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77.隕石を爆破せよ! 第一話「絶望の未来と希望」


 異世界救助隊指令。その女神ルミテスの変化に最初に気が付いたのはヘレスだった。なんだか元気がなくいつもの高いテンションが無くなってしまったのだ。

 好きな紅茶も嗜むこともなくなり、引きこもりがちになっていた。

 もちろんメンバーたちもすぐ気が付く。何しろ出動回数が激減している。

 全世界で事故や火災が減っているなんてことがあるわけないのだ。

 ルミテスが仕事を極端に減らしていることは間違いなかった。


「どうしたんだよルミテス……」

 久々に指令室に顔を出したルミテスだったが、顔色は悪く髪はぼさぼさ。そうとう疲労している様子が見て取れた。

「皆の者に見てもらいたいものがある。ベル、映像出せ」

「はい」

 ベルがメインパネルに表示したのは、星が無数に散らばった星空だった。小さな光の点に丸が付けられている。

「日頃から小惑星、彗星のたぐいをいつも監視しておる。自動監視システムがこの宮殿(パレス)ルーミスにもあるのだがの、そのシステムの網をかいくぐってこのリウルスに接近してきた小惑星がある」


「小惑星!」

 太助は隕石や小惑星や彗星が落ちてくるというパニック映画は何度も見たことがある。隕石が衝突して、恐竜が滅んだという地球の歴史も知っていた。

「……それ、リウルスに落ちるのか?」

「落ちる」

「いつ?」

「三か月後」

「……」

 言葉もなかった。映画だとミサイルだとか核爆弾とかでぶっ飛ばすエンディング。だがそれにしたって地球に大被害が発生するのは間違いないし、失敗すれば人類滅亡。頭ではそんな方法が思い浮かぶが、このパレスにはそんな装備はない。異世界救助隊、詰み、である。


「その……、大きさは?」

「10キロメートル」

「威力は?」

「六千億トンの落下エネルギー。十分じゃ」


 この太助とルミテスの会話を聞いて、意味が分かったのはベルぐらいだっただろう。他のメンバーたち、ハッコツ、ジョン、マリー、ヘレス、グリンは意味が分からずきょとんとしていた。

「か――――! どうすんだ! それ!」

「どうもできん。わちだっていろいろ考えたわ。回避は無理じゃ」

「ミサイルで水爆を打ち込むのは!」

「ミサイルが無い」

「宇宙船で水爆を仕込むのは?」

「宇宙船が無い」

「小惑星まで水爆持って飛んでいける魔物さんは?」

「いない」

「受け止めるとか方法は?」

「ない」

「水爆って作れる?」

「無理じゃ」

 ルミテスの答えは淡々としていた。


「水爆作れないんだ……」

「おぬし妙に核爆弾にこだわるのう」

 ハリウッド映画がどれもみんな核で解決なんだからしょうがない。

 日本人がこれの対策を考えたときは、南極に巨大ロケットエンジンを建設して地球の軌道をずらす、という核弾頭抜きの強引な作戦をやったものである。古い映画だけど。被爆国として意地でも核爆弾は使いたくなかったのかもしれない。


「このリウルスはおぬしが思うよりずっと古い星での、生物が誕生したのが星ができてから30億年後と遅かった」

 地球で生物が誕生したのは地球形成後8億年ぐらいと考えられている。だが生命が誕生するのは偶然の産物であり、それがいつになっても全くおかしくないのだ。リウルスの星の形ができてから生物が誕生するまで30億年もかかったとしても不思議はないということになる。

「このリウルスは誕生70億年を超えておる。ウランのような核物質はとっくに地殻から採掘することはできなくなっておるのじゃ。どう考えても核物質は用意できんし、それを飛ばす方法もない。詰みじゃの」


「水爆の核融合は重水素じゃなかったっけ?」

「おぬしなんも知らんのじゃな……。水爆ってのは、その重水素を核爆弾で包んで爆発させた熱と圧力で核融合を起こすのであって、マッチになる核爆弾が無いと火がつかんのじゃ」

「あーあーあーそうなんだ……」

 水爆は原爆で火をつける。意外と知られていない事実である。


「あの、その小惑星? が落ちるとどうなるんですの?」

 なにもわからないマリーが手を上げて質問する。

「前にあったホンヘイの火山の噴火と同じじゃ。それがリウルス全体で起こるようなものじゃ。リウルスの表面はすべて焼け焦げ、灰が舞い上がり、高さ50メートルの津波が音速を越えて何度も地表を洗う。地上に上がった波は高さ300メートルを超えるじゃろ。リウルスは太陽光を遮断され、地表は凍り付き、全球凍結が起こる。氷河期になるんじゃ」

「氷河期……」

「すべての植物が枯れ、全ての生物が食べるものが無くなり餓死し、全ての文明が滅ぶ。この星の生物の90パーセントが絶滅することになるじゃろうな。生き残るのはゴキブリかプランクトンか、海の一部の生き物か、あるいはネズミかはわからんが、また一から進化のやり直しじゃ。人間みたいな知的生命体が再び生まれるのは何千万年もかかるじゃろう……」


 この発言で全員絶句した。この世界の人間の想像を超えた大災害である。イメージもろくにわかなかった。

「あの、わ、わたしたちはどうしたら……」


「幸いこのパレスは安全じゃ。成層圏近くまで避難しておればとりあえずやり過ごすことはできる。残念ながら救助隊は解散じゃ。おぬしらは下界に戻るもよし、ここにとどまって、人類、生物の最後を見届けるもよしじゃ。その判断は任せる」

「パレスで生き延びろってことですかな?」

 もう死んでるハッコツは大してあわててはいなかった。


「救助隊を失業しても、パレスでは仕事はある。災害監視員としてな。すでに文明がある星に小惑星が衝突するのはレアケースじゃし、天界でも研究対象となる。どのような被害があり、どのような影響があり、どのように気候が変わり、どの生物が生き残り、どの生物が滅ぶのか。調査、報告すべきことはいくらでもある。おぬしらの寿命が尽きるまで、その仕事をパレスで続けることはできるし、クビにはせん」

「……ちなみに食料は? 地上からお供えしてもらってたんじゃなかったっけ?」

 太助も手を上げて質問する。

「おぬしら百年分ぐらいの食料備蓄はあるわ。まあ、毎日同じものを食うことになるからすぐ飽きるだろうが、餓死することはないじゃろ」

「ルミテス様の派遣業務はどうなるんで?」

「気にするとこそこかの? まあおぬしらが死ぬまでぐらいは、ここにおることになるじゃろうな。その後は任地が変わって別の星に勤務することにでもなるかのう……。後は監視係が一万年に一度ぐらいリウルスを訪問して、生き残った生物の進化具合を調査する程度じゃろ。さすがにその時はわちももう死んどるだろうがの」


 全員、言葉もなかった。

 人類、生物の絶滅を、このパレス・ルーミスで見届ける。

 それしかないのか。


「その、ルミテス様が言う天界ってところはお力を貸してはくださらないのですか」

 涙を流してぐずつくマリー。

 泣きたいのは太助も同じだが。


「天界はかかわらぬきまりでの。またそれをどうにかする力もない。死んだ魂を運ぶぐらいかの……」

「神は人間の味方はしてくれないと?」

 太助の疑問にルミテスは非情に答える。

「太助ならわかるであろう? 三葉虫が滅びて、恐竜が生まれた。恐竜が滅びて、人類が生まれた。それは神が味方したからか? この先人類が滅びて、生まれた生物あれば、それもまた神が祝福して当然であろう。この世界はいつだって、進化の途中なのじゃ」

「しかし、神を信仰するのは人類だけだろ」

「文明は神の信仰とともにある。この先人類が滅びた後、また文明を持って神を信仰する生物が現れれば、その者たちの時代になり、おぬしらは恐竜と同じで、単に大昔滅びた生物として化石になる。なにかおかしいかの?」


 ルミテスの言うとおりだ……。人類の文明がたまたまこの時代にあるだけで、人類が滅びても、未来の文明から見ればそれは過去にもあった大絶滅の一つと数えられてもなにもおかしくないし、宇宙のスケールで考えれば人類文明の時代など、三葉虫がいた時代と同列でなにも変わらないのかもしれない。


「……会いたい者がいたら今のうちに会いに行け。全員に休暇を取らす。あとで申し出よ。職を辞して、地表で運命を共にするのも許す。三か月あるんじゃ、よく考えよ。救助隊の活動は今日をもって終了とする。以上じゃ」


「わたくし、もう家族に絶縁されておりますし……」

「オレも、仲間から追放されたし……」

 マリーとジョンは帰る場所が無いらしい。

「私も行くところが無いですな」

 ハッコツはケタケタ笑いそうになるのを我慢した。

「わっちょは海に帰って一人で死ぬことにするかのう。最後どうなるか海で見ていたいわの」

 グリンさんは、すぐにあきらめがついたのか、笑っている。

 太助はヘレスを見た。

 後ろに立っていたヘレスは何も語らず、そっと太助の両肩に手を添えた。

 それ以上なにか言ってやる必要は何もないらしかった。




「おかしいんですよ、この星。見てください!」

 次の日、監視を続けるベルから連絡が入り、太助とルミテスは指令室に来た。

「ほらっ! 光った!」

 メインパネルをよく見る。

「ちかっちかっと表面で、なにか光るんです!」

「軌道をもう一度見せるのじゃ」

 メインパネルに小惑星が飛んできたコースが映し出される。


「……しまった。なんで気が付かんかったんじゃ。この星、小惑星じゃない!」

 ルミテスが頭を掻きむしる。

「小惑星じゃない?」

「太陽系外の外宇宙からの隕石(・・)じゃ!」

「外宇宙……。宇宙人? 円盤? もしかして侵略しに来たエイリアン?!」

「違――――う!」

 ルミテスがびしっとパネルを指さす。

「反物質じゃ!」

「はんぶっしつ!」

「監視システムが見逃したわけじゃ。ベル、最大望遠!」

 接近する隕石が最大望遠で拡大される。


「ほれ、わかるか? 太陽系内に漂う宇宙塵(ダスト)に触れるたびに光っておる。これは物質と、反物質がぶつかって対消滅しておるということじゃ!」

「反物質なんて実在するの!?」

「ビッグバンで宇宙が誕生したってのは知っとるか?」

「まあそのへんは」

「ベル、電波測定じゃ。これが対消滅エネルギーなら衝突時に特定の電磁波を発しておるはずじゃ。微小じゃが、捕らえられるか?」

「やってみます」


 ルミテスはやや興奮気味に説明する。

「そのビッグバンの時、物質と、反物質が同量、生成された。大爆発して拡散する宇宙の中で、その物質と反物質が次々に対消滅してエネルギーとなり、さらに宇宙がインフレーションを起こして膨張が拡大した。それは知っとるか?」

「反物質って、その、電子がプラスで、原子核がマイナスってやつ?」

「そうじゃ。今でもこの宇宙にはその時の残骸、反物質が漂っておる。観測不能なダークマターともいわれる奴じゃの」

「それが隕石になってリウルスに向ってると」

「そうじゃ!」

「って、それじゃそんなのがリウルスにぶつかったら、リウルスでビッグバンが起こって、丸ごと星が無くなるだろ!」

「……あ、そうじゃの」

「俺たちも終わりだよ……」

「違――――う! そこではない!」


「波長一致しました! 反物質です!」

 電波キャッチしたベルが叫ぶ。


「よしっ!」

「なにがよしなんだよ! 最悪の事態じゃねーか!」

 ルミテスはにやりとした。何か悪いことを思いついたときの顔だ。


「わからんか?」

「まったくわからん」

「つまりの、爆弾などいらん。核爆弾も、水爆も必要ない」

「なんで?」

「なんでもいいから普通に物質をこいつにぶつけてやれば、対消滅エネルギーが発生して、木っ端みじんに吹っ飛ぶということじゃ!」

「ええええええええ?!」


 ルミテスはなにか計算を始めた。コントロールパネルの上で忙しく指が動く。

「ぶつけるって、何をぶつけるの!?」


「このパレスをじゃ」

「……え?」

「パレスを、あいつにぶつけてやるっ!」



これが最後の救助作戦となります!


次回78.隕石を爆破せよ! 第二話「新しい秘密基地」

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― 新着の感想 ―
[一言] はい、そうです。もう半世紀も前ですけど。 ハードSFと古き良きスペースオペラを合体させたような感じで、短編連作みたいなのもあって。
[良い点] ここにきていきなり、古き良きラリー・ニーヴンの雰囲気が!
[良い点] 自爆はロマンで盛り上がるとはいえ切ないですな。 ヤマトやチャオズやヤムチャ(やられた側)ですね。
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