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【マンガ版連載中】異世界は猫と共に ~システムエンジニアは失われた古代の魔法理論を解析し、魔法具界に革命を起こす 【書籍4巻&コミック1巻 2025年9月同時発売!】  作者: ぱげ
第12章:巨人は踊る

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●第189話●フェルカー侯爵領にて

ブックマーク、評価していただいた皆さま、本当にありがとうございます!!

週2~3話更新予定です。

 守り人の里を発った勇たちは、日が落ちるまでバルシャム辺境伯領を150キロほど走り続けると、1日目は野営を行った。

 二日目も朝から移動を開始すると、午前中のうちにフェルカー侯爵領との境界へと辿り着く。

 特段関所のようなものは設けられてはいないが、大きな街道だけあって警備のための簡易な砦のようなものが建っていた。

 荷物チェックをされている様子は無いが、速度を落として通る人々に騎士と思しき歩哨が目を光らせ、時々声をかけられ誰何されているようだ。


「さて、恐らく大丈夫だとは思いますが、どうでしょうね……」

 皆が速度を落として通行しているため自然発生した短い行列の最後尾に並んだ勇が呟く。

「貴族家の紋が入っていますし、魔法巨人(ゴーレム)もバラして積んであるので問題無いとは思いますが……」

 同一派閥内ではないので、念のため魔法巨人(ゴーレム)は手足と胴体をバラしてあるため、ぱっと見で魔法巨人(ゴーレム)とは分からないはずだ。

 しかし大きな荷物である事は違いないし、よく見ればそれが大きな手や足である事も分かってしまう。

 その上、今は嫌疑が晴れたものの少し前までやり玉にあげられていたクラウフェルト家の一行だ。

 良からぬことを企んでいると思われても無理からぬ状況ではあるだけに、若干の緊張が走る。


 ところがそんな心配事は、斜め上の方向に解決されることになった。


「む……? その紋章はクラウフェルト家のものですね。すみませんが、お名前をお伺いしてもよろしいでしょうか?」

「こんにちは。いかにもクラウフェルト家が長女、アンネマリー・クラウフェルトです」

 やはり紋章が目についたのかベテラン騎士から声をかけられ、家長の子であるアンネマリーが代表して答える。

「やはりそうでしたか! となると、これが噂の魔動車というやつですね……」

 返答を聞いた騎士の目が輝く。


 咎められるようなことは無さそうだが、噂になっているというのが少々気になり、アンネマリーが尋ねる。

「噂になっているのですか?」

「ええ。先日王都へと向かわれたサミュエル閣下が帰還した際に、乗れなかった事を残念がっておられましたので、騎士達の間で話題になっておりまして……」

「え? 閣下がそんなことを仰っていたのですか?」

 あの厳格なサミュエルが絶対に言わなさそうな内容に、アンネマリーが思わず聞き返す。

 同じ車内にいる勇たちも驚きの表情だ。


「ええ。あれは速度もさることながら乗り心地が良いと聞いているから帰りにでも乗せてもらいたかったが、アレクセイ・ヤーデルード閣下が余計な事をしたせいでそれが出来なかった、と」

「な、なるほど……」

 まさかの派閥長非難まで騎士の前でしていたようだ。

 もっともサミュエルのことなので、額面通り受け取って良いものでも無いのだろうが……。


「ああ、お引止めしてしまい申し訳ございません。もしクラウフェルト家の魔動車が通ったら、ご案内するよう仰せつかっておりますので、お手数ですが兵舎までご同行いただけないでしょうか?」

「私達が通る事をご存じだったのですか?」

 勇たちが北方へ行くことは、派閥内には連絡がしてあるがそれ以外には連絡はしていない。

 目立つ集団ではあるので、フェルカー家の斥候からでも連絡がいったのだろうか?

「三日ほど前に領都から通達がありまして。近いうちにここを魔動車で通られる可能性が高いから、もし通られたら案内せよ、と」

「三日前……」

 勇たちが里を出発したのは昨日なので、移動しているのを見ての対応では無いようだ。

 疑問は残るが、ひとまずは案内された兵舎の方へと車を向ける。


 そのままベテラン騎士に案内され、勇とアンネマリー、護衛のフェリクスとミゼロイが兵舎の応接室と思しき部屋の前までやって来る。

「隊長、お連れしました!」

「ご苦労」

 ノックの音に返ってきた声は、女性のものだった。

「どうぞ、お入りください!」

「「失礼いたします」」

 扉を開けてもらい中へと入ると、若い女性騎士が迎えてくれた。


「やあ、ひと月半ぶりかな? マツモト殿、アンネマリー嬢」

「え? フランボワーズさん?」

 待っていたのは、フェルカー家の魔法騎士団長であるフランボワーズだった。

 フェルカー侯爵家は魔法騎士が主力なので、実質フェルカー家の騎士のナンバーワンである。


「急いでいるところすまない。まずは掛けてくれ」

「「失礼します」」

 フランボワーズに促され、勇とアンネマリーが対面のソファに腰を下ろす。フェリクスとミゼロイがその後ろに立った。

「フフッ、色々と聞きたい事があるだろうから、まずは説明させてもらおう」

 すぐにでも質問攻めされそうな状況を察知して、フランボワーズが小さく笑って説明を始めた。


「まず私がここにいるのは、サミュエル閣下からの指示なのだ。おそらくマツモト殿らが来るはずだから、合流して話をせよ、とな」

「閣下が……。なぜ我々がここを通ると考えたのでしょうか?」

「少し前にカポルフィからアバルーシらが撤退した。にもかかわらず、プラッツォの街道がまともに通れない状況が依然として続いている。斥候によれば、少し前から南側の街道にまた魔法巨人(ゴーレム)が出没するようになったらしい」

 やはりプラッツォとの国境がある大貴族だけあり、情報収集能力は優れているようだ。

「そんな国境付近から、つい最近魔法巨人(ゴーレム)の気配が減り始めたそうだ。そして時を同じくして、今度はプラッツォ北東部での目撃例が増えてきた。おそらく南部にいた魔法巨人(ゴーレム)が徐々に移動しているのだろう」

 このあたりの話はリリーネからの手紙に書いてあった通りなので、間違いないだろう。


「閣下はまだ今回の話は終わっていないと見ている。むしろこれからが本番であろう、と。そんな中、貴殿らは自領が襲撃された時に一旦戻ったものの、間を開けずにまた自領を発ち、再びバルシャム領に滞在している。濡れ衣が晴れ、領主が戻っているにもかかわらずな」

 どうやら勇たちの動向も、ある程度把握されているようだ。

「それと表には出ていないが、貴殿らは一度ピッチェ近郊の村でアバルーシのものと思われる魔法巨人(ゴーレム)と交戦、勝利をおさめているな?」

 ニヤリと笑ってフランボワーズが続ける。

「これはつい最近その村で話を聞いて知った事だがな。それらに加えて、先の御前試合や合同討伐で見えたマツモト殿の性格を加味すると……」

 一旦そこで言葉を切り、しばしじっと勇を見つめる。

「おそらく少数精鋭でプラッツォへ潜入し、何かしら行動を起こす可能性が高い、と閣下は言っておられた。南か北か、どちらから行くかは分からないが、アバルーシの動きを見ると七三で北であろう、と。そうなると、必ずここを通ることになるから、会って来いと言われたのだ」

「…………なるほど。で、会ったうえでどうしようと?」

 フランボワーズの話を否定も肯定もせず、勇が問い返す。


「お前が同行し、必ずフェルッカへ連れてこいと言われている」

「はい?!」

 想像しなかった返答に、勇が思わず間抜けな声をあげる。

「是非直接会って話がしたいそうだ。まったく、閣下にそこまで言わせるとはなんと羨ましい……」

「え?」

「ああ何でもない。このまま街道を行けば領都のフェルッカだが、貴殿らはそのまま通り過ぎるだろうから、何としても連れてくるようにと言われている」

「……分かりました。侯爵である閣下に言われては、寄らないわけにはいきませんね。しかし我々にはあまり時間がないのですが、すぐにお会いできるんですか?」

「最優先で会うと仰られていた。先客がある場合は多少待つことになると思うが、次の客の前にはお会いになっていただけるはずだ」

 そこまで優先して話す内容とは一体何なのか少々怖くなる勇であったが、逆にそこまで言われてしまうと行かないという選択肢も無くなる。

 かくして思わぬメンバーを加えた一行は、それ以上特に何かを追及されることもなく、再び街道を北へと進んでいった。


 途中一度休憩を挟んで四時間ほど。午後も随分と遅くなった頃に、フェルカー侯爵領の領都フェルッカが見えてきた。

「すごいな、この魔動車という乗物は……。砦から馬車だと丸一日はかかるというのに」

 道中はその揺れの少なさに驚いていたフランボワーズが、今度はその速さに驚いている。

「街道がきちんと整備されてますからね、運転も楽でしたよ」

 バルシャム辺境伯領の街道もしっかりとしていたが、フェルカー侯爵領の街道も道幅が広くメンテナンスもしっかりしていた。

 フェルカー家が、代々手間暇かけて整備してきた証と言えよう。


 さらに数分走ると、街の全容が見えてくる。

 白っぽい外壁にぐるりと囲われた街の中央にはなだらかな丘があり、そこに建つ特徴的なこの街の家の一部が城壁の上から顔を覗かせていた。

 街の南側にある大きな正門には、午後の中途半端な時間にもかかわらず行列が出来ている。

 北部最大の都市だけあって、人の出入りが激しいのだろう。

 そんな行列を横目に、勇たちはフランボワーズに誘導され、正門からやや離れた位置にある騎士団専用という門へと向かった。


「こ、これはフランボワーズ隊長! お帰りなさいませ!!」

 突然近付いてきた奇妙な乗り物に警戒をあらわにしていた門番だったが、魔動車からフランボワーズが顔を出すと敬礼で出迎えた。

「うむ、ご苦労。サミュエル閣下の命により、クラウフェルト家の方々と迷い人マツモト殿をご案内している」

「はっ! お話は伺っております。 するとこの珍妙な乗り物が魔動車……」

 フランボワーズの説明を聞いた門番が、興味深そうに魔動車を見る。

 領境で言っていた通り、やはり騎士の間では魔動車は有名なようだ。

「この足で領主の館まで行くから、四騎で随伴してくれ。私はこのまま魔動車に乗っていく」

「かしこまりましたっ!」

 返事をした門番が駆けていくと、別の門番が勇たちを誘導する。



 そのまま門をくぐり兵舎の中庭を通って敷地から出ると、そこには綺麗な街並みが広がっていた。

 石造りの建物と木造の建物が混在しているが、外壁が白を基調とした建物が多いためか雑多な感じはしない。

 そして何より特徴的なのがその屋根だ。

 外壁は白基調とは言えよく見ると様々な色が見られるのだが、どの建物も屋根だけは赤レンガを使った三角屋根をしており、街並みに統一感と温かみを出していた。屋根の傾斜がきついのは、雪が深いからだろう。


「……綺麗な街並みですね」

 その景色に思わずといった感じでアンネマリーが零す。隣でハンドルを握る勇もまた頷く。

「フフ、そうか。ありがとう。ここに街が出来始めた頃は、材料の都合でたまたま同じ屋根だったというだけらしい。それがいつしか、皆が示し合わせたように同じ屋根で建物を建てるようになった。今も別に規則があるわけでは無いのだがな」

 そう説明するフランボワーズの顔は、どこか誇らしげなものだった。

「クラウフェンダムの街並みも、特徴的で非常に綺麗だとサミュエル閣下が仰っていた。私も是非一度見てみたいものだ」

「閣下がそんなことを?」

 まさかの言葉に、アンネマリーが目を丸くする。


「ああ。あの良さが分からぬ人間は、美的感覚が決定的に欠落しているため一生分かり合えぬ、と仰っていたよ」

「ぶっ!!」

 続けて出てきた思わぬ台詞に、今度はイサムが噴き出した。

「?」

「ふ、ふふっ、誰かさんと同じことを仰っていますね」

 理由が分からないフランボワーズが小さく首を傾げ、勇がかつて言った言葉と同じである事を思い出したアンネマリーが楽しそうに笑った。

「いつでもいらしてください。ご案内しますので」

 そういうアンネマリーの顔も、先程のフランボワーズと同じようにどこか誇らしげだった。


 四騎の騎馬に四方を守られながら街中をゆっくり進む事十五分。

 街の外からも見えた、なだらかな丘の頂上へと辿り着く。

「フランボワーズ様が、お客様をお連れしてお戻りになられた。閣下への取次ぎを頼む」

 先頭を進んでいた騎士が、植物っぽい装飾が施された美しい門に立つ守衛にそう声をかけると、ゆっくりと門が開いた。


 門をくぐり、新緑が茂る植栽が目に優しいアプローチを進むと、やがて大きなロータリーを備えたエントランスへと辿り着いた。

 家人と思しき面々が10名程、整列して出迎えてくれていた。

 馬車寄せに魔動車を停めて降車すると、品の良い老紳士が代表して声をかけてきた。

「アンネマリー・クラウフェルト様、迷い人イサム・マツモト様、そしてクラウフェルト家の皆様方、ようこそおいで下さいました。フェルカー家で執事長を務めておりますトーマスと申します」

「「「「「いらっしゃいませ」」」」」

 トーマスの完璧なお辞儀に続いて、後ろに控える家人も一斉に綺麗な礼をする。上級の使用人たちなのだろう、皆所作が非常に美しい。


「お出迎え感謝します。トーマス殿」

 こちらも代表してアンネマリーが微笑みを湛えて挨拶を返した。

「主人が待っておりますので、ご案内いたします。フランボワーズ様も同席されよとの事です。皆様、どうぞこちらへ」

 トーマスがそう言い振り返ると、エントランスの扉がゆっくり開く。

 どうやらフランボワーズが言っていた通り、最優先で会ってもらえるようだ。

 シャルトリューズ家の教訓を生かし、魔動車に見張りを一人ずつ残して一同は領主の館へと入っていった。


 応接の控室に入ってしばらくすると、応接室へ繋がる扉がコンコンコンとノックされる。

「はい」

「お待たせいたしました。主人が参りましたので、こちらへお越しください」

 アンネマリーが返答すると、先程案内してくれたトーマスの声が聞こえてきた。

「ありがとうございます。それでは失礼いたします」

 礼を言ってから、アンネマリー、勇、護衛のフェリクスとミゼロイ、そしてフランボワーズが席を立ち応接の扉を開けた。


「よく来てくれた。急いでいるところ手間を取らせたな。フランボワーズもご苦労だった」

 出迎えたサミュエルが、勇たちにねぎらいの言葉をかけてくる。

「いえ、ちょうどこちらへ来る用事がありましたので……」

 武装解除を求められていない時点で詰められるような話ではないと思っていたが、予想以上に軟らかいサミュエルの態度に勇たちは少々困惑する。

「まずは掛けてくれ。さほど時間はとらぬ」

「「失礼いたします」」

 サミュエルが座ったのを確認して、勇とアンネマリーも腰を下ろす。護衛の二人は定位置である背後へと回る。

 一緒に入室したフランボワーズもサミュエルの後ろに立ち、もう一人の騎士と共に護衛についた。


「さて、時間もないので単刀直入に聞こう」

 全員が着席し、出された紅茶を一口ずつ口にしたのを見計らって、早速サミュエルが切り出した。

「貴殿らは、誰に喧嘩を売りに行くつもりかね?」

「……」

「ふむ。腹芸はまだまだ、か。表面上プラッツォからアバルーシが去った今、わざわざ敵対派閥の領地を通ろうというのだ。何かしら我々の知りえぬ情報を持ち、それを元に行動を起こしたであろうことは想像がつく」

「……」

 勇たちが何も言わない事を肯定と受け止め、サミュエルが言葉を続ける。


「動きがあったのは、貴殿らが自領に戻った後だ。そうなると何かしら賊と関係ある情報をそこで得たと考えるのが妥当だ。しかしそれを正直に上げたところで、ヤーデルード閣下らに横槍を入れられると踏んだ。そこで自らの派閥のみで片付けようと行動を起こした……」

 そこで一旦足を組みなおして、なおもサミュエルが続ける。

「どんな情報を掴んで何をしようとしているかは分からんが……。まぁ穏やかに話し合いに行くようなことは無かろう。おそらく相手はズンであろうしな」

「っ!?」

「そこまで驚くことはあるまい。近隣で我々に敵対する国など決まっているし、プラッツォを巻き込むなら十中八九ズンだろう。連中も隠し通せるとは思っておるまい」

「…………そうだと仮定して、閣下は如何するおつもりでしょうか? 我々を拘束するような素振りもありませんし」

 勇がどうにか質問を投げかける。


「ヤーデルード閣下から、クラウフェルト家を監視せよとのお達しがあった。撤退したアバルーシと裏で繋がっているやもしれぬから、北東側からプラッツォに入って合流する可能性がある、とな」

「なっ!?」

「まぁ言っておられること自体はおかしくは無い。いまだクラウフェルト家が白か黒か断定する証拠がないのだからな」

 王家と多数貴族による推定無罪を勝ち取ってはいるものの、まだ物証が出ていないのは事実だ。

「なので、今回は私自らも同行し、監視することにした」

「なるほど、閣下自らが同行……、えっ??」

 さらりととんでもないことを言ったサミュエルに勇が絶句する。

 サミュエルの後ろでは、フランボワーズももう一人の騎士も目を丸くして驚いているので、彼らも初耳だったのだろう。


「なに、ヤーデルード閣下からの頼みだからな。私自らが赴いてもおかしくあるまい」

「え、あ、ですが……」

「ん? 何か不服かね。ああ、もちろんフランボワーズにも引き続き同行してもらう。さすがに私一人という訳にはいかんのでな」

「は、はっ! どこまでもお供いたします!!」

 敬愛するサミュエルから同行を告げられたフランボワーズが、声を裏返らせながら承服する。

「い、いや、しかしですね」

 もはや同行が決まった前提で進む話に、勇とアンネマリーは戸惑うしかない。


「ああそうだ。私個人は貴殿らが白だと確信している。なので、貴殿らが何をしようと止めるつもりはない。ああ、もちろん我が国に仇なすとなれば話は別だがな」

「えっ? しかしそれでは監視が……」

「ん? 監視せよとのお達しはあったが、阻止せよとの依頼は受けておらん。何も問題あるまい」

「いや、確かにそうですが……」

 詭弁だ。と思う勇ではあったが何も間違ってはいないので、二の句が継げない。


「それに、彼らはちょっと調子に乗り過ぎた。貴殿らには申し訳ないが、クラウフェルト家をやり玉に挙げて魔石をせしめるくらいであれば目を瞑ったが……」

 そう言って一度言葉を切る。

「これ以上何かをやろうというのはいただけない。それではバランスが崩れてしまう。崩れたバランスは容易には戻らない。それだけは止めねばならんのだ」

「なっ!」

 そこまで言ったサミュエルの身体がぼんやり光り、その光が激しく渦を巻くのを勇の目が捉え、思わず勇が腰を浮かして身構える。

「閣下っ!」

 フランボワーズも何かを感じ取ったのか、慌てたように声をかけた。


「ああ、すまない。少々魔力を抑えきれなくなってしまったよ。しかしそうか、マツモト殿にも今のが見えたのだな」

 ほんの一瞬ではあったが、とてつもなく濃い複数属性の魔力が練り上がったのを勇の目が捉えていた。

 同時に複数の属性の魔力を扱うのを見たのも初めてだし、その魔力の濃さもこれまで見た中でトップクラスだ。

 王国一の魔法使いと言われるその片鱗を垣間見た勇であった。


「と言うわけで、しばらくよろしく頼む」

 そして、そんな事など無かったかのように、サミュエルが言う。

「は、はぁ……」

 勇としても断るに断れず、なし崩し的にまさかの侯爵家の当主、それも敵対派閥の重鎮を連れていくことになってしまうのであった。

週2~3話更新予定予定。

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― 新着の感想 ―
たしかにゴーレムは勇の作り出したもので創意工夫して倒すと思ってた。 まさか過去のモノを使うっての今までの戦い方からすると平凡。旧魔法とかで面白いだけに残念。 まぁ、作者さんの作品ですから思うがままにっ…
相変わらず食えない御仁だなぁ
[一言] ゴーレム出て来てからつまらなくなりました。 結局既存の機体使うから今までの魔法陣の発見発展は何だったのか。 勇の魔道具兵器でゴーレムに乗らずに倒して、今まで魔法陣を発見発展させてきたことを見…
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