり、残りは倉庫スペースだ。


「おお、厨房には魔法コンロと冷蔵箱が入ってるんですね!」

 その厨房を覗いた勇の目に飛び込んできたのは、自らの商会で販売している魔法コンロと冷蔵箱だった。

「おうよ。この魔法コンロは火が出ねぇし小せぇから便利だな。まさに船の為にあるようなもんだ。いいもん作ってくれて感謝してるぜ」

 勇の言葉にジルデッリが嬉しそうに言う。

 馬車や魔動車にも取り付け可能な魔法コンロや保温石を使った冷蔵箱は、狭くて揺れる船とも相性が良いようだ。


 もう一段下、地下二階部分はほぼ船倉である。

 倉庫スペース以外には、二等船室がいくつかと大部屋が二つ、トイレがある程度だ。

 そして地下三階に相当する最下層は、バラストとして石と砂袋が敷かれており、その上の空いた部分は船倉となっていた。



「とまぁ、ざっとこんな感じだな。交易船じゃねぇから割と船室が広く取れてると思うが、どうだ?」

 半日ほどかけて全ての確認を終えて甲板に戻ってきた勇に、ジルデッリが声を掛ける。

「そうですね、バッチリだと思います。総員で五十名ほどでしょうから、余裕のあるスペースですね」

 ざっくりと必要な人員を割り出して答える勇。


「五十か。騎士様も兵士もそれに含むんだろ? 普通の帆船だったらその人数じゃまともに動かせねぇが、ホントに大丈夫なのか?」

「ええ、多分大丈夫なはずです」

 帆船は、帆を操作するのに結構な人数を割く必要がある。大型船となれば尚の事だ。

 ジルデッリの経験上、同サイズの帆船で長距離航海する場合、四十人ほどの船員が必要なのだ。心配するのも無理はない。


「はーー、魔法具――なんとかじぇっとつったか? とんでもねぇシロモノだなぁ」

「操帆がほとんどいらないですからね。まぁウチの騎士や兵士たちは、ある程度船員の替わりも出来ますからね。助かりますよ」

「ああ、そういやここまで来た船も騎士の姉ちゃんが操縦してたな。まったく、変わってんなぁマツモト様んとこはよ」

 マルセラが船を操縦していたことを思い出したジルデッリが苦笑する。


「んで、午後からはどうすんだ?」

「午後からは、追加実装のための作業を始めるつもりです。せっかく綺麗に作ってもらって早々で申し訳無いですが、何箇所か手を入れたいところがあるので」

「ああ、そいつはかまわんよ。最初っからそういう話だったしな。ただ……、ものは相談なんだがよ、その追加実装に立ち会わせてもらいてぇんだが、可能か?」

「こらっ! ジルデッリ!! てめぇ何言ってんのか分かってんのか!? 秘匿魔法具ばっかりなんだぞ!?」

「うるせぇ、レベッキオ! テメーには聞いてねぇよ! マツモト様、失礼な事を言ってんのは重々承知だ。だが、俺も船大工の端くれだ。どんなふうに改造されるのか、この目で見てみてぇんだ。この通りだ、頼む!」

 そう言ってジルデッリが深々と頭を下げる。


 ただの追加作業であれば何も問題は無いのだが、今回はモノが秘匿魔道具だ。

 しかも相手は貴族家の当主その人である。通常であれば、絶対に見ることは叶わない。

 しかし……


「ええ、構いませんよ。一部お見せ出来ない事や、説明できないものはありますけどね」

「ほ、本当かっ!?」

「ま、マツモト様っ!? いいのかい!?」

 あっさりと承諾する勇に、ジルデッリとレベッキオが驚いて同時に声を上げる。


「はい。ここで追加作業をやる以上、隠しても仕方が無いですからね。それに、外洋船を作るノウハウも公開してもらってますから、まぁお相子ですよ」

 カラカラと笑いながら答える勇。

 相手はシャルトリューズ侯爵の息のかかった者たちなのだ。こうなる事は事前に予想が出来た。

 なので、見せても問題無いようにデチューンした魔法具を持ち込んでいたし、見せても問題無い作業をあえて見せるつもりだったのだ。


 そうして午後は、勇の返答に上機嫌になったジルデッリの懇切丁寧なガイドの元、改装箇所の確認をしていくのだった。



 その日の夜。

 前日の侯爵の言葉通りに開かれたパーティーに、勇達一行は参加していた。


 船員たちも参加可能という異例のレギュレーションなので、船員たちは粗相をしないかと緊張しきりであった。

 しかし蓋を開けてみれば、侯爵家やマツモト家の家人と一部騎士だけが入れるエリアとそれ以外のエリアが、広いパーティースペースの一階と二階で分かれていたため、船員たちも純粋に楽しむ事が出来ていた。

 飲食も立食形式となっているため、マナーを気にする必要もない。


 そんな緩い雰囲気の中、小一時間歓談をしていたところ、シャルルドール家の家令が侯爵に何事かを耳打ちをした。

「ふむ、そろそろ頃合いか……。マツモト殿すまんね。余興の準備があるから、少し中座させてもらうよ」

「分かりました。しかし閣下自らが余興の準備をされるので?」

「フフ、さてね……。きっと喜んでもらえると思うから、楽しみにしているといい」


 そんな台詞を残して、シャルトリューズ侯爵が部屋を出ていく。

 それに釣られるように、何名かの騎士やメイドらも部屋を後にする。その中にはパルファンも含まれていた。

 笑顔の侯爵に比べて、彼らは皆一様に緊張の面持ちだ。


「何が行われるんでしょうか?」

 勇の隣にいたアンネマリーが首を傾げる。

「分からない。分からないけど……。一階にあるあのカーテンが閉まってるところ。……あそこでやるのだとすると、ひとつ思いあたるものがあるよ」

 そう言って勇が指差したのは、パーティースペース一階の奥にあってカーテンが閉められている部分だ。

 床から一メートル程高くなっており、それはまるでステージのようで――


 すると突然、会場の照明が一斉に暗くなる。


「なんだ!?」

「魔法具の故障か?」

 思いもよらない事態にざわつく会場。


 よく見てみれば故障などではなく、主だった照明にフードのようなものが被っていた。

 全て同じような造りのフードなので、予めこういう使い方をするための仕掛けなのだろう。


 仕掛けが分かっても依然として目的が分からない状況に、会場の騒めきは次第に大きくなっていく。

 すると今度は、勇がステージのようだと思っていた場所に明かりが灯った。

 よく見るとそれは二階よりさらに高い位置からの強い光で照らされた、いわばスポットライトの光であった。


「驚かせてすまないね」

 あまりの予想外な展開に、水を打ったように静まり返っている会場に、今度はシャルトリューズ侯爵の声が響く。


 そしてスポットライトの当たっているステージのカーテンが勢いよく開かれる。

 果たしてそこには、スポットライトに照らされた侯爵その人と、パルファンをはじめとした五人の家人が立っていた。

 それぞれが何かを手にしたり、何かが目の前に鎮座したりしている。


「ようこそ。今夜は我々のライブを是非楽しんでいって欲しい」


 息を飲んで皆が見守る中、シャルトリューズ侯爵が笑顔でそう告げた。

週1~2話更新予定予定。

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― 新着の感想 ―
もしかして演劇するの?(南部に演劇好きな貴族いるって言ってたけど違ったらごめん
この推進システムでジェットスキー騎兵とかいう兵種はどうだろうか
>我々のライブを是非楽しんでいって欲しい これが「リサイタル」だったら大惨事になる予想しかなかった。
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