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番外編 ハンバーグ(3)

※今回、話の切れ目ではないところで切っています。

 ハンバーグ会当日、お昼前に涼夏邸に集まった。邸といっても私と同じアパート住みだが。

 母親は友達とお茶会をするとかで出て行き、妹は涼夏がお小遣いをあげて追い出したそうだ。無理しなくても良かったのだが、友達と遊ぶのに兄弟姉妹がいない方がいいというのは、一人っ子の私にも容易に想像がつく。

 材料は合挽き肉だけ、寄り道をして奈都と二人で購入した。量が量なので、買い間違えるのを防ぐために、事前に写真を撮って涼夏に確認したので安心だ。

「最近、ぽん酢を頼まれたからぽん酢を買って帰ったら、欲しかったのは味ぽんだったみたいな話題を見たから、何でも確認するのは大事だ」

 涼夏がお肉を冷蔵庫に入れながらそう言った。

 身内が頼んだものと違うものを買ってくるという話は確かによく聞くが、今時パッケージの写真や画像を見せれば、そんなことは起きないのではないかと思う。他人のことはどうでもいいが、私たちはそういうことがないようにしたい。

 今日の手順を確認する。まず玉ねぎをみじん切りにして炒める。その後、お肉とパン粉、牛乳などを混ぜてこねて、焼く。最後にソースを作ってかけて食べる。これをみんなで役割分担する。

「ハンバーグっていうと、初めて千紗都の家に行った時、一緒に作ったな」

 涼夏が懐かしむようにそう言った。そう言えばそんなことがあった気がしないでもない。まだ涼夏がこんなにも料理をするとは知らなかった頃だ。

「涼夏と初めて1時間チャレンジした日だね?」

「ハンバーグの話をしよう」

「あんなに赤くなってもじもじしてた涼夏も、今じゃすっかり慣れちゃったね。残念」

 私がガックリと肩を落とすと、涼夏が「慣れてないから!」と強く否定した。慣れたどころか、もはや私の体になど興味もないだろう。悲しいことだとため息をつくと、奈都が「私はいつだってチサのおっぱいが揉みたい!」と胸を張った。

 全力でスルーして玉ねぎに取りかかる。涼夏に好きに切ってくれと言われたので、みんなで適当にみじん切りにした。玉ねぎは切ると目が痛いというのが定番だが、涼夏が事前に冷やしておいてくれたからか、全然平気だった。

「人類は玉ねぎを克服した」

 奈都が勝ち誇ったようにそう宣言したが、炒める段階で目が痛くて死にそうになっていた。私と絢音も巻き込まれたが、涼夏は遠く離れた場所から、ニヤニヤしながら私たちの動画を撮っていた。

 玉ねぎの色が変わってきたら目も痛くなくなり、涼夏が戻ってきた。涼夏がいいと言うまで炒めてボウルに移す。

 この後、すぐには他の材料と混ぜずに、冷めるのを待つ。涼夏がボウルごと氷水に浸けながら理由を説明した。

「熱い玉ねぎと混ぜると、お肉の脂が溶ける。そして美味しくなくなる、らしい」

「なるほど?」

「熱いまま作ったのと食べ比べたことがあるわけじゃないから、どれくらい違うのかわからんけど、料理のワンポイントなんて全部そんなものだ」

 知らなかった時ならともかく、わざわざ美味しいとわかっている行程を省略して作ることはしない。涼夏が例として唐揚げの二度揚げを挙げたが、私たちは生憎唐揚げを二度揚げることすら知らなかった。

「まあ、これから覚えていってくれたまえ」

 涼夏がそう言って肩をすくめた。

 玉ねぎが冷めるのを待つ間に、件のアニメの第1話をみんなで見た。奈都と絢音は2回目だが、私と涼夏はもちろん初めてだ。1話だけではハンバーグについてはまったくわからなかったが、主人公たちが旅をする理由は理解できた。

「この世界に、ハンバーグっていう料理はあるの?」

 涼夏が材料を準備しながらそう聞くと、奈都がわかりやすく説明した。

「登場人物が日本語を喋ってるとは思えないから、すべての言葉は私たち向けに翻訳されてるって考えていい。このアニメがハンバーグのない国で放映されたら、ハンバーグとは呼ばれないと思う」

「とてもわかりやすい」

 涼夏が満足したように頷く。実際、中国の固有名詞が由来の言葉だってたくさんあるだろうが、作品の中に中国という国が出てくるわけではない。似たような国があると考えるより、翻訳されていると考える方が自然だろう。「四面楚歌」とか「杞憂」も元々中国の国名だ。

 ボウルの中に挽き肉を投下してこねる。そこに胡椒、パン粉、牛乳、卵を順番に入れてさらにこねる。

 十分練ったら、その後キャッチボールの要領でタネを叩いて空気を抜くらしい。こういうのもワンポイントだろうか。

「本来なら食べる分ずつくらいでやるけど、今日は1つしか作らないから、適当にやって後で戻そう」

 涼夏の指示に従って、みんなで空気を抜いてボウルに戻す。この後、少し冷蔵庫で冷やすらしい。

「ハンバーグは、美味しくするためのポイントが多い食べ物だと思う」

 奈都が真顔でそう言って、涼夏が「そうかもね」と同意した。

 事前にみんなの作ったハンバーグを見て、形の崩れたものがたくさんあると嘆いていたが、これは綺麗に作るのがなかなか難しい食べ物なのではなかろうか。

「お腹が空いた」

 絢音が我が子を慈しむようにお腹を撫でて、早く食べたいとせがんだ。子供の仕草だ。

「後は焼くだけだ。とても時間がかかりそうだけど」

「ハンバーグ、なかなか大変な料理だね」

「工程に待ち時間が多いだけで、作業量はそうでもなかろう」

「確かに、玉ねぎ以外、まだ包丁もフライパンも使ってない」

 絢音がそう言うと、奈都も今気が付いたようにおおと声を上げた。言われてみると、基本的には混ぜてこねただけだ。


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