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【マンガ版連載中】異世界は猫と共に ~システムエンジニアは失われた古代の魔法理論を解析し、魔法具界に革命を起こす 【書籍4巻&コミック1巻 2025年9月同時発売!】  作者: ぱげ
第10章:派閥領行脚

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●第157話●エリクセン伯爵領

ブックマーク、評価していただいた皆さま、本当にありがとうございます!!

週3~4話更新予定です。

 降り注ぐ陽の光に、徐々に何が起こったのか一行が理解していく。

 そして感情が爆発した。

「うぉぉぉーーーーっ!? ここ、今度はメーアトル様か!?」

「間違いねぇ! メーアトル様の化身は白い蛇だって言い伝えがあんだろ?」

「あんなデカい蛇、女神様じゃ無けりゃ俺たちは丸呑みされちまって終わりだろ」

「雨を止ませるなんて、どんなえらい魔法使いでも無理だよな……」

「ルサルサ様だけじゃなくてまさかメーアトル様まで……。オリヒメ様はすげぇな」

 皆が興奮しながら、口々に先程の出来事を語っていた。


「はーー、ほんとイサム様といると飽きねぇわ。生きてる間にまさか二人の女神様に会えるとは」

 かっかっかと笑いながら船長のレベッキオが勇に話しかける。

「いやぁ、私も驚いたのなんのって……。凄いのは私じゃなくて姫ですけどね」

「な~~ん」

 苦笑しながら勇が織姫を撫でる。

「オリザの事も気にはなるが、雨が上がったのが何よりありがたいぜ。まだ三日はかかるからな。ずっと雨だと気が滅入っちまうわ」

「そうですね。身体もあまり動かせなかったですし、魔動車に引き籠り過ぎていいかげん腰が痛くなってきてましたよ。お陰様で、船の推進魔法具の試作がほぼ出来上がりましたけどね」

 中々雨が止まないので、結局勇とエトとヴィレムは、ほとんどの時間を推進用水車の試作に充てていた。

 最初はチームオリヒメの面々が珍しそうに代わる代わる見に来ていたのだが、モノづくりオタク独特のテンションについていけず、三日目には誰も見に来なくなっていた。

 毎日停泊する川港は当然船の修理も出来るようになっているので、必要な素材も手に入る。

 おかげで後は取り付けて実験できる状態まで仕上がってしまっていたのだ。


「船の後ろに付けるんだったか?」

「はい。双胴船なので船体後方の真ん中に取り付けようかと」

 両サイドにつける事も考えたが、二系統の魔法具を用意するか一系統を分離させなければならない上、ある程度船体に手を入れなければならず手間がかかるため見送った。

 二系統にして個別に回転数を制御できるようにすれば旋回させたりもできるのだが、また別の機会にとっておく。

 その後船の図面を見たり、下側を覗き込みながらどこに取り付けるのかを確認しているうちに、本日停泊する港へと辿り着いた。

 船体の下側に取り付ける必要があり、川に浮かべたままでは作業が出来ないため、修理用のドックに入った。

 食事を取って一休みした後、勇、エト、ヴィレムと船長を始めとしたクルーたちはドックで取り付け作業に取り掛かった、

 簡易なクレーンのような機材で軽く船体を持ち上げると、ソリのようになっている船体の中央後方に推進用の水車をあてがってみる。


「回転の軸は水面の上になるから、長持ちしそうじゃの」

「ええ。整備もこの方がし易いと思いますし、浅いところでも安心ですよ」

 エトと勇が様子を見ながら取付位置を決めていく。

「なるほどなぁ、この上の部分に風を当てて水車を回して進むわけか」

「はい。使わない時はこうやって引き上げられるようにしてあります」

 そう言って水車を囲うように付いている外枠についた取っ手を持ち上げると、外枠ごと水車が引き上げられた。

 トラクターのロータリーを上げ下げするような動きだ。

「あと、稼働時間はちょっと落ちますが、安くて手に入りやすい小魔石で動かせるようにしてあるので、急ぎたいというお客さんからちょっと特別料金を貰って使えるんじゃないかと」

「なんと、小魔石で動かせるのか!!」

「はい。どれくらいの出力が必要か分からないので何とも言えないですけど、二~三鐘(三~四時間半)くらいは動くはずです」

 同じく小魔石で動く試作軽魔動車と同じ出力であれば三時間、それより弱めれば弱めた分だけ稼働時間は伸びる。

 この辺りは、実際に航行させながら試すのが早そうだ。

 その後、仮止め→水に降ろして確認→調整→水に降ろして確認という作業を何度か繰り返し、日が替わって少しした頃に取り付け作業が完了した。


 翌朝、朝食を摂って出港準備を済ませると、すっかり天気の回復したメーアトル河へ船は繰り出していく。

「おお! コイツは確かに速ぇな! 倍まではいかねぇが、五割増くらいにはなってるな」

 レベッキオが少々興奮気味に言う。

 川の中央まで出て安定したところで早速水車を稼働させてみると、軽魔動車と同じ出力で何もしない場合の1.5倍ほどの速度が出ることが分かった。

 あまり速度を出してもそれ用に船体が作られている訳では無い。

 喫水が浅いとは言え、水の抵抗は空気抵抗よりはるかに大きいので、安全面を考慮してこれくらいまでにしておくのが無難だろうという話になった。

 それでも魔石を惜しまず使えば、残り三日の旅程を二日に短縮できる。

 どの程度まで速度を出しても大丈夫なのかは、また後日レベッキオたちに調べてもらえばよいだろう。

 こうして魔改造を施した輸送船で河を下る事二日。ついにエリクシブルグの最寄りである、メーアトル河で最も下流にある港へと辿り着いた。


「レベッキオさん、ありがとうございます。買ったばかりの船を改造しちゃってすみません……」

「いやいや。前回の雷玉もそうだったけど、今回のコイツも結局タダで貰っちまってるからな……。礼を言うのはこっちだぜ」

 翌朝、出発前に勇の口から出てきた謝罪の言葉に、慌てて両手を振ってそれを否定するレベッキオ。

 勇としては、思い付きと自分たちの都合だけで作って勝手に取りつけてしまっているし、逆に不要だと言われても困るので快く貰ってもらったほうがありがたいのだ。


「そういやここでの滞在も短くなる可能性があるんだろ?」

「そうですね……。少し早めるかもしれません」

「分かった。んじゃあ俺らはここに留まっていつでも出られるようにしておくぜ」

「それは非常にありがたいですが、大丈夫なんですか?」

「ああ問題ない。それにこの魔動水車で色々と試してみたい事もあるしな。かえって好都合だ」

「そう言ってもらえると助かります。では行って来ますね」

「おう。気を付けてな」

 レベッキオにしばしの別れを告げると、勇達はエリクセン伯爵領の領都エリクシブルグへ向けて、およそ一週間ぶりに魔動車で走り出した。


 最寄りの港からエリクシブルグまでは、馬車だと三日の距離だという。

 魔動車であれば一日でも行けるであろう距離だが、夜遅くに到着しても迷惑がかかるので、途中で一泊しながらエリクシブルグを目指す。

 

 エリクセン伯爵領は内陸部にある領地で、やや乾燥した草原と森林が散在する森林ステップのような所らしい。

 クラウフェンダムから随分南下してきたので、植生もかなり異なる。

 車窓から見える木々も、針葉樹がほとんどだったクラウフェンダムに対してこの辺りは広葉樹の割合が多く、勇の目には新鮮に映った。

 さほど起伏も無く走りやすい街道をひた走ること六時間ほど。午後の遅い時間になって本日宿泊予定の町へと辿り着いた。


 ぱっと見た感じ、特に貴族用の入り口が分かれているようなことはなさそうなので、いらぬ騒動にならないよう少し離れたところに魔動車を停めていると、衛兵らしき人物から声をかけられた。

「ひょっとしてアンタたちがクラウフェルト家のイサムさんたちかい?」

 衛兵らしき、というのは、真っ青な革鎧に身を包んだその風貌がどう見ても衛兵のそれではないからだ。失礼を承知で言えば、どちらかというと衛兵に取り締まられる側だろう。

「ええ、そうですが……」

 戸惑いながら勇が首肯する。

「おお! やっぱりか! その紋章は今やウチんとこでは有名だからな。無敗を誇っていたあの隊長をぶっ倒したってな」

 衛兵(仮)はそういうとガハハと笑った。

 無敗の隊長とはガスコインのことだろう。それを隊長と呼ぶということは、彼もまたやはり傭兵騎士団の一員のようだ。

 そう思って見てみれば、確かに着ている鎧もガスコインたちが着ていたものと同じ気がする。

 

「えーっと、入場の手続きをお願いしたいんですが……」

「手続き? ああ、アンタらのことは大将から聞いてるから手続きは不要だ。あの馬車、いや馬車なのか?? 馬がいねぇ……」

 そこまで言って魔動車に馬がいないことに気が付き目が点になる。

「ああ、あれは魔動車と言って、魔石で動いているんですよ。まぁ乗り物の魔道具ですね」

「マジかよ……。そういや隊長も言ってたな、クラウフェルト家は腕だけじゃなく魔法具もすげぇって。まぁ馬車みたいなもんなら、そのまま入ってくれ。馬が無い分馬車より小さいし、問題ねぇよ」

 割と大雑把なところが、傭兵っぽいと言えば傭兵っぽい。

「ありがとうございます」

「おうよ。あ、もし時間があったら手合わせしてくれ! あの隊長に勝てるヤツなんてそうはいないからな」

「こらっ、ウェイン! てめぇ何サボってる上に抜け駆けしようとしてやがるっ!!」

「おっと、やべぇやべぇ。おーい、お前らちょっと道を空けて、この魔動車ってのを通してくれ! うちの大将の客人だからな、余計なコトするんじゃねぇぞ?」

 上官と思しき衛兵にどやされたウェインが、慌てて門前で様子をうかがっていた面々に声をかける。

 しかし上官の怒るポイントが、強そうなやつと戦おうと抜け駆けしたこと、というあたりが、実に戦闘民族っぽい。

 勇は魔動車をゆっくり前進させながら、これはとんでもないところに来てしまったのかもしれないなと、少々顔が引きつるのだった。


 町中をゆっくり走っていると、勇は自分の嫌な予感が的中したことに苦笑する。

「お? その紋章はクラウフェルト家か! 是非、手合わせをお願いしたい!」

 10分も走らないうちに、まるで屋台の呼び込みくらいの気軽さで5人に手合わせをお願いされたのだ。

 さすがに強引に襲ってくるような輩はいないが、仮にも貴族が乗っている乗り物にかけていい声では無い気がする。

 いや、貴族の乗っている馬車には、そもそも声をかけることなど普通はしないだろう。


「……すごいところですね、ここは」

 多少のことでは動じないアンネマリーも、これにはさすがにビックリしたようだ。

「ホントに……。さすが傭兵伯領だね。こんな頻度で声をかけられるってことは、きっとこれが日常なんだろうね……。そして他の貴族も大事にしていないという事でもあるんだよなぁ」

「言っても無駄というか、もうこういうものだと諦めているんでしょうね。下手に事を荒立てて、いざと言うときに手を借りれないと大変ですし」

「そうだね。まぁ、こっちの人たちは言われたから手を貸さないなんて言わなさそうではあるけども……」


 その後も宿につくまで声をかけられ続けた一行は、これ以上絡まれたらかなわないと、翌日まで宿で引き籠りを決め込む。

 しかし、当然どの宿に泊まったかなどすぐにバレるわけで。ちらほらと宿にまで訪ねてくる者が出てくる。

 これはいよいよマズいなと思い始めた一行を救ってくれたのは、宿の女将さんだった。


「アンタらいい加減にしないかいっ!! 客人が困ってるだろっ! これ以上しつこく訪ねてきたら、町中の女どもにソイツの名前を触れ回るからねっ!! あと、エレオノーラちゃんにも伝えるから覚悟しなっ!」

 と一喝、猛者どもを震え上がらせてくれたのだ。

 この町の女達から慕われる顔役で、若かりし頃はエレオノーラと共に戦場を駆け巡っていた元傭兵というのだから恐れ入る。

「いやぁ、本当に助かりました。ありがとうございます」

「気にしなくていいんだよ。あいつらはホント脳みそまで筋肉で出来てるんだから、困ったもんだよ」

「にゃお~~ん」

 大きなお玉で肩をトントンと叩きながらため息をつく女将の足元に、織姫がスリスリと頬と身体の左側を擦り付ける。

「おやおやおや、こいつはまたとんでもなく可愛い子だね! アンタの使い魔かい??」

 女将が相好を崩しながらしゃがみ込んで後頭部を優しくなでると、目を細めながら織姫が喉をゴロゴロと鳴らした。

「使い魔でもありますけど家族のようなものですね、ずっと一緒ですから。ああそうだ、お礼にこちらをどうぞ。お店で出していただいても良いですし、ご家族で召し上がっていただいてもかまいません」


 勇が差し出した包みを開けながら、女将が首をかしげる。

「うん? 赤みの強い肉だね。水牛か鹿かい??」

「いえ、ワイバーンです」

 何でもないことのようにさらりと勇が言うので、思わず聞き流しそうになった女将が慌てて聞き直した。

「ああワイバーンね……。はあぁぁ? ワイバーン!? いやいやいや、そんなとんでもない肉もらえないよ」

「いえいえ、本当に助かったので……。むしろこんなんじゃ足りないくらいだと思ってますよ」

「こんなんってアンタ……。この量でいくらすると思ってんだい?」

 勇のあんまりな物言いに女将はあきれ顔だ。

「ああ、大丈夫ですよ。自分たちで倒したヤツなんで、タダですよタダ。あはは」

「アンタら、ワイバーンを倒したのかい……。はぁぁぁ、そりゃあいつらが目の色を変えるわけだよ。分かった、こいつはありがたくもらっとくよ。腕によりをかけて今晩のおかずにするから、楽しみにしておきな!」

 女将はとびきりの笑顔でそう言うと、あんたー、と声をかけながら奥へと入っていく。

 数秒後、「はあぁぁっ? ワイバーンだぁぁっ!?」と言う、おそらく旦那さんのものと思われる声が聞こえてきた。


 その日の夕飯は、勇たちにワイバーンのフルコースが振舞われ、運よく居合わせた他の客にも何の肉か言わずに焼きワイバーンが一皿出される。

 何も知らずにそれを食べた客たちは、予想外の美味しさに皆絶句するのだった。


 翌朝、昨日の女将の一喝が効いたのか手合わせを申し出る者はおらずほっと胸をなでおろした勇たちは、女将にあらためて礼を言って、領都エリクシブルグへ向けて町を後にした。

 前日にある程度距離を稼いでいたこともあり、4時間ほどでエリクセン伯爵領の領都エリクシブルグが見えてきた。

 小高い丘の上に立つエリクシブルグだが、勇たちはその手前にある一段高い丘の頂上にいるためその威容が一望できる。


「なるほど、そう来ましたか……」

 魔動車を一旦停車させて街を眺めながら勇が呟いた。

「傭兵伯らしいと言えばらしいですね」

 同じように街を眺めるアンネマリーも呟いた。


 一行の目を釘付けにしているのは、伯爵家の領都の割には小ぶりな街の中央に堂々と鎮座する、大小二つの闘技場だった。

 小さい方でさえ王都の御前試合で使われた闘技場と同じくらいの大きさがあるので、大きい方はとんでもない立派さである。

 常に鍛錬を怠らず、ツワモノに対して常時門戸を開いている傭兵伯の在り方を表すようなそれを見て、これは間違いなく面倒なことになるだろうなぁと渋面する勇であった。

週3~4話更新予定予定。

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― 新着の感想 ―
仮にも領主をちゃん付けって……と思ったら同じ釜の飯食べてた付き合いか、そりゃ誰も勝てんわwww
[一言] 事前情報で闘技場が近くにあると知らされてなかったんだ。まあ、たいした情報とは思われなかったのでしょう。
[良い点] いつも楽しく読んでます! 読んでいて、戦闘民族サ◯ヤ人が頭に浮かぶ(笑) みんな悟◯脳してるよね〜強いやつと戦いたい! どうなることやら~
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