●第201話●決戦の地へ
新章開始です
アバルーシの潜伏場所を出発した勇たちは、街道まで出た足でそのまま街道を西進、ズンの遊撃部隊との合流ポイントへと向かっていた。
まともに戦闘可能なレベルの魔法巨人は十八体。プラス移動だけは出来るレベルの魔法巨人が二体稼働している。
この移動だけの機体は、サバダック辺境伯が送ってくれた候補者に昨夜操縦を試してもらい、勘の良かった二人に徹夜で詰め込んだ成果だ。
キャリアタイプの魔動車が一台しかないので、スペア機体をどうにか運べないか考えた上での苦肉の策である。
どの魔法巨人も操縦席をハンドキャリーしており、合流ポイントが近づいた所で一部を除いて付近の森に操縦席を隠す算段だ。
その後方から隊商に偽装しているフェルカー侯爵家の一団が距離を開けて続き、さらにその後方から魔動車が続く。
魔動車の車列にはザバダック辺境伯が送ってくれた三台も加わり、辺境伯家の騎士とエトら非戦闘要員が乗り込んでいる。
ちなみに候補者に操縦を教える際、サミュエル・フェルカー侯爵がどうしても自分も操縦してみたいと言うので試してみたのだが、勘の良いグループには入れなかった。
さらに魔力パスの値が3だと判明して地味に落ち込むサミュエルを見て、フランボワーズが「カワイイ」とボソリと呟いていたのは、誰にも気づかれなかったようだ。
人気のない街道を一時間ほど西に進んだ所で、一行は小休止を取っていた。
「このオーバードライブ弱モードは、非常に使い勝手がいいな」
操縦室から出てきたリリーネが、同じく操縦席から出てきていた勇に声をかける。
「それは良かったです。リリーネさんなら四時間以上は持つはずなので、ある程度の距離ならこれまでより行軍速度を上げられると思いますよ」
勇も笑いながらそれに答える。
各操縦者には、移動しながら改修を加えたオーバードライブモードの試運転を行ってもらっていた。
リリーネの言う弱モードとは、三段階で設定した効果の中で一番弱いもののことで、最大効果を十とした場合の三程度の効果である。
持続時間重視で効果は抑えているが、しっかり体感できるレベルの効果はあるので、出し惜しみせず使えて良いと操縦者には好評だ。
そこからさらに一時間ほど進むと、大きな川のほとりに微かに街が見えてきた。
プラッツォ王国北東部最大の街、メラージャだ。今回ズンがアバルーシと組んで落とそうとしている街である。
この辺りは、アバルーシが直前まで哨戒する事になっているエリアなので、ズン側の哨戒は出張って来ていない。
まだ朝早い時間なので街の門は閉まっているようだが、念のためメラージャの見張りに見つからないよう注意して、ここからは王都へと続く大きな街道から分かれた支道を南へと進む。
支道を南下して四時間、ついにその支道からも外れて森の中へと分け入る。
魔動車と馬車は森を進むことは出来ないので、街道から目の届かない場所で待機となった。
森へ入ってしばらくは大木の間に藪が茂っていたのだが、30分ほど進むと藪が払われてちょっとした道のような所へと出る。
そこへ出たところで、先頭を行くリリーネの機体から“止まれ”のハンドサインが出されたことで、一行は足を止めて小休止となった。
「森の中に道を作っていたんですね……」
藪が払われた所を見ながら勇が感嘆の声を漏らす。
「ああ。魔法巨人による作戦が決まると同時に進められたのだ」
勇の向かいに腰を下ろしたリリーネが答える。
この獣道のような道は森を南西方向へ貫いており、プラッツォの王都から南に伸びるもう一つの大街道付近まで繋がっているそうだ。
「そしてその付近から、さらにズン側の森の中を貫く道も整備されている。そちらは馬車も通れる広さの道で、向こうの本隊はその道を通ってプラッツォへと進軍するらしい」
そうした土木工事は、もちろん人の手でも行われたのだが、魔法巨人の参加によって何倍もの速度で進んだとの事だ。
「確かに大きな人型の機械、いや魔法具は、この手の工事にはうってつけでしょうね」
勇はそう言いながら、近未来の日本が舞台で産業用に開発された人型のロボットが出てくるアニメを思い浮かべていた。
アレは半分ご都合主義もあったが、建築や土木の分野で大活躍しているという設定だった。
ブルドーザーなどの重機が存在しないこの世界においては、単純に人をそのまま大きくしたロボットは、運用イメージがしやすいのが最大のメリットだろう。
なにせ人がやるものの規模をそのまま大きくしたら良いだけなのだから。
作業に応じて使う道具を変えるだけで良いという汎用性、その道具も人の使うものを大きくするだけで良いので、着手までも早いし操縦者にも特殊な訓練は不要だろう。
悪路に強い移動方法も確立されていない中では、驚異的なバランス性能で二足歩行する魔法巨人の踏破性能も、森を切り開くのに適している。
「魔法巨人の使い方としては最適なんですよねぇ、厄介なことに……」
知ってか知らずかそんな最適解を選択したズンの上層部の行動に、今更ながら勇は溜息を漏らした。
「それで、合流ポイントはどのあたりなのだね?」
操縦席の一つに便乗してきていたサミュエルがリリーネに尋ねる。
「ここからブースト無しであと三時間といったところだ。なので、ここから少し分け入った辺りに、一部を除いて操縦席は隠しておく」
リリーネの答えに一同が小さく頷く。
面が割れている、リリーネを含めたアバルーシの面々5名と、ドレクスラー、マルセラ、ローレル、メンフィオに勇を加えた十名は操縦席ごと進軍し、それ以外は魔法巨人のみで従軍する。
総大将で白兵戦が出来ない勇が最前線へ行くことに反対する者もいたが、魔法陣を見られる事や旧魔法が使える事、何より織姫が常に傍にいることで最終的には問題無いと判断されていた。
「よし、いよいよだな。姫、よろしく頼むよ」
「にゃふ……。なぉぉぉーーん!」
小休止が終わり、操縦席に乗り込みながら勇が織姫に声を掛けると、それを受けた織姫が長鳴きをした。
「ん? 姫どうしたん――」
「「「「「にゃーーー」」」」」
「え?」
勇がどうしたのかと言おうとするより早く、一塊になっていた織姫以外の猫たちが一斉に鳴いたかと思うと、バッと散っていく。
「ん?」
「お?」
「おっと」
それと共に、多くの操縦者たちが驚きの声をあげる。散った猫たちが、例外なく操縦者の膝や肩に飛び乗ったのだ。
リリーネやユリウスのようにパートナーが決まっている者にはもちろん、パートナーのいない者にも猫が飛び乗る。
捕らえたアバルーシの操縦者は大半が後送されているのだが、その中には猫をパートナーにしていた者も複数いた。
猫たちが元々のパートナーに付いていくかどうかは猫に任せてあったのだが、例外なく全ての猫が従軍しており、その猫たちがパートナーのいない者に付いた格好だ。
「……ひょっとして、ここから皆がパートナー役を務めてくれるのかい?」
「にゃっふ」
驚いた勇が織姫に尋ねると、当然よとばかりに小さく頷く。
「……ちょっと試してみます」
「みゃー」
それを見ていたドレクスラーが、自分の肩にのってスリスリしている小振りな白猫と共に操縦席に乗り込む。
魔法巨人を立ち上がらせて、しばらく槍を振ったり準備運動のような動きをした後、慌ててドレクスラーが下りてきた。
「これは凄いですね……。私はこれが初めてなので猫によるサポートの効果なのかは判断できないですが、明らかに操作性が上がっています!」
そう興奮気味に話すドレクスラーを見て、他の者も一斉に猫と共に魔法巨人へと乗り込む。
結果、効果の大小はそれぞれだが全員に猫によるサポート効果が発揮されているとの結論に至った。
「もしかしなくても、織姫が皆に頼んでくれたのかい?」
「にゃーふ」
すでに興味を失い勇の首に巻きついて目を瞑っていた織姫は、勇に優しく喉を撫でられると、片目だけを開けて小さく鳴いた。
こうして思わぬ戦力の底上げに成功した一行は、進軍速度を上げてズンの手によって作られた道を進んでいく。
そしてついに、アバルーシのソレより二回りは大きい魔法巨人と、見慣れぬ鎧に身を固めた騎兵たちの集団が、勇の目に飛び込んでくるのだった。
本日(2024/9/13)、いよいよ「いせねこ」1巻が発売されました!
ちょうど1年前に連載開始した時は、まさか1年後に本になって世の中に出ているとは思ってもみませんでした。これも読んでいただいている皆様のおかげです。本当にありがとうございました!
どうか、書籍の方もよろしくお願いいたします。
すぐにコミカライズ開始、2巻発売と続いていく予定なので、今後ともご贔屓に・・・。





