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第70話 クリスマス2 2

 クリスマスの前に期末試験の結果が返ってきた。私は30位、涼夏は63位と順位を伸ばしたが、絢音は5位と順位を落とした。

 もっとも、前回が3位だったので、維持するか落ちるかしかない。トップ二人はまた一つ次元が違う。

「中間の時にも言ったけど、ここまで来ると、後は問題との相性みたいな世界だから、3位から7位くらいはどこでもいいよ」

 絢音があっけらかんと笑った。順位を気にしているという意味では、むしろ私の方が落ち込んでいる。

 30位は過去最高ではあるのだが、今回はたくさん勉強したので、もしかしたら15位くらいになれるのではないかと思っていた。さすがにそれは楽観し過ぎたが、それでも上に29人もいるのが信じられない。

 才能の限界を感じると嘆くと、絢音が「私も2位にはなれない」と慰めてくれた。

 全部百点なら1位になれるが、毎回必ずわからない問題や間違える問題がある。絢音がどれだけ賢くても東大レベルではないように、私もこのくらいが限界なのだろう。それでも地元の私立はほぼ圏内なのでいい。

 問題は奈都だ。

 一応半分よりは遥かに上だったが、100位前後と振るわなかった。今回は勉強したのにと落ち込む奈都に、絢音が言った。

「勉強は積み重ねだからね。今から積み上げていけば、受験には間に合うよ」

「涼夏は中間で一気に100位くらい上げたのに」

「科目が少なかったし、ポテンシャルっていう意味だと、あの人千紗都より上だからね。高校入試も短期間で受かったって言ってたし、短距離走者なんだよ」

 涼夏は持続力と集中力がない。今回限界を感じたように、ポテンシャルは私もないが、まさに絢音が言ったように、下積みがある。

 YouTubeに勉強風景の動画をアップしているし、家で暇な時は教科書を開いている。奈都が思っているより私は勉強している。それでも30位なのだ。

「ちょっと考えなきゃだな。チサと同じ大学に行くのはマストだし」

 奈都が何やら深刻そうにそう呟いた。こればかりは助けてあげられないので、どうかその優先度を見誤ることなく頑張って欲しいと思う。


 クリスマスというのは12月25日で、24日はクリスマスイブである。そこから、イブというのは前日のことを表していると思われがちだが、正確にはイブニングの略で、夕方を指している。

 だとすると、クリスマスは24日で、25日は普通の日なのではないかと思うが、そもそも一日の区切りが違うらしい。だから、25日がクリスマスなのも、クリスマスイブが24日なのも矛盾しないそうだ。

 恵坂に集まって早々、絢音がそんな豆知識を披露した。

 今年のクリスマスイブは平日なので、周囲はそこまでクリスマスムードでもない。ユナ高はすでに休みだが、今日が終業式という学校もある。昼からは混んでくるだろうし、夜はクリスマス一色に染まるだろう。

「クリスマスに外にいるのは久しぶりというか、初めてかもしれない。中学の時も毎回誰かの家でパーティーしてた」

 涼夏がキョロキョロと辺りを見回しながら言った。パーティーとはいい響きだ。涼夏は料理部だったので、きっとお菓子なんかを作ったのだろう。

 今日のプランは、3人とも2時間ずつ私とデートをするというものだ。私だけ特別でいいのかと思うが、私が二人きりでいるということは、残った二人も二人きりでいるということなので平等感はある。

 そっちもデートという名目かはわからないが、絢音はきっとやる気満々だろう。順番は3人で相談した上、絢音、涼夏、奈都の順になったらしい。それが、絢音が最後に涼夏と一緒にいたいからかどうかはわからないが、最後はそのまま解散するそうだ。家が同じ方向の私と奈都に気を遣ってくれたのかもしれない。

 開始前に、一応少しくらい4人で過ごそうと言ってカフェに入った。しばらくいるそうなのでケーキを頼んだが、もしこの後、みんなカフェでケーキを食べる予定を入れていたらどうしよう。

「3人はプランを共有してるの?」

 なんとなく聞いてみると、涼夏が大きく頷いた。

「それをふまえて順番を決めた。絢音が最初なのも、私が2番目なのも意味がある」

「へー」

 聞いても教えてはくれないだろうし、もう少ししたらわかることだ。楽しみは取っておこう。

「ただ二人で過ごすだけだと、いつもの帰宅部と変わらないから、今日は無理矢理でもデートを意識したいと思う。そういう遊びね」

 涼夏がルールを確認するようにそう言うと、二人がわかったと頷いた。

「デートの最後に、千紗都に告白してチューする」

「告白ねぇ。ちょっとやってみて」

 奈都の方を見てそう振ると、奈都はうっとりと目を細めて微笑んだ。

「チサ、愛してる。付き合って」

「ごめんなさい」

「言うと思った。絶対にそういう振りだと思った」

 奈都が勝ち誇ったように笑う。定番のやりとりだが、奈都が大袈裟に反応するまでが一連の流れだ。それを乱すとは実にけしからん。

「小癪な」

「口語で使う言葉じゃないね」

「でも実際、告白とか考えると緊張するな。自分で提案しておいてなんだけど」

 涼夏が胸に手を当てて、呼吸を整えるように大きく息を吐いた。なかなか珍しい、乙女な涼夏だ。

 私の中ではいつもの遊びの延長でしかないのだが、この人たちは何かものすごく特別なイベントと捉えているのだろうか。もちろん、高校生活でたったの3回しかないクリスマスなので、気合を入れるべきところだというのは百も承知だ。私の方でも、モードを切り替えた方がいいかもしれない。今のままだと、真面目な告白に対して、思わず笑ってしまいそうだ。

 ケーキがやってきたので、4つ並べて写真を撮った。涼夏と奈都がそれをSNSにアップする。幸せのお裾分け的な投稿かもしれないが、一人寂しく過ごしている人には攻撃力が高そうだ。もっとも、少なくとも涼夏のフォロワーにはそういう人はいないだろうが。

 ケーキを堪能しながら、デートとは何かとか、冬休みの予定なんかを話して1時間ほど過ごし、そろそろ企画を始めることにする。奈都とはしばらくお別れだ。

 涼夏と奈都は何をするのか聞くと、二人で古々都商店街をぶらぶらするという。

「絢音の目的地とも近いし、今日はナッちゃんにオタクのいろはを教えてもらう」

 涼夏が満面の笑みでそう言うと、隣で奈都が悲鳴を上げた。

「そんなことしないから! 涼夏のファッション談義でしょ?」

「ナッちゃんのハマってるアニメについてプレゼンしてもらう」

「恥ずかしくて死ぬ」

「そっちが思うほどこっちはなんとも思わないのに、オタクはみんなそういう反応をする。実に興味深い」

 涼夏が、人の心がわからない生き物のようなことを言って微笑んだ。奈都をからかっているだけだと思うが、とりあえず仲良く過ごしてくれたらそれでいい。

 二人の背中を見送ってから、改めて絢音を見る。今日の絢音は寒いからか髪は束ねていないし、少しメイクもしていて美人さんだ。

「それで、絢音のプランは?」

 いよいよ情報を解禁する時だと促すと、絢音はよくぞ聞いてくれたと笑った。そりゃ聞くだろと心の中で突っ込んだ私に、絢音は得意げに宣言した。

「今日はこれから科学館に行きます!」


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