第69話 寒い(3)
※今回、話の切れ目ではないところで切っています。
夕方である。日の落ちるのが早い季節なので、イルミネーションも比較的早い時間に点灯されるが、それにしてもまだ早い。外は死ぬほど寒いので、暗くなるまで恵坂の地下街をブラブラして過ごした。
涼夏とは見たいものの趣味が合うので、奈都や絢音よりウィンドウショッピングが捗る。小物を見たり冬物を見たりコスメを見たりしてから地上に戻ると、朝よりも一段と厳しい寒さになっていて、涼夏がくるっと回れ右した。
「お疲れ様。また明日ね」
「いや、ちょっとは頑張ろうよ」
「寒いの無理……」
泣きそうな声でそう言って、手袋をした手で私の腕にしがみ付く。妙に可愛い。
恵坂の街は電飾がキラキラして綺麗だった。特にテレビ塔を中心に、大通りに挟まれた公園では名のあるイルミネーションが開催されていて、私たちのような学生で賑わっていた。もう少ししたら会社帰りの人も増えるだろう。
何枚か自撮りして絢音に送ると、涼夏がまだ微かにオレンジの残る空を見上げながら言った。
「イルミネーションは、もっとあったかい季節にやってはいけないのだろうか」
「冬の方が空気が綺麗だからとか?」
「花火は夏にやるじゃん?」
涼夏がもっともな疑問を呈する。最近では冬の花火も時々聞くが、基本的には夏の風物詩だ。同じ夜に開催されるイベントだが、時期は正反対だ。
「見る時寒いからじゃない?」
「その結論をもって、私の最初の議題に戻ろう」
涼夏が勝ち誇ったようにそう言って、議論は振り出しに戻った。
この地方でイルミネーションというと、遊園地系のテーマパークはもちろんだが、全国的にも有名なフラワーパークがある。昔はやっていなかったようだが、冬は花が咲かないので、新しい集客の軸にしたのだろう。
「つまり、冬は花が咲かないから、電球で飾ってる説に一票入れる」
「それは説得力があるな」
涼夏が満足げに頷いた。
他には、暗くなるのが早いから、単純に街を明るくするために灯りをつける習慣が拡大された結果だとか、そもそも海外発祥だろうから、クリスマスシーズンに行われていたものが伝来したとか、それっぽい意見を出しておいた。なお、正解はわからないが、それは重要ではないので特に調べたりはしなかった。
寒くて恋人ごっこをする空気ではなかったので、駆け足で10枚ほど自撮りして地下街に逃げ込んだ。真のカップルは寒さなど感じていないかのように、仲睦まじく肩を寄せ合っていたので、私たちは愛の熱が足りないのかも知れない。
残念だとため息をつくと、涼夏がカメラロールを指先でスクロールしながら「寒さには勝てぬ」と呟いた。
「でもまあ、なかなかいい写真が撮れた。メイクはちょっとあれだけど」
冬は乾燥するので、メイクが崩れやすい。夏は夏で汗をかくので、全然違った対策が必要になる。
ちなみに、涼夏は基本的には写真を加工しない。もちろん、友達に送る時やどこかにアップする時は盛るが、カメラロールには撮ったままの状態で残している。
涼夏は補正などしなくても完璧に可愛いから必要ないのだと、本人の前で絢音と二人で喋っていたら、涼夏がこう言った。
「加工も流行り廃りがあるからね。後で振り返って加工した写真しかないとか嫌だし、加工は後からでも出来るし」
確かに、輪郭を歪めるようなカメラアプリも流行っていたが、後から見て自分ではないような写真ばかりだと寂しい気もする。私は元々愛友たちと共有する以外に見せていないし、涼夏の話を聞いて、私もせいぜい明るくする程度にしか加工しないことにした。
今撮った写真も明るくして文字を入れて、奈都に送り付けておいた。「おしどり夫婦」と書いておいたが、実際にはオシドリはペアをどんどん変える鳥なので、私はオシドリ的に奈都とも絢音ともラブラブするというアピールだが、伝わるだろうか。
写真を見せながら涼夏にそう言うと、涼夏は目を細めて苦笑した。
「伝わらんだろ。嫉妬して終わりだな」
「でも朝、偉そうにオシドリを語ってた」
「既読スルーされて、また喧嘩になる未来が見えたな。ごちそうさま」
それは全然ご馳走ではない。奈都とも平和に過ごしたいが、他愛もない口喧嘩をする時間も嫌いではない。




