閑話 レアアイテムを探し求めて
「……結局ここもハズレか」
と。
酷く落胆するように呟いたのは、青年というには若い声。昼間だというのに真っ黒なフードを目深に被り、およそ町で見かけたのなら近づきたいとは思わない、怪しい体(てい)の人物だ。
「フィール、そんなに落ち込まないで!一級品のレアアイテムは手に入れられなかったけど、どれも珍しい素材アイテムよ。これだけあれば結構なお金になるわ。ほら、元気だしましょう!?」
そう言って明るく彼を励まそうとする人物は、背中に二枚の羽根を持つ有翼人の幼女さま。アクアブルーに輝く髪を両サイドで結い上げて、神殿奥の台座に浮かぶ希少石を広げてみせる。
『ふむ。確かに聖硝石(せいしょうせき)では少しばかり箔に欠けるか。いっそ素材を売りまくり、金でも貯めて裏競売(オークション)でも覗きに行くか?』
艶のある声でしれっと続けた白髪の魔婦人は、ちらと幼女の手のひらを見てそう彼に言い掛けた。
すると彼は動きを止めて、ふと視線を上げた後。
「いっ、いやいやいやいや、いやいやいや!師匠、そういうの嫌うから!!ダメ!絶対!非合法な裏競売(オークション)!!」
と、慌てたように手を振った。
そんな彼の心中は。
——馬鹿!馬鹿!!俺の馬鹿!!!師匠へのお土産探しは口実だから!!いかに師匠に会わせる時期をずらすかが第一で!!何本気で項垂れてんのっ!?俺のアホッ!!
と、なかなかの荒れ様だ。
表層の声を聞いた二人は「なるほど」と納得し、ならば用も無くなったのだしさっさと帰路につこうか、と。光の(ルクシーア)神殿の奥の間を後にした。
それを自然に追いかけながら、彼の心は想いに沈む。
——竜の山、聖獣の森、機械塔…それに加えて今回の“光の神殿”……と。
どれも高レベル冒険者がレアアイテムを求める場所で、そこそこ有名処である訳なのだが。一番最初の竜の山にてまさかの封鎖を受けた後、冒険者等の噂を頼りに訪れた各所において、何となく”期待し過ぎた感”が出るのだ。
一応の名目で、師匠の元に帰るのに、どうせならレアアイテムをガツンと持参したいなぁ、というエル・フィオーネへの意見だが、ここまでくると……ここへ来てみても良い物がなかなか得られない“ある意味不測の事態”というのに、付き合わせちゃって悪いなぁ…と。小心者の少年は思ってしまう所があった。
自分の伴侶と言い切る彼女を、まさか師匠には会わせられない。
だから口実をでっち上げ、出会う時期を遅らせた。
すると今度はまたしても結婚相手と言い切る少女に出会ったりしてしまい…。
もちろんそんな彼女の事も、師匠に上手く説明できる気がせずに。
もう流されろ!と山を目指して、先送り…した筈なのだが。
竜の城というダンジョンは竜王不在で立ち入り不可。
聖獣の森はランダムでアイテムが入れ替わり、その中にレアなアイテムが混ざる時があると聞いたが、一月かけて二十数回挑んだものの、全く出会う事が無く。
肩を落として機械塔へと狙いを変えてみたのだが、いつも同じ行き止まりにて進路を阻まれた。
ならば光の神殿が良い、と小耳に挟み、さっそく奥へと来たのだが。モンスターの攻略が割合に楽だなぁ、と。思っていたらコレだった。奥の間にある台座の上にはダンジョンの攻略度に見合うような逸物が、つまりレアアイテムが現れるのだと聞いたから、面倒だなと思いながらも全ての岐路を埋めてきたのに。
聖硝石は確かに珍しい方のアイテムだけど、レアの括りで言うのなら普通に近いアイテムだ。
——あーあ…俺、こんな所で何してんだろ…。
アイテム探しの面倒事に二人を付き合わせるくらいなら、適当な辺りで手を打って、腹を括って師匠に会わせた方が良い———?
そんな風に思えども。
——………それこそまさか、な事態だろ。
と、北の森に住むあの人を、その性格を思い出しては重い空気が肺から漏れる。
変な言葉を使うなら、調教済み、とも取れる体は、あの師匠を前にして上手く機能する気がしない。
レベルも上がって回避率も上手く上昇したのだが、育て親の威光というのはそういう理論をすっ飛ばす。
絶対一撃K.O.だよ、と殴り飛ばされる図を思い。
少年はまたしても深い、深い溜め息を、無意識のうちに吐くのであった。
そんな彼を背後に思い、沈黙していたクリュースタが「そういえば」と声を出す。
「パルシュフェルダはどうかしら?」
「…え?パル…何だって?」
「アルワナ王国の最南端に、パルシュフェルダという有名な水の都があるのよ。今じゃ“おとぎ話”と言われているけど、そこには昔、海底ダンジョンの入り口があったという話があるの。探すのに手間取るかもしれないけれど、ここ数百年、誰かが立ち入ったという話を耳にしていないから…もしかしたらレアアイテムが手に入るかもしれないわ」
『確かに、な。その話は一理ある。どうだ?少し寄ってみないかえ?』
クリュースタの提案に乗ってきた魔婦人が、柔らかい眼差しで彼に意見を求めると。
「…ん…でも、もし見つけられなかったら……」
「大丈夫。気にする事ないわよ。ね?」
「え?」
『うむ。彼の都の美しさは大陸でも指折り故、立ち寄るだけでも眼福ものだろう』
優しく微笑むエル・フィオーネの返答に「ほら」と彼女は彼を見て。
こうしていつも気にかけてくれる心優しい二人に向かい、「ありがとう」と感謝の言葉を述べたのだ。
思えばこれが最後の心休まるひとときだった…と。
遠い目をした少年が遥かな大地に黄昏れるまで、あと少し。




