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【マンガ版連載中】異世界は猫と共に ~システムエンジニアは失われた古代の魔法理論を解析し、魔法具界に革命を起こす 【書籍4巻&コミック1巻 2025年9月同時発売!】  作者: ぱげ
第15章:貴族への階段

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●第245話●養子縁組

「まさかこんなにすぐに謁見できると思いませんでしたね……」

「ああ。多分、現陛下になってからの最速記録なんじゃないかなぁ……」

 王城へと向かう魔動車の中、勇とセルファースが苦笑しながら話をしていた。


 話題はアポイントから謁見までの早さについてである。

 到着した日の夕方に遣いを出して、その翌々日に謁見が叶うというのは、異例中の異例の早さだろう。

 しかも大評定直前の、最も王城が忙しいであろう時期に、である。


 王妃は、国王ほどではないにせよ、この国で最もアポを取るのが難しい人物の一人なのだ。

 いかに王妃が“養子”の到着を心待ちにしているのか、よく分かると言うものだ。


「クラウフェルト子爵家の皆様ですね。召喚状を拝見します!」

「ああ、こちらだ」

「ありがとうございます! 拝見いたします」

 貴族用の門で、騎士による誰何が行われる。


 少し前にクラウフェルト夫妻が同じように魔動車で乗り付けた際は、少々の驚きと共に迎えられたが、勇派閥の各家に随分と魔動車が浸透した結果もあって、ごく普通の対応となっていた。


「確かに確認いたしました。どうぞお通り下さい!」

「ありがとう」

 すんなりと入城を許されたセルファースたちは、そのまま城内にある王妃のプライベートエリアへと案内された。

 こちらでお待ちください、と通されたのは王妃専用の応接室である。



「……これ、家庭用神殿ですよね?」

「……イサムの目から見てもそうなのであれば、私の見間違いでは無かったようだねぇ」

「正確に全ての種類を把握している訳ではないので多分ですけど、これ全種類揃ってますよ。確かこれなんか、一番最近出た奴ですし……」

 通された応接室で、調度品を見ていた二人の顔が少々引きつる。


 様々な調度品に紛れて、どう見ても教会謹製の織姫のご神体と家庭用神殿(ドールハウス)の数々が飾られていたのだ。


 いや、紛れてなどという生易しい物では無い。

 もっとも目立つ正面の壁面には、歴代王妃の肖像画がずらりと掲げられているのだが、その下の飾り棚の最上段を埋め尽くしていた。


 早い話“もっとも良い場所”に鎮座しているのだ。

 一つで家が建ちそうな壺やら、どうやって作ったのかまるで分らない複雑な彫刻が施された燭台やらを二段目以降やサイドの壁面に追いやってまで……。


「あと、これとかこれ、オリジナルデザインだと思います。見たこと無いですし、そもそも一般市民に頒布するものにここまで贅沢は出来ないです」

 並べられたものの中に混ざって置かれている、一際豪華な家庭用神殿を指して勇が言う。


「確かに……。というかこれ、謁見の間だよ」

 その中の一つ。大理石のように艶やかな床と壁、一段高くなった段差の上に豪華な椅子が置いてあるものを見ながらセルファースが乾いた笑い声を漏らす。

 どうやらこの王城にある謁見の間を模して作られたものらしい。


「ふふふ、流石にお膝元ね。確かにそれは、特注で私が作らせた品よ」

 食い入るように家庭用神殿を見ていた勇達に、不意に楽しそうな声が掛けられた。


 慌てて振り返った二人は、その目の前に現れた人物――王妃ルルトーチカ・シュターレンに目を丸くする。

「こ、これは王妃陛下。た、大変失礼いたしました!」

 そして即座に片膝をつき臣下の礼をとった。


「驚かせたようですね。あまりに真剣に見ていたものだから、つい。さぁ、かけて頂戴」

「「失礼いたします」」

 そんな二人に笑顔でソファを勧めると、自身もゆっくりと腰を下ろした。


 この部屋にはいくつかの出入り口が設けられている。

 王妃は、奥にある大扉から入ってくるのが普通なのだが、脇にも扉の無い出入り口があり、今回はそちらからの入室だった。


 主に親しい人間が訪ねてきた際に使用されるそうだが、今回は間違いなく驚かせるためにわざとこちらを使ったのだろう。

 警護として付いてきた女性騎士が、いささか苦笑していたのがそれを物語っていた。


「どう? 私のコレクションも中々のものでしょう?」

 セルファースと勇が腰掛けたのを見て、ルルトーチカが再び口を開く。

「ええ、とても驚きました。イサムが言うには全種類揃っているとのことですが?」

 少し落ち着いたセルファースが言葉を返す。


「そうね。通常頒布されているものは全て揃っているはずよ。前にニコが来てくれた時に初めて見てから気に入って、コツコツと集め始めたの」

 ニコとはセルファースの妻ニコレットの事だ。

 以前セルファースが魔法巨人の書記(ゴーレムライター)を献上しに来た際に同行し、彼女は王妃と面会していた。

 その際に手土産の一つとして、家庭用神殿とご神体もいくつか寄贈していたのだ。


「で、教会が主導で公演している紙芝居が素晴らしかったから孤児院に寄付したでしょ? そのお礼として何とかいう司教から毎回新作が届くようになったのよ」

「……ひょっとしてその司教というのはベネディクトという名前では?」

「そうそう! 確かにそんな名前だったわね。定期的に寄付は続けるつもりだったから丁度良かったんだけどね」

「なるほど、そうでしたか……」

 王妃が肯定したことで、セルファースと勇は思わず顔を見合わせ同時に苦笑した。


 孤児院へ寄付をお願いしたのは他ならぬ勇達だったし、当然その話はベネディクトも知ってはいた。

 そして、家庭用神殿に対する王妃のリアクションをニコレットから聞いた彼は、チャンスとばかりに家庭用神殿を寄贈したのだろう。

 相変わらず聖職者というよりやり手の商人のような嗅覚と行動力である。


「それよりも……、今日は“養子”の話なのではなくて?」

 家庭用神殿の話が一段落したとみた王妃が、本題を切り出してきた。


「はい。こちらに連れてきております」

 王妃の言葉に答えたセルファースが勇へ目配せをすると、彼が足元にあったバスケットをテーブルの上へと乗せた。

 そして上部に付いている蓋を外す。


「こちらです。さぁ、ジークベルト、出ておいで」

「まぁぁおぅ」

 勇がそう声を掛けると、茶トラの猫――ジークベルトがバスケットからひょこりと顔を出してきょろきょろと辺りを見回してから、王妃のほうを見て一鳴きした。


「あらあらあら、なんて可愛らしい子なのかしら!」

 それを見た王妃が、胸の前で手を組み目を輝かせる。


 騎士の宿舎で暮らしている黒猫のルルと、教会で暮らすサバトラ柄の猫アッシュの間に生まれたのがジークベルトだ。

 七の月に生まれたので、五ヶ月になる。

 地球の猫であれば、五ヶ月だとまだ見た目にも子猫っぽさが残っているのだが、こちらの猫は成長が早いのかほぼ大人の猫と同じくらいの大きさに育っていた。


「まぁぁう~」

 そんなジークベルトは、ひょいとバスケットからテーブルの上へと飛び出すと、トコトコと王妃の前まで歩いて行き、ちょこんと座る。

 そして王妃を見上げると、小さく首をかしげてもう一度鳴いた。


「っ!?」

 その仕草の余りの可愛さに、王妃が声にならない声を上げる。

 そしてそろりそろりと手を伸ばし、人差し指の背でそっと額に触れた。


 嫌がる素振りを見せないジークベルトの様子を見て、王妃はそのまま優しく額を撫でる。

 撫でられたジークベルトは、気持ちよさそうに目を細めると、今度は自分から頬を王妃の手の甲へとスリスリと擦り付けた。


「――っ!?」

 ジークベルトの思わぬ反撃に、再び声を詰まらせて目を丸くする王妃。

 その後もしばらく、無言で額や頬、喉のあたりを撫で続けていた。


「すっかり王妃陛下にも懐いたようで安心しました」

 ひとしきりモフり倒された後、王妃の膝の上で丸くなって眠るジークベルトを見たセルファースが、お茶を口にしながら目を細める。

「そうですね。ここまで甘えられるのであれば、何も心配する事は無いですね」

 隣の勇も、嬉しそうにうんうんと頷く。


「そうですか。それならば良かったです」

 二人の言葉を聞いた王妃が、ほっとした表情を見せた。


「陛下、そろそろお時間でございます」

 その後も、魔剣マニアの王妃が勇に魔剣の話を聞くなどしていると、護衛の女性騎士がそう王妃へと告げる。

「あら、もうそんな時間だったのね。分かりました」

 その言葉に、王妃が居住まいを正す。


「陛下、こちらにジークの好きな食事をはじめ、一緒に暮らすにあたっての注意事項を纏めておきましたので後ほどご覧ください。お世話をされる方に皆様でご共有されると良いかと思います」

 同じく居住まいを正したセルファースが、一通の封筒を差し出す。


「クラウフェンダムで使っていた食器類や玩具、トイレなどの一式もお持ちしておりますので、慣れるまでしばらくそちらを使っていただくのが良いと思います」

 セルファースの言葉を受けて勇がそう付け足す。


「分かりました。セルファースそれに勇、此度の件感謝します。このような可愛らしい子を“養子”に迎えたとあれば、其方らは縁者のようなもの。何かあれば相談しなさい」

 封筒を控えていた侍女へ渡すと、ジークベルトを抱きかかえて立ち上がった王妃が、そんな言葉を投げかける。

「こっ、これは勿体ないお言葉、ありがとうございます!!」

 思わぬ身内宣言に驚き深く礼をするセルファースと勇。


「フフ。新しく貴族になるにせよ、上位貴族になるにせよ、何かしらあるでしょうからね。今後の励みに期待していますよ」

「まぁぁう」

 そんな二人に微笑みかけながら王妃が言葉を掛けると、そうだぞ、とばかりに腕の中のジークベルトがひと鳴きする。


「「はっ! 身命を尽くしまして!!」」

 二人のその返事を聞いた王妃は笑顔で頷くと、踵を返して再び扉の無い出口から応接室を後にした。



「いやはや、王妃様にはびっくりでしたね……。まさかあそこまで言っていただけるとは」

 王宮からの帰りの魔動車内で、勇が正装の襟元を緩めながらセルファースに話しかける。


「そうだね。もちろんリップサービスも打算もあるんだろうけど、正式な訪問の場であの言葉をいただけたというのが、何より大きいね。国王陛下にも当然伝わるだろうし」

「ええ。まぁ無様な事はしてくれるなよ? とプレッシャーをかけられたとも言えますけどね……」

「はっはっは、そういう事だね。まぁお互い精々頑張るしかないね」

 そう言い合いながら、あらためて気合を入れる二人だった。


 なお、長く王妃に仕えている女性騎士がこの時の様子を国王に聞かれた際「初孫が誕生なさった時と同じかそれ以上にメロメロになっていらっしゃいました」と答えたのを聞いて、国王は大笑いしていたと言う。

週2~3話更新予定予定。

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― 新着の感想 ―
推しの誕生日に、写真やら色々飾ってインスタグラムにあげてる熱狂的ファン……よりは生温いかな(褒めてない
まぁ、教会の牧師とか宣教師の人って営業マンみたいなもんだから商売人と嗅覚が似通って来るのは当然っちゃ当然なんだけどねぇw
秒で女王陛下のネコになっとるぅ!w
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