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14.本音で語ろう


 大浴場にぶーんと羽音を立てて、妖精のベルも入ってきた。

 水辺で遊ぶ小鳥のように、ちゃぷちゃぷやって楽しんでいる。

 ……いやっ、よく見るといい体してるやんっ! と太助は驚愕した。

 惜しいかな全長20センチ。十八禁フィギュア顔負けの色っぽさが実に惜しい! 惜しすぎる!

 ルミテスは論外として、このパレス唯一のオカズになってくれそうなぐらいのベルの体を横目でできるだけ気が付かれないようにチラチラ見る。それほど太助はここのところオカズに苦労していたのである。


「なあルミテスさん……」

「なにか?」

「俺、今まで文句言わず働いていたけど、よく考えてみれば俺、休日もないし、給料もないし、飯もまずいしいつも同じものばかりだし……」

「給料なら払っておるがの? パレスにある金蔵の前で言えば貯金の範囲内でいくらでも各国の好きな金貨で引き出せるようになっておるが?」

「聞いてねえよ!」

 そんなんなってたの!? ちゃんと給料出てたの?! といまさら太助は驚いた。だいたい金蔵ってどこかも知らない。

「ベル」

「説明するの忘れてましたねえ。すみません」

 あっさりベル。このやろうと思う。


「私にも出ているのですかな?」

 ハッコツが問うと、「おぬしは給料はいらんと言うたでないか」とジト目でにらんでくる。

「別に構いませんがな。もともと金に執着はありませんし、使うあてもありませんし、老後の心配もする必要もありませんしな!」とケタケタと笑う。

「ひでえ……タダ働きかよ。まあ本人がいいんじゃ別にいいけどよ……」

 清貧なことで……。まあこいつはそれでいいとして、太助は若い男なのだ。この際だから文句の一つも二つもいっぱい言ってやりたかった。


「で、おぬしなんじゃ? 今頃そういうことを言い出すってのは、なんか文句があるんかの?」

 太助、ハッコツ、女神ルミテスに妖精のベルにオレンジスライムの四人と一匹。これが今の救助隊の全メンバーだ。

 大浴場で湯につかりながら、懇親会のごとく話し合う。まさに裸の付き合いというやつだ。本音も出る。


「ん-、正直休みも欲しいし、せっかくなんだからこの世界も見て回りたいし、金があるなら買い物だってしたいし旨いものも食いに行きたい。俺だって女の子誘ってイチャイチャだってしたいし彼女も欲しい、本当はやりたいこといっぱいあるんだよな俺。年相応の男として……」

 某救助隊は、男ばっかりの五人兄弟で南洋の孤島で暮らしていた。

 大金持ちのくせによく我慢できていたものである。


「休日については、おぬしが頑張ってメンバーを増やせばよい。そこのハッコツや、スラちゃんみたいに使えそうなやつはスカウトしてよいぞ。そうすればおぬしの穴埋めになるから休みもやれるが。交代できるぐらいメンバーが増えるとよいのかもしれんのう」

「それまで休日なし~~~?!」

 太助は泣きたくなった。


「うおおおおお! 察してくれよお!」

 俺は生きのいいオカズが欲しいだけなんだ! と叫びたい。

「ネットにつながるだけでもいいからさ!」

「そんなもんないわ」

 がっかりである。


「毎日火事も事故もあるのだぞ? おぬしがおらんせいで死人が出る日があってもよいのかの?」

「いやさすがにそれは……」

 実際の消防士の仕事だって、休日中でも大事故、大火災があれば連絡が入って出動になる。なにやっていても消防署や直接現場に駆け付けなければならん時はあるのだから同じと言えば同じだ。自分が休日を楽しんでいる間に、誰かが死んだらそりゃあ夢見が悪いに決まっている。これは断れないなと太助は内心あきらめた。


「ところでさ」

 太助は湯船に浮いているスライムを見る。

「ん?」

「そのスライムのことさっき『スラちゃん』って呼んでたよな?」

「そうじゃが?」

 何を言っておるとばかりに女神ルミテスが太助を見る。

「名前『スラちゃん』で決まりなの?」

「当り前じゃ」

 はー……。

 太助はこの女神のネーミングセンスに不満があった。ワイバーンはドラちゃん、白骨ゾンビはハッコツ、放水ノズルは放水くんで、スライムはスラちゃんかよ……。


「スラちゃんもメンバーなの? 救助隊の」

「これから訓練する。役に立つぞ?」

 なんの役に立つんだよと思う……。


「さ、スラちゃん、そろそろあがるぞ」

 ルミテスが風呂から上がると、ころころとスラちゃんがついていく。


「はー……。もうあんたのペットかよ。取られちゃった……」

 がっかりする太助。せっかく手懐けた野良猫を取られたみたいで気落ちする。

「では私も」

 ベルも羽を振って水切りし、飛んで行ってしまった。


 ハッコツと二人で、湯船につかる……。


「元気ですな」

「やかましいわ」

 全長20センチと小さいくせにベルのアレは完全に18禁フィギュアだった。ここに来て以来、ネットもビデオも雑誌も全く、女っ気がなかった太助にはあんなのでもビンビン来てしまったのは正直悔しい。


「うらやましいですぞ」

「おまえち〇こ無いもんな」


 その夜、太助が悲しく涙し、今の境遇を呪いながら寂しくベルをオカズに一人飯したのは言うまでもない……。



「さて、今日からスラちゃんも訓練に加わるのでの」

 またいつものように朝がやってきて……というかパレスは一日にこの星リウルスを四周しているので、実は日に四回、朝が来るのだが。

 昨日名付けられたばかりのオレンジスライムのスラちゃんは、女神ルミテスの横で機嫌よさそうにぽよんぽよんと弾んでいる。


「では太助。スラちゃんに放水くんを突っ込んで注水せよ」

「えええ!」

 いきなりのとんでもない命令に太助はびっくりだ。

「大丈夫なのかよ! 毎分200リットルを超える注水量だぞ?! スラちゃん破裂するわ!」

「大丈夫じゃ。そこがオレンジスライムのすごいところなのじゃ。さ、やってみよ」


「……スラちゃん、痛かったら言えよ? 無理すんなよ?」

 恐る恐る太助は放水くんをバスケットボール大のスラちゃんに当てると、きゅぽんという感じでノズルの先がスラちゃんに入った。

「じゃ、注水開始!」

 ゆっくりとリングを回すと、少しずつ水がスラちゃんの体内に取り込まれ、膨れ上がる。

「うおおおおおおお!」

 大丈夫そうなので水量を上げてみる。どんどん膨れるスラちゃん。たちまち人間の背丈を追い越し、つぶれた半球状の形で膨れ続ける!

 太助は後じさりしながら大きくなるスラちゃんに注水を続けて、これどこまでいけるんだと驚愕した。

「もうその辺でよかろう」

 スラちゃんは今や直径8メートル、高さ3.5メートルぐらいにまで巨大化した。重量で言うと100トンは超えているだろう。


「やはりな、十分な貯水量じゃの」

「すげえ……水源があれば簡易的な水タンクになってくれるってことか」

「水源などなくても放水くんがあれば消火はできるであろうの。スラちゃんのすごいところはそこではない。おぬしら離れよ」

 きゅぽん。スラちゃんから放水くんを抜いて後ろに下がる。

「もっと下がるのじゃ――――!」

 太助もハッコツも、ルミテスとともに50メートルまでスラちゃんと距離を置いた。


「スラちゃん! 『ボム』じゃ!」

 ボムってなんだよ。O次郎かよと思ったら、いきなりスラちゃんが破裂した!

 総重量100トンを超える水が一気にまわりに広がる!

「うわああああああ!」

 50メートル離れたところにいた太助たちに高さ30センチの波が一気に押し寄せるううううう! さながら小さな津波である!


 大量の水は一瞬でパレスの庭園を水浸しにし、柵の隙間から下界へどぼどぼと落ちていった。

 波に足を取られて転び、全身ずぶぬれになったルミテスが起き上がって、「な、すごいじゃろ?」とにたりと笑う。

「スラちゃんは? スラちゃんはどこいった! 今ので流れて落ちちゃったんじゃねえの!」

 太助はあわてて周囲を探すが、スラちゃんは今の爆心地でぷかぷか、ぺちゃぺちゃと転がっていた。

「あーあーあー、無事だったか! よかった!」

 慌てて駆け寄ってスラちゃんを抱き上げる。


「すげえよスラちゃん……。でも、これ、どう使うんだ?」

「それはおぬしが考えよ。十通り以上使い道があるじゃろ。アイデアをまとめて後でレポートにして提出せい」


 丸投げされてしまった。だがこれはうまく使えば今までになかった全く新しい消火ができる。そう思うとわくわくしてきて、お疲れのスラちゃんを撫でまわす太助であった。




※スラちゃん200トンを100トンに修正しました。(200トンは大きすぎでした)


次回「15.要救助者を確保せよ!」

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― 新着の感想 ―
[一言] >某救助隊は、男ばっかりの五人兄弟で南洋の孤島で暮らしていた。 休日はペネロペを呼んで6Pしてたらしいですよ。
[良い点] スラちゃんすげぇ。 ビルの屋上の貯水槽が移動できるみたいなもんか。 [気になる点] ヒロイン、妖精のベル(30cm)になる。 [一言] そういやスラちゃんは火には耐性あるんかな?
[良い点] スラちゃんガチですごくて草
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