第69話 寒い(2)
学校でぬくぬくと時を過ごし、今日も部活の時間を迎えた。日中、冬ならではの遊びについて考えていたら、絢音からイルミネーションという案が出て、今日早速涼夏と見に行こうという話になった。言い出しっぺは塾だ。
今日の活動はコンピュータールームでぬくぬく過ごそうかとも思ったが、それを選択したら、恐らくイルミネーションはなくなるだろう。
今日は髪を下ろしている絢音と3人で校舎を出ると、朝よりむしろ寒いくらいだった。どんより曇った天気のせいだ。
「無理だ。私は頑張れない」
涼夏が足を止めて天を仰いだので、手を握って引っ張った。絢音がキョロキョロと辺りを見回しながら、「オシドリいないかなぁ」と声を弾ませた。どう考えてもいるわけがないが、どこにいるのかと聞かれても詳しくは知らない。きっと田舎の池や沼だろう。
「鳥っていうと、今また大阪にラバーダックが来てる。すっかり冬の風物詩だな」
涼夏がそう言って、何やら楽しそうに微笑んだ。とても可愛い。
絢音がうっとりと目を細めて、「黄色いのだね」とはにかんだ。恋する女の表情だ。
ちなみに私はラバーダックなるものを知らないので、調べてみたかったが、生憎涼夏に手を握られたままなので諦めた。
「それはアヒル全般の特徴だな」
涼夏がからかい気味にそう言うと、絢音が可笑しそうに頬を緩めた。
「涼夏の世界だと、アヒルは黄色いんだね」
「あれ?」
涼夏が手を離してスマホを取り出し、アヒルで画像検索する。表示されたのは、黄色いオモチャと実物の鳥で、鳥の方は白かった。
「黄色くないじゃん!」
「ヒヨコか何かと勘違いしてるのかなって思った」
「でも、オモチャは全部黄色いじゃん? お風呂に浮かべるやつとか」
「最初に作った人が、ヒヨコと勘違いしたんじゃない?」
さすがにそれはないと思うが、いずれにしても、お風呂にたくさんアヒルのオモチャを浮かべて入っている涼夏は可愛い。
ついでにラバーダックを検索してもらうと、巨大なアヒルが表示されて、思わず「でかっ」と声が出た。涼夏が「知らなかったんだ」と意外そうにしたが、こいつはそんなにも有名なのだろうか。
「大阪、バスなら2千円くらいで行けるけど、往復だと4千円になるし、向こうで多少は何かに使うと思うと、高校生には少し高いな」
涼夏が無念そうに声を絞り出す。私の感覚だと、バイトをしている涼夏にはそれほど高い額ではないと思う。USJに行く高校生とかたくさんいるし、安定収入があれば世界が広がりそうだ。
「涼夏が一人で行って、写真とか動画とか送って」
是非見てみたいと伝えると、涼夏は「帰宅部で行きたいのだが」と呆れたように首を振った。私ほどではないが、涼夏も基本的には一人で行動する子ではない。
「ラバーダックにはしゃいでるすずちさ撮りたい」
「ラバーダックを撮って。って言うか、すずちさって表現、すっかり定着したね」
呆れながらそう言うと、絢音が満足そうに頷いた。はしゃいでいる私たちを撮ってくれるのは有り難いが、絢音にはもっと積極的に表舞台に出てきて欲しい。そう伝えると、絢音が涙を拭う仕草をした。
「写真を見るたびに思い出してください。その写真を撮った女の子のことを」
「そういうのいいから、一緒に入って」
「何枚か入るよ。私、すずちさ推しだから、FC用に二人の写真を撮って、会員に高く売りつける」
「誰がいるんだ、そのFC」
涼夏が苦笑いを浮かべたが、涼夏の写真なら需要がある気がする。高く売れたら、美味しいものを食べに行きたい。
いつものようにハグをして絢音と別れ、とりあえず恵坂を目指す。電車の中で、少し気になったことを振ってみた。
「ヒヨコって、ニワトリになるでしょ?」
「そうだな」
「ニワトリって白いよね」
それだけで私の言いたいことを理解したように。涼夏が目を丸くした。
「もしかして、アヒルも子供の頃は黄色い?」
「可能性はある」
調べてみたら、案の定子供のアヒルは黄色かったし、オモチャと同じような形状をしていた。ついでに言うと、子供のアヒルのことをヒヨコと呼ぶこともあるらしい。
「やられた。あの女、知ってたな」
涼夏が頭を抱えたが、それはどうだろうか。絢音にしては珍しいが、始終白い大人のアヒルを思い浮かべながら喋っていたような気もする。
何にしろ、謎が解けて良かった。絢音に「子供のアヒルは黄色い」とスクショ付きで送ると、「新発見だね!」と返ってきた。つかみどころのない子だ。




