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【マンガ版連載中】異世界は猫と共に ~システムエンジニアは失われた古代の魔法理論を解析し、魔法具界に革命を起こす 【書籍4巻&コミック1巻 2025年9月同時発売!】  作者: ぱげ
第15章:貴族への階段

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●第238話●リーチの謎

 先程から聞こえていたザザザザと言う音は、周りからリーチが集まって来ている音だったようだ。

 森の奥の開けた一角に、今もなお辺りから少しずつだがリーチが集まって来ている。

 ユリウスの魔法巨人(ゴーレム)が大きな敵と認識したのは、密集していて一つに見えたからだろう。


「うわぁ、キショイっす……」

 ティラミスがぼそりと感想を漏らす。皆無言で頷いているので、異論は無いようだ。

 ただ、地球の蛭よりはるかに大きいものの、表面がぬらぬらしていないのと丸っこい形状である事で、そこまでグロテスクに感じないのがせめてもの救いだ。


「……よく見ると、色んな種類のリーチが集まっているなぁ」

 注意深く様子を窺っていたユリシーズが呟く。

 そう言われて見てみると、確かにお馴染みのフォレストリーチを筆頭に複数の種類のリーチがいる。

 詳しくない勇の目からでも五種類はいるのが分かるくらいなので、詳しく調べたらもっと種類がいるのは確実だ。


「リーチには、こういう習性があるんですか?」

「いや、聞いたこと無いねぇ。群れるタイプはいるけど精々数十匹だし、複数種類がこの密度で集まるって言うのは、聞いた事が無いよ」

 勇の問いにヴィレムが首を振る。その横のフェリクスに目をやると彼も同じく首を振った。

 魔物の生態に詳しい二人が聞いた事が無いという事は、かなり珍しい事なのだろう。


「そうなんですね。おそらくこれが、エオリネオラ様が見せたかったものだとは思うのですが、どう――」

 どういう事なのだろうか、と勇が言おうとした矢先、またもや状況が動いた。


「ピギャーーッ」

「「「「「ピギギィィ」」」」」

 一匹のリーチが甲高い鳴き声をあげると、それに呼応するように集まっていたリーチたちが一斉に鳴き声をあげた。

 それが合図だったのか、小さな広場の中央付近に折り重なっていたリーチたちが広場全体に広がる。


 そして、リーチたちによるバトルロイヤルが始まった。


「ピギッ!」

「ピギャッ!!」

「ピィィーー!!」

 甲高い鳴き声を上げながら、リーチたちが縦横無尽に跳ね回る。

 体当たりが主な攻撃方法なので、バレーボールを使って高速で玉入れをしているような絵面だ。

 もっとも、激しくぶつかり合うたびに青い体液が飛び散る様は、中々に刺激的な玉入れだが……。


「「「「「…………」」」」」

 突然始まった壮絶な状況に、思わず呆然としてしまう一同。

「はっ!? 皆さん、少し下がってくださいっ! こちらにも襲い掛かってくるかもしれません!!」

 最初に我に返ったミゼロイがそう叫んで皆を広場から下がらせる。


「……これもリーチの特性という事は?」

「無いですね」

 広場から距離をとった勇が顔を引きつらせてフェリクスに尋ねるが、苦笑しながら帰ってきた答えはノーだった。


「そもそも魔物は、同種で争う事は少ないんです。他の魔物を捕食したり、縄張り争いなのか特定のエリア内の魔物を排除する事はありますが……」

「ここまで本気で戦うなんて聞いたこと無いねぇ」

 フェリクスの言葉をヴィレムも肯定する。


「しかもこちらに目をくれるような素振りも一切無いしねぇ」

 ミゼロイのもっともな懸念で距離をとった一同だったが、当のリーチたちは勇たちの事など目に入っていない様子だ。

「なぁっふ」

 敵意に敏感な織姫が、ミゼロイの頭の上で寛いでいるのが何よりの証左だろう。


 手を出すわけにもいかず様子を見守る事十五分ほど。瞬く間に数を減らしたリーチは最後の二体となっていた。


「ピギャーーッ!」

「ピギィーーッ!」

 数秒周りを見回した後、お互い相手が一匹だけだと理解したのか、一際大きな鳴き声を上げてから二体が同時に飛び出した。

 空中で正面衝突すると、双方その反動で五メートル程吹き飛ばされ、ドチャリと体液まみれの地面へと落下する。


「あっ……」

 思わず勇の口から声が漏れる。

 仲良く地面へ落下した二匹だったが、その後に動けたのは一匹だけだった。

「ピィィィーーーーギャーーーーッ!!」

 そしてそれを誇るかのように、生き残ったリーチが高らかに叫び声を上げた。


「決着、したんですかね……?」

「おそらくは……」

「何だったんでしょうか? これで終わりって事は無いんでしょうけど……」

 叫び声を上げた後、急に動かなくなったリーチを見て、勇が首を傾げる。

 小さく上下はしているので、死んだわけではなくジッとしているだけのようだ。


「んんんっ……?」

「どうされましたか?」

 一分ほどその様子を見ていた勇が、目を瞬かせる。

「いや、今微かに……。ああっ!? やっぱり!!」

 そして質問に答える途中で声を上げた。


「地面から出てる魔力が集まってる? 吸収してるのかっ!?」

「「「「「えっ!?」」」」」

 勇の言葉に一同の声が揃った。


「間違いないです。地面から出てる無属性の魔力が、全部あのリーチの所に集まってます。見えるという事は、何らか魔法的な力が働いているんでしょうね」

 どんな魔法かは皆目見当がつきませんけどね、と付け加える勇。

 その後回りを警戒しながらそのまま様子を見続け、三十分ほど経過した時だった。


「んにゃっ」

 勇の頭の上に戻って毛繕いをしていた織姫が、地面へと降り立った。

 そのまま無言でリーチを見据える。


「姫、どうした――っっ!?」

 口を開いた矢先、地面から出ていた魔力光がフッと途切れた。

「ピイィィィィィィィッッ!!!!」

 そしてこれまでで最も甲高い鳴き声をリーチがあげる。


 変化は劇的だった。

 鳴き声を上げたリーチの体表が七色に光り始めたのだ。その様はまるで、球状のネオンサインのようだ。


「……光ってるっす」

 ぼそりと呟いたのはティラミスか。

 彼女の目にも見えているという事は、これは物理的な現象なのだろう。

 その証拠に、他のメンバーも食い入るようにその様子を見ていた。


 十五秒ほどで徐々にその光が弱くなり、三十秒で完全に消える。

 光源を失い再び暗闇に包まれるなか、そのリーチは青と赤、二つの月の光を反射して紫色に薄っすら光っていた。


「メタルリーチに、なった……??」

 ぼそりと勇が呟く。

 月明りを反射して独特の光沢を放つ目の前のソレは、紛れもなくメタルリーチに見えた。

「にゃっふ」

 地面に降りていた織姫が警戒態勢に入ったところを見ても、おそらく間違いないと思われる。


「ピルルゥゥッ!」

 予想もしなかった展開に呆気にとられる一同をよそに、更に一段甲高くなった鳴き声を上げるメタルリーチ。

 その声に騎士達も一斉に臨戦態勢をとる。

「ピゥゥッ!」

 しかしメタルリーチは、もう一度だけ短く鳴くと、こちらには目もくれることなく一瞬で森の奥へと消えていった。淡い銀光だけを微かに残して。



「……メタルリーチがどうやって生まれるかを、教えるためだった、という事なのか??」

 薄っすらと朝陽が差し込むようになった森の中を移動しながら、勇が呟く。

「女神様はお前さんの役に立つ事、と言っとったんじゃろ? メタルリーチをここまで色んなもんに使っとるのはワシらだけじゃからな。まず間違いないんじゃないか?」

 隣を歩くエトがそれに答える。


「そうだねぇ。この素材があるのと無いのとでは、魔法具の質とか作る早さが全然違うからね。役立つなんてレベルじゃないよ」

 織姫が倒したメタルリーチを抱えたヴィレムも、そう言って大きく頷く。


「やっぱりそうですよねぇ。まだ何も確定してはいないですけど、全くの謎だったメタルリーチの生態を紐解く、重要なヒントではありますよねぇ」

 まだ一度見ただけなので、それが偶然なのか必然なのかは、現段階では分からない。

 しかし、全くアタリも付けられない状況と、ある程度条件が揃っている状況とでは、その差は歴然である。


「しばらく同じ場所で観測しますか?」

「ええ、そうしましょう。セルファースさんの許可は必要ですが、まぁ間違いなく許可は出るでしょうしね」

 フェリクスの問いに笑いながら勇が答える。


 メタルリーチは、地球でいえばプラチナやイリジウムなどと同じ、レアメタルのようなものだろうと勇は思う。

 効果が高く代替が難しい上、そもそもの産出量が極端に少ない。


 この世界(エーテルシア)独自の金属であるミスリルなども似たような部類だろうが、メタルリーチの効果の特異性と応用範囲の広さは、それらと比べても頭二つは抜けている。

 その謎が解ける可能性があるのであれば、否やは無いのは明白だ。むしろ全力を挙げてその謎の解明にあたる事になるだろう。


「了解しました。ドレクスラーの魔法巨人(ゴーレム)は、引き続き現場に待機させます。領都へ戻り次第、急ぎローテーションを組みます」

「お願いします。ユリウスも観測部隊に加わってくれるかな?」

 勇の問いかけに、前を歩いていたユリウスの魔法巨人(ゴーレム)がサムズアップする。


「いやぁ、こういう時には魔法巨人(ゴーレム)、それも遠隔操作タイプがあると便利だなぁ」

 ユリウスの魔法巨人(ゴーレム)に笑顔でサムズアップを返しながら勇が言う。

 今回のように場所さえ特定できてしまえば、人が直接現地に行かなくても監視が可能なのが、魔法巨人(ゴーレム)の大きな有用性の一つだろう。


 安全性はもとより、魔法巨人(ゴーレム)単体での行軍は人の何倍もの速度が出せるので、時間的なロスも少ない。

 何より何か変化があった場合、ほぼリアルタイムで報告可能なのは大きい。

 操縦可能な距離内という制約はあるものの、その距離も十キロメートル程はあるので、実運用上はあまり問題が無いだろう。


「それにしても、こんなモンが埋まっておったとはなぁ」

 エトが、握り拳大の石のようなものを手の中で玩びながら言う。

「それも謎物体ですよねぇ……。魔石の素なのか、果ての姿なのか、それとも全く別物なのか……。こちらも調べてみる必要がありますね」

 その石にチラリと目をやった勇が苦笑する。


 エトが持っているのは、先程大量のリーチがバトルロイヤルをしていた小さな広場の地中に埋まっていた物体の欠片だ。

 地中から魔力光が出ていたので、メタルリーチが去った後に掘り返してみたところ、三メートル程掘ったところから出てきたのである。


「でも多分人工物っぽいですよね、これは……」

「だろうねぇ。多少風化してはいるけど、自然に出来たものにしては形状が綺麗すぎる」

 エトから渡された物体を色々な角度からあらためて眺めてみる。


 地面に埋まっていたのは、巨大な石板のようなものだった。

 白っぽい磁器ともプラスチックともコンクリートともつかない質感で、おそらく広場の地下一帯に埋まっていると思われた。

 おそらく、というのは全てを掘り起こしている時間が無かったのと、下手に掘り起こして貴重なメタルリーチ誕生の秘密を台無しにしてしまわぬよう、一部だけを掘り起こして確認した後、埋め戻したためだ。


 その掘り起こした部分は、埋まっている石板の角の一つと思しき部分だったのだが、その角は綺麗な直角だった。

 また角から伸びている二辺も、何かで切り出したかのように綺麗な直線だったのだ。


 偶然出来たにしては綺麗すぎるため、旧世界の遺物か何かだろうというのが勇たちの結論である。

 エトが持っていたのは、それを一部砕いてサンプルとして持ち帰ったものだ。


「で、この埋め込まれとる細かいのが全部、魔石の欠片っちゅう訳か」

 勇から返してもらったサンプルの側面を指先で触りながら、エトが言う。

 表面こそつるつるしているが、砕いたその断面には細かな凹凸が無数にある。

 石板本体の質感ではなく、そこにびっしり埋まっている小さなガラスの粒のような物体のせいだ。


「ええ。魔石なのかは分かりませんが、無属性の魔力を帯びた何かである事は間違いないでしょうね」

 サンプルから取り出した透明なそれを、かすかな光に透かしながら勇が答える。

 殆どが一ミリ程度の大きさしか無いが、よく見ると三ミリほどのものも混ざっており、勇が手にしているのもその一つだ。


 魔力光が出ていた地中から出てきたものなので、この無属性魔石の欠片のような物体から魔力が出ていたと考えるのが妥当であろう。

 誰が何のために埋めたのか、なぜ夜の限られた時間にだけ魔力が放出されるのか等は、相変わらず分からないままだが……。



 領都へと戻った勇達は、早速セルファースに結果を報告、継続調査に乗り出した。

 それから一週間ほど観測を続けた結果、いくつか分かったことがあった。


 毎日決まった時間にリーチたちが集まって来る事。

 集まっている時には必ず地面から魔力光が出ており、その強さには日によって差がある事。

 バトルロイヤルも必ず行われるが、勝者が百パーセントメタルリーチになるわけでは無い事。

 進化?したメタルリーチの素材は、これまで使用してきたメタルリーチと同じである事も判明した。

 毎回勇が観測したわけではないので、魔力光に関しては憶測も含むが、まず間違いないだろう。


「う~~ん、やっぱり魔力光を沢山浴びると、メタルリーチになるって線が濃厚ですかね?」

「だろうねぇ。その光が魅力的だからリーチが吸い寄せられて、本能的に独占したいから殺し合う、と」

「メタルリーチにならんかったのは、光が足りんかったからか?」

「おそらくは。元々光が弱い時だったからなのか、浴びてる時間が足りなかったのかは分かりませんけどね」

 分かった事を元に勇達は仮説を立てていく。


 まだまだ不確実な事だらけではあるが、これで確実にメタルリーチの素材を確保できる手段が出来たことになる。

 全くの運任せであったこれまでと比べたら、少量といえどその差は大きい。

 しかも自分たちで完全にそれを独占できるのは、とんでもないアドバンテージだ。

 なので当然のようにセルファースからは、超極秘情報として扱うようにとのお達しが出るのだった。


「しかしそりゃあ数が少ないはずだよねぇ。多くても一日に一匹なんだもの」

「でも、出現する場所は国中にあってバラバラなんですよね?」

「そうだねぇ。……あ、そういうことか」

「ええ。これ、他にも似たような場所がいくつかあるんじゃないですかね?」

「その可能性は高そうだ……。イサムさんしか見つけられないから本格調査は出来ないけど、過去のメタルリーチ討伐場所については調べておくよ」


 勇の言う通り、メタルリーチは謎の魔物ながら、その目撃、討伐ポイントは王国中に散らばっている。

 今は叙爵準備で忙しいので無理だが、時間がとれるようになったら各地で気球を飛ばして調査を行えば、別のポイントを見つけられる可能性は高い。

 かくして、思いがけず女神様から授かったプレゼントは、領地発展のため継続調査をすることとなるのだった。



「う~~ん、猫を入れることは確定として、後をどうするかだなぁ……」

「そうですね。オリヒメちゃんはもちろん、他の猫ちゃんたちも今はいますからね」

「にゃっふ」

 そんなメタルリーチ騒動がひとまずの落ち着きを見せた十一の月の終わり頃。

 勇と織姫、そしてアンネマリーは、領主の館にある勇の書斎で何かを描いていた。


「やっぱ何かその領地ならではの物なんかを図案化するのがセオリー?」

「はい。物だったり由来だったり、大切にしたい事なんかを入れることも多いですね」

「なるほどなぁ……」

 勇はペンを鼻の下に挟んだまま後頭部で手を組み、だらしなく椅子にもたれかかった。


「いざ作るとなると中々難しいね、“紋章”って……」


 迫る叙爵に向けて、マツモト男爵家の紋章作りが本格的に始まっていた。

週1~2話更新予定予定。

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― 新着の感想 ―
いつか、メタリーも人工的に作れるようになる前触れですね
安直に肉球スタンプにはならない流れかな?
家紋より面倒くさい貴族の紋章……漢字で『松本』にしたら……さすがにダメ出しされそうですね(苦笑) 『猫』を入れるのが絶対なら、猫で『まつもと』にすれば……(例:歌川国芳の猫の絵『かつを』)
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