64.UFOを救助せよ! 後編
「で、お前らなんなん?」
庭園で正座する三人の宇宙人たちへの尋問が始まる。太助は三人に向って液体窒素のノズルを向けたままだ。
「我々は宇宙条約第27条に従って……」
「知らんがな」
「我々には捕虜として正当な待遇を受ける権利がある。また、非常時と認められれば救助を受ける権利も、母艦への連絡を行う権利もある」
「宇宙条約第十三条!」
ルミテスがいきなり三人に向っておかしなノズルを突き出し、ぶしゅーとなんかへんな霧を吹きかけだした。
「いきなりなにすんだ!」
抗議する宇宙人にルミテスは「汚物は消毒じゃ! リウルスにおかしな細菌やウイルスをばらまかれてはかなわん!」と怒鳴る。そういえば毒キノコの焼却をしたときも、ルミテスは帰還した太助たちにこの霧を吹きかけていた。
「よその星に着陸する際は検疫を受けること! それぐらい知っておるじゃろ!」
「ぐっ……」
宇宙服を着たまま、三人はじっと正座してその噴霧に耐えた。
ルミテスは宇宙人たちが歩いた場所も全部せっせと消毒を始めた。
「……ルミテス、それ、UFOにもやるんかい?」
「UFO外周は大気圏突入時の熱で焼けておるから不要じゃ。中も、液体窒素を撒いたんじゃろ?」
「ああ」
「だったら汚いのはお前らだけじゃ」
汚い者扱いされる屈辱に宇宙人たちは必死で耐える。
ルミテスは太助たちにもせっせと消毒の噴霧をかけ出した。こちらの三人も、あきらめた顔で無抵抗である。
「こんな未開な惑星で宇宙条約が結ばれているとは……」
「未開で悪かったのう。一応おぬしらの流儀にこちらが合わせてやっておるだけじゃ。宇宙条約一条、知っておるの?」
「我々は事前に通信をちゃんと行ったはずである!」
「知らんわ」
「我々の通信にまったく反応しなかったではないか。この星には航空管制が無いと見た我々の判断は間違っていない!」
「未開の惑星には不干渉義務があるはずじゃ。生命体のある惑星系は開発、侵略禁止。おぬしらはそれを破った」
「ぐっ……」
「わちらリウルス星は条約に加盟しておらぬ。また履行義務もない。今ここでおぬしらを処刑しても何ら条約違反にはならぬ。逆らうなら第一条、生命体の存在する星系への開発、侵略行為の禁止条項に従っておぬしら、来なかったことにしてしまうがの」
「うう……」
なぜかグウの音も出ない宇宙人たち。太助たちは知らないが、ちゃんと星間で条約のようなものがあるらしい。
「我々は敵対行為をするためにここに来たのではないのです!」
もう一人の宇宙人が言う。
「我々はあくまでも保護活動を目的にこの星の調査に来ただけで」
「保護活動と言う名目ではないのかの?」
「違う! 調べてみてもらえばわかるが、我々の宇宙船には武装はないであろう!」
「ま、そのようじゃな。あったらこの場で問答無用で処刑じゃ」
ルミテスは殺菌ノズルを止めた。
「では正当な調査理由を述べよ。ウソ偽りがあれば保護対象から外れ、おぬしらはわれらの捕虜となる。敵対行為があれば処刑も自由じゃ。リウルスの夜間部分の街灯の光で生物も文明もあるのは宇宙からでも一目瞭然。知らんかったではすまぬぞ?」
「……」
「黙秘かの?」
「……」
「ケンタウルス座デルタ星系第72番ソーラ。第三惑星プテス連合海兵隊所属ラチ・ピョーラン大佐および部下二名、そろってここで黙秘する権利があると思うかの?」
「な、なんでそれを!」
「おぬしら、こんな未開なはずの惑星で、まずわちらと言葉が通じておることをおかしいと思うべきじゃろ。とっくに問い合わせたわ。もう全部バレておる」
「と、問い合わせたって、どこに」
「神界」
「し、し、し、神界!」
はは――――っと三人、正座から土下座になった。
「ま、まさか、女神様とは思いませんで! 失礼をいたしましたあああ!!」
「神界すげえ……」
ここにきて初めて、ルミテスをすげえと思った太助であった。
もうだいたい想像ついたと思うが、三人の目的は惑星調査ではなく、もちろん資源調査であった。
「残念だったのう。このリウルスは生物が発生するのが遅かった古い星じゃ。おぬしらの欲しがるような資源はない。今更石油や石炭が欲しいわけでもなかろう」
「……はい」
「おぬしらの宇宙服の生命維持装置、あと五時間しか持たぬはずじゃ。さてどうする?」
「母船に、母船に連絡させてください!」
「母艦であろう。おぬしらの乗ってきたこの宇宙船、既に救難信号が途絶えておる。無線機は焼けてしまっておるようじゃ。連絡手段が無いであろうの」
「うっ……」
三人、もう泣きそうである。
「この降伏文書にサインせよ。ならばこちらから救難信号を発してやるが……」
「…………お願いします」
三人、土下座。
「さ、読め」
「はい」
「別に賠償条項はないから安心せよ。わかったら署名じゃ」
「はい……」
「おぬしらも」
「はい」
「もう一枚」
「はい」「はい」「はい」
「この一枚は持って帰れ。バカな上官に見せてやるのじゃぞ」
「はい……」
「ベル、ジャミング解除。座標と一緒に救難信号送ってやれ」
「了解しましたー」
その後、炎上したUFOの十倍はありそうだが、やたらクラシカルな大型葉巻型宇宙船が降下してきてパレスに横付けされ、打ち上げられたワイヤーで引っ張られて三人は帰って行った。
無線でパレスに通信が入り、一枚の謝罪文が旧式のファクシミリで送られてくる。そこには……。
「調査員、乗員の救助ありがとうございました。ご迷惑をおかけして誠に申し訳ありませんでした。降伏文書の写し、たしかに受領いたしました。これをもって神界への訴えはなにとぞ、不問に願います」と無記名ではあるが、書いてあったらしい。
ルミテス、完勝である。
「見よ! 太助! この星間観測機、まだ使えるぞ!」
ルミテスはあれから毎日、工具片手にUFOの残骸の分解に忙しい。
「ほー、それでなにやるの?」
「天体観測じゃ!」
「要するに天体望遠鏡?」
「まあそうじゃの……」
「よかったじゃん」
ルミテスはニッコニコである。とりあえず宇宙戦争になったりしないでよかった。太助にしてみれば「神界」という謎の組織に対する疑念は、一層、増したのだが。
次回「65.青いサンゴ礁の急病人 前編」




