番外編 ハンバーグ(2)
早速その日の昼休みに、涼夏と絢音に大きなハンバーグを焼く遊びを提案すると、涼夏は「面白そう」と微笑み、絢音は苦笑しながら頷いた。元ネタに心当たりがあるようだ。
「アニメの影響って言ってたけど、絢音も知ってるの?」
「今期の覇権だね」
そう言いながら、スマホで検索した画面を机に置いた。奈都も絢音も「覇権」という言葉を当たり前のように使うが、オタク界隈の独特の用語だと思う。私は日常会話で使ったことがない。
ついでにツイッターで検索した、みんなが作った大きなハンバーグも見せてくれたが、なるほど確かに一部で流行っているらしい。とても一人では食べ切れそうにない大きなハンバーグがズラリと並んだ。
「あまり綺麗に出来てないのもあるな」
涼夏が残念そうにため息をつく。料理を中心に据えた遊びをすることも多いが、涼夏の中で美味しいのは絶対だ。わざと不味く作る類の遊びは許せないと言っている。
もっとも、確かに端の方がボロボロのハンバーグも多いが、これに関しては適当に作ったのではなく、慣れない人がアニメをきっかけに料理に挑戦した結果、上手に出来なかっただけだろう。悪意はなさそうだ。
「もし奈都が涼夏の力を借りずに挑戦したら、きっと同じ結果になるよ」
彼らを奈都に見立てて弁護すると、涼夏が仕方なさそうに頷いた。
「最初から上手く作るのは難しい。レシピを正しく2倍や3倍にすればこうはならないとは思うけど」
素人こそレシピ通り作れ、というのが涼夏の教えだ。奈都もどうせ作るなら美味しく食べたいと思った結果、初めから涼夏に声をかけたのだろう。
「ナツって良くも悪くも影響されやすいね。私もこのハンバーグが話題になってるのは知ってたけど、自分も作ろうとはまったく考えなかった」
絢音が感心するような、どこか呆れたような口調で言った。確かに、奈都は意外と行動力がある。それと帰宅部の遊びに参加してくれるかはまったく別の問題だが。
「今回は、たまたま奈都のやりたいことが帰宅部的だったね。自発的に涼夏としたがってたし」
「基本的には、千紗都と二人で遊びたいっていうナッちゃんの気持ちは、理解出来ないでもない」
「私も、みんなで遊びたいけど、二人で遊ぶのが嫌だっていうわけじゃない」
賛同するように頷くと、絢音がくすっと笑った。
「すごく遠回しな台詞たち」
「二重否定の連続は、そのまま今澤奈都という人間の難しさを表している」
「私にはそこまで複雑な子じゃないんだけどなぁ」
絢音が不思議そうに言った。典型的なオタク思考らしいが、そもそもそれが私や涼夏の行動原理とだいぶ違う。
実際、思ったらすぐ行動して、好きなこと以外にはあまり興味がなく、好きなことには饒舌になるという、シンプルな生き物という気はする。
奈都学はともかく、話をハンバーグに戻すと、場所は涼夏が親に打診してみると言った。家にいるかも知れないとのことだが、そっちが構わなければこっちは構わない。ただ、女子4人でうるさいとは思う。
「土日に誰かの家で集まる時は、涼夏に迷惑をかけることが多い」
大変有り難いと礼を述べると、涼夏は軽く手を振った。
「私は外に出なくて済むから助かる。妹もまあまあいないし、母親も土日に家にいるのは嫌いなタイプだ」
「料理も助けてくれる」
「それは趣味だ。食べるより作る方が好きまである。あと、絢音と千紗都には少しでも料理を覚えてほしい」
「卒業してから頑張るね」
絢音がグッと拳を握った。今のところ4人の中で一番やっていないが、家族の前で料理をしたくないだけで、料理が嫌いなわけではない。頭はいいし大雑把でもないし、きっとすぐに出来るようになるだろう。
「奈都が、食べるより焼くのが大事だって言ってたから、大きいの1つ焼いて写真を撮ったら、みんなで分ける感じがいいんじゃないかな」
今朝の奈都の話を伝えると、涼夏がうむと頷いた。
「焼くのに時間がかかるし、1回に1つしか焼けないし、そんなに食べれないだろうし」
「1キロバーグ」
「4人でなら食べれるかな。どうやってひっくり返すか、当日までに考えておいて。アイデア募集中」
涼夏がそう言って笑った。
ツイッターでも、どう裏返すかを悩んだツイートが散見される。お好み焼きのように出来ないかと思ったが、小さなフライパンの上でそれをやったら大惨事になりそうだ。
何にしろ、大きなハンバーグを焼く遊びは実現しそうである。また後で発案者に報告しておこう。




