●第188話●リリーネからの連絡
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「まだまだ課題もあるが、まぁ十日間の訓練でここまで動けるようになってれば十分だな」
「フォフォフォ、そうだの。元々素養がある者ばかりとは言え、様になっておったわい」
模擬戦が終わった日の夜、打ち上げを兼ねた反省会が行われていた。
単に動かせるだけでよければ、早い者は三日もあればかなり自由に動かせる者もいるが、まともに戦闘が出来るようになるまでとなると、一月近くかかるのが普通らしい。
魔力パスの高さや元々の戦闘経験の豊富さもあるが、これまでアバルーシ内に閉じていた訓練が、様々な出自のものが一堂に会して行われたのも大きいのだろう。
アベルと同じ地球から来た勇を筆頭に、メンバー同士が多角的な検証とアドバイスをしあった結果、皆の成長速度が上がったと勇は考えていた。
「そろそろリリーネ様からの定期連絡が入るはずだ。おそらくそこに、作戦決行のタイミングが書かれている」
リリーネも表向きはズンに協力していることになっているため、プラッツォ王国のカポルフィが拠点になっている。
南部の国境線には定期的に偵察に出るため、そのタイミングで定期的な連絡があるのだそうだ。
勇たちと接触後、カポルフィへと帰還する途中で送ったものが1回と、帰還後に1回連絡があった。
帰還後の連絡が、ちょうど十日前なので、そろそろ来るはずだとノーマンが教えてくれた。
「ホントはもっと鍛えてから送り出してやりたいんだが、そこまでの時間は無いからな……」
ノーマンが悔し気に顔をしかめながら言う。相当に不本意そうなので、本心からの言葉だろう。
この後に待ち構えているのはルール無用の実戦なので、様になってきてるとはいえ不安は付きまとう。
「こればっかりは仕方がないですね。時間が経つほど相手側が有利になりますし」
勇の言う通り、10日間の訓練期間は情勢を考慮するとギリギリのラインだ。
訓練開始日に届いたリリーネからの手紙によると、クラウフェンダムで魔石を奪った魔法巨人たちは、シュターレン王国内をバラバラになって逃走した。
内通している貴族の領地を通りながら移動し、街道以外の場所からプラッツォ王国へと入りカポルフィへと集結したらしい。
クラウフェンダムを襲った機体が戻ってくると、半数以上の機体が翌日にはカポルフィから撤退を開始。ズンへと魔石を持ち帰った。
残った機体と野盗に扮したズンの兵士、そしていまだに残る多数の魔物によって、街道の封鎖は続けられているそうだが、戦況が危うくなればプラッツォを放棄して撤退せよとの命が下っているそうだ。
一番の目的であった、大量の無属性魔石の入手に成功しているため、問題無いとの判断だろう。
ズンでは、もたらされた魔石を使って早速第一世代の操縦訓練が開始されたようだが、次にどう動くかはまだ知らせが無いと締め括られていた。
「やはり引きましたね」
「いくら多数の魔法巨人がいるとはいえ、後詰めが無い状態で長時間孤立するのは自殺行為ですからね……。こちらに情報がなるべく洩れない妨害工作に専念しつつ、本命の準備をしている感じでしょう」
勇の呟きに、フェリクスがあらためて状況を整理して答える。
「クラウフェンダムが襲われた後、国内に警戒態勢が敷かれたようですが、こちらも後手ですな……」
「そうだな。当主が王都に集まっている状態では、万全の体制は望めないし、そもそも逃走経路に使える内通貴族の領地がクラウフェンダム周辺にいくつもあっては、効果も望めまい」
ミゼロイの感想にフェリクスが溜息を漏らす。
シュターレン王国の動きも、領地に戻ったルビンダ・バルシャム辺境伯から何度か報告を貰っていた。
クラウフェンダムが襲われた事でようやく行動をとれるようになったシュターレン王国ではあったが、魔法巨人である事は確かでも、それが件のアバルーシの物だと断定する根拠は無い。
決めつけてプラッツォへ軍を差し向けようものなら、ズンから侵略目的の行軍と突っ込まれて戦争を正当化する口実を与えることになってしまう。
そのため、王都に集まっていた当主たちを自領へと急ぎ戻し、警戒態勢をとらせつつ国境警備を強化するくらいしか手の打ちようがない。
しかしそれも、事前に準備していた相手には前述の通り大した成果も無く時間が過ぎていた。
ちなみに無理やりな理論で内通の嫌疑をかけられていたセルファースも、国王や多くの貴族により無実と認められ、勇たちがクラウフェンダムを発ってしばらくして領地に戻ったようだ。
一方街を占拠されたプラッツォ王国も、しばらく後にようやく妨害網を突破した伝令により状況を把握する。
しかし、そもそも軍事力があまりない上散発的に魔物が発生する状況が続き、その対処に手を焼いていた中の出来事だったため、まとまった戦力を送る事が出来ない。
また、兵力の多くをズンとの国境に配備しているため、そこから兵を割くと隙を晒すことになるため思い切った動きが取れないでいた。
その後ようやくプラッツォから正式な救援依頼がシュターレン王国へ届き、それを受けたルビンダがカポルフィへと兵を送る。
しかし、敵はすでに撤退やむなしの命令が出た後とあって、しばらく抗戦した後あっさりとカポルフィを放棄して退却してしまった。
敵が去り大義が無くなったため早々に兵を引くしかなくなったと、数日前悔しそうにルビンダから報告が来ていた。
「これで見かけ上は平時に戻ってしまったのがまた厄介ですね……」
「ええ。父上も水面下で動く以外に無いと、悔しそうに報告書に書いていました」
状況整理を終えて溜息をつくフェリクスに、父親がルビンダの側近であるローレルが言う。
こうして次の動きをどうするか決めかねている一行の元に、待ちに待ったリリーネからの連絡がもたらされた。
「これは…………。いよいよ本気ですね」
「当然と言えば当然ですが、第一世代を惜しみなく投入してきますね……」
待ちに待った連絡ではあったが、その内容にフェリクスと勇が唸る。
リリーネからの最新の情報によると、間もなく第一世代のゴーレムを主軸にしたズンの先鋒部隊が、プラッツォ王国へ進軍するとの事だった。
その数270体。本土の防衛に50体ほどを残し、それ以外はすべて今回の作戦に投入するようである。
また、魔法巨人の進軍に合わせて、騎馬も700騎ほど随伴するそうだ。
「歩兵を切ったところをみると、速度重視ですか……?」
「だろうな。本当は魔法巨人だけでいきたい所だろうが、今回は占領・統治する必要があるからな。それに、魔石の消耗が激しいとの事だから、馬車も結構な数を使うだろうな」
潔く歩兵を切り捨てた編成に、ミゼロイとフェリクスがそんな予測を立てる。
元々ズンは、兵力の多くが歩兵戦力だ。
その総数はおよそ五万程と言われている。対して騎兵の数は一万に満たず五千程だ。
数からいったら当然シュターレン王国も歩兵のほうが多く、騎兵一万六千に対して歩兵が六万程である。
この世界の騎兵イコール騎士なので、ズンは騎士が少ない事になる。
また、軍馬というのは育てるのにお金と手間がかかるため高価なのだが、国内に生産地の無いズンには揃えるためのハードルが高いのも大きな要因だろう。
ちなみにこれらの数は常設軍、いわゆる職業軍人だけの数だ。
ズンは有事の強制徴兵があるし、シュターレンには予備役があるので、総動員数となるともっと多くなる。
「プラッツォへ進軍後は部隊を分けるのか……」
リリーネからの報告の続きを見ながらフェリクスが呟く。
全軍でプラッツォ中央部から進軍した後は、隊を三つに分けるようだった。
王都を目指す、魔法巨人200と騎馬300からなる主力部隊。
南からの援軍を足止めする、魔法巨人50と騎馬200からなる第一遊撃部隊。
そして東からの援軍を足止めする、魔法巨人20と騎馬200にアバルーシの魔法巨人を加えた第二遊撃部隊だ。
リリーネも当然この第二遊撃部隊に配置されている。
また、騎馬3000、歩兵2万からなる本隊も、日を同じくしてズンから出兵するとあった。
「作戦としてはシンプルと言えばシンプルですね」
「そうですね。先行する主力部隊が速度を活かして王都付近まで一気に攻め入り街を占領、そこを橋頭堡として王都にプレッシャーをかけつつ本隊の到着を待つ」
「遊撃部隊は……南部は再びカポルフィを、東部はメラージャをこれまた電撃的に占領し、本隊到着までの時間稼ぎをする役割ですな」
「アバルーシの魔法巨人30であっという間にカポルフィを落としたことを考えると、十分な戦力ですね」
書いてある内容を確認しながら、紙に簡易な地図を描きながら相手の動きを頭へ入れていく。
「で、我々の任務は、この第二遊撃部隊がメラージャを落とす前にアバルーシの魔法巨人の潜伏地点を強襲、10体以上奪取する、か……」
手紙の終わりの方を読んでフェリクスがまとめた。
「手紙を出した時点で八日後という事は、今日から六日後。ズンの魔法巨人が合流して作戦が開始されるのがその三日後なので、あと九日……」
勇が残りの日数を計算していく。
「アンネ、このメラージャの街というのはどのあたりにあるんだっけ?」
「メラージャはフェルカー侯爵領の北部にある街道を馬車で二~三日西へ進んだ所なので……この辺りですね」
土地勘のない勇に質問されたアンネマリーが、ざっくりとした位置を地図へ書き込んでいく。
「ありがとう。うーん、フェルカー侯爵領を縦断するしか道は無い感じですね……」
「そうなりますな」
「……すんなり通してくれますかね?」
「事を起こしたヤーデルード公爵の派閥ですが、緊急招集時の言動を考えれば大丈夫そうな気はしますが……」
勇の問いに、フェリクスが先日のことを思い出しながら答える。
アンネマリーが教えてくれた場所なら、距離的には魔動車を飛ばせば問題無いので、後は道中に余計な障害があるかどうかが最大の懸念となる。
その最たるものが、内通貴族の妨害であろう。
「あの時フェルカー閣下は相当お怒りの様子だったので、妨害されるようなことは無いかと」
フェリクスの言う通り、緊急招集から梯子を外された形になったサミュエルは、不愉快そうだった。
ばかりか、敵対する派閥の領を通らないようにとアドバイスまでくれたことを勇も思い出す。
「確かに……。しかしこれ、もしフェルカー閣下も内通者の一味だったら、完全に手詰まりでしたね……」
「……そう考えると恐ろしいですね」
これでサミュエルが加担していたら、間違いなく間に合わなかっただろう。
たまたま読み間違えたのか何なのか理由は定かではないが、梯子を外してくれたヤーデルード公爵には感謝するしかない。
「では、そのあたりは問題無いものとして、すぐに出発しましょうか」
「了解しました。今回も最低限の積荷でいきますか?」
「そうですね。速度優先でいきましょう」
「分かりました! すぐに準備に取り掛かります!!」
ここ数ヶ月で、魔動車での移動に皆も随分慣れたので、あっという間に準備が進んでいく。
「イサム殿、その魔動車は魔法巨人を運ぶためのものなのだろう? だったら予備機を積んでいってくれ」
準備を進める中、ノーマンから思わぬ提案を受ける。横で話を聞いていたグレッグも頷いているので、里の総意という事なのだろう。
「え!? それはありがたいですが、でもこの機体は……」
訓練が開始したタイミングで、バルシャーンにある貨物タイプの魔動車を一台持ってきているので、魔法巨人をキャリアータイプに積んでも人員や荷物を運ぶのに支障はない。
しかし、これまで千年以上大切に隠してきた機体を、おいそれと持ち出す訳にもいかない。
「有事の際まで隠す、というのが大ボスの遺言だ。まさに今回のような事の為に使わずに、いつ使うというのか……。さすがに大ボスの機体は貸せないが、予備機なら問題無い。ぜひ活用してくれ」
「ノーマンさん……。分かりました、ありがとうございます。任務を遂行して、綺麗なままお返ししますよ」
真剣な表情で言うノーマンのお願いを無下にするわけにはいかない。
勇はその申し出を有難く受け、交換用のパーツ類と共に山吹色の魔法巨人をキャリアーに急いで積み込んでいった。
荷物を積む傍ら、リリーネからの情報をクラウフェルト家はもちろん派閥の貴族家と王家に伝える手配をする。
南側からの援軍はもちろん、北東側からの援軍も必要になる。
自領の警備をおろそかにしない範囲で、兵を出してもらえるように依頼をする。
もっとも依頼などしなくても、状況を伝えるだけで最良の選択をしてくれるという確信が勇にはあった。
「身内の不始末を押し付けるような事になってすまん……。リリーネ様を頼んだぞ」
諸々の準備を終えた勇達一行が魔動車に乗り込んでいると、ノーマンがそう言って頭を下げてきた。
「いえ、ウチの貴族の内通もありますし、お互い様ですよ。リリーネさんは無事お守りするのでご安心ください」
謝るノーマンにそう言うと、ガッチリと握手を交わす。
「では、行って来ます」
こうして勇たちは、迫りくる魔法巨人の脅威を止めるべく、一路北へと向かうのだった。
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