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第64話 京都 2

 京都に行くこと自体はその日の内に決定した。奈都も複雑な事情はなかったようで、楽しみだと言っていた。

 涼夏の誕生日だと若干紅葉は早いが、山間部にある貴船神社や三千院などは紅葉が始まっている。ただ、いずれもアクセスが悪く、バスが大渋滞に巻き込まれそうだし、日帰りだと一箇所で終わってしまうだろう。

 紅葉が見たくて11月にするのではない。単に涼夏の誕生日が11月だからそうするだけなので、むしろ紅葉前で混雑のピークを避けられてラッキーと思おう。

 初めてだし、無難に清水寺から高台寺、円山公園というルートが良いだろうか。朝、通学路で奈都に意見を求めると、奈都は「修学旅行みたいだね」と笑った。

「その辺は行ったことがあるけど、チサも主役も行ったことがないならいいんじゃない?」

「奈都は経験者か。中学の修学旅行で行ったの?」

「家族旅行だよ」

 奈都が私の冗談をスルーして、普通にそう答えた。もしかして気付かなかった可能性があるので、もう一度同じネタを使ってみる。

「奈都は中学の修学旅行はどこに行ったの?」

「高山と白川郷だよ。飛騨牛の牛串美味しかった」

 そう言って、まるで味を思い出すように薄く目を閉じて微笑んだ。ちなみにそんな場所には行ってないし、そんなものは食べていない。私たちは南の方にある歴史ある神社に行ったり、世界遺産の古い道を歩いただけだ。

 ただ、今ので奈都が私の冗談を理解しているのはわかったので、これ以上引っ張るのもくどいだろう。

「奈都は京都ならどこがいいと思う?」

 参考までに聞いてみると、奈都は少し考えてから答えた。

「伏見稲荷とか? 写真映えもするし、涼夏も喜びそう。行ったことないけど」

「行ったことないのか。他には?」

「金閣寺じゃない? ピカピカ光ってて、涼夏も喜びそう」

「カラスか」

 涼夏に光っているものが好きという習性はなかったと思うが、京都に行ったら金閣寺というのは王道で悪くない。何せ私たちの京都レベルは1なのだ。

 学校に着くまで喋っていたが、出てきたのは平安神宮や嵐山、二条城や南禅寺といった、有名な場所ばかりだった。検索したら上位に並びそうな観光地ばかりだが、何も見ずに出てくるのはすごい。奈都の京都レベルは私よりだいぶ高そうだ。

 この情報を持って絢音とも話してみることにする。今日は涼夏がバイトなので、部活は私と絢音だけだ。

 気候がいいので、駅で涼夏と別れた後、適当な公園のベンチに座ると、早速今朝奈都と話した内容を伝えた。絢音は楽しそうに聞いてから、「修学旅行みたいだね」と笑った。奈都とまったく同じ反応だ。

 そう突っ込むと、絢音は可愛らしく唇を尖らせた。

「だってそうだもん」

「じゃあ、修学旅行プランで行く?」

「もしそうするなら、私は事前に調べてガイドさんをやるよ。ねねについて語る」

 ねねと言えば高台寺だ。何も知らずに見るより、絢音の蘊蓄を聞きながら見るのは面白そうだと考えていたら、絢音が「ただ」と切り出した。

「それは涼夏の誕生日に相応しい旅行かなぁ」

「って言うと?」

「もし涼夏が自分でプランを立てたら、高台寺とか行かなそう」

「確かに」

 それは一理ある。涼夏は何にでも興味があるが、取り立ててお寺や神社が好きというわけではない。沖縄に行った時も真っ先にウミカジテラスに行ったし、港川ステイツサイドタウンという、やはりオシャレなスポットを組み込んでいた。

 インスタ映えしそうなスポットを検索したら、着物の柄のポールが立ち並ぶ、キモノフォレストなる場所がヒットした。散策無料のようだし、確かにこういう場所の方が涼夏にはウケそうだ。

「後は、鉄道博物館とか? 涼夏、乗り物好きだし」

 何気なく絢音がそう言って、私は思わず笑った。本人は一貫して否定しているが、絢音の中でも涼夏は乗り物が好きという印象らしい。

 ただ、本人が否定しているのは確かなので、まったく喜ばれない可能性はある。しかもなかなかいい入場料だ。

「カフェとかは?」

 京都なら涼夏好みのカフェがたくさんありそうだ。涼夏はカフェとか好きなタイプの女子だし、お金はかかるが一度入ればそれなりの時間滞在できる。

 スマホで検索していると、絢音が思案げに眉根を寄せた。

「可愛いカフェなら地元にもあるし、京都まで行ってカフェに行きたがるかなぁ」

「京都っぽいカフェとか」

 緑色のスイーツが出てきたら京都だと主張すると、絢音が小さく笑って肩をすくめた。

 絢音の言うことももっともだ。それなりの時間滞在できるが、京都まで行ってカフェでそれなりの時間滞在するのももったいない気がする。

 ただ、絢音が気にしているのはそこではなく、本音を言えば絢音自身があまりカフェに興味がないだけだろう。涼夏の誕生日だが、絢音や奈都が楽しめないプランは却下だ。

「改めて涼夏のことを考えると、ストライクゾーンはどこにあるんだろう」

 オシャレが好きで可愛いものが好きで甘いものが好きな、ごく一般的な女子高生だが、帰宅部の変なノリにも付き合ってくれるし、自分で企画もしてくれる。全方向に対して好奇心が強そうだが、あまり清水寺ではしゃいでいるイメージはない。

 グループに「涼夏とは何か」と流しながら絢音に意見を求めると、絢音は苦笑いを浮かべた。

「私も清水寺でははしゃがないし、千紗都のストライクゾーンもよくわからないけど」

「私はみんなと一緒ならなんでもいい感じ」

「ストライクゾーンより、ボールゾーンを探す感じ? 千紗都はなんでも楽しめるけど、涼夏は登山とか絶対にやりたくないし、私も動物関係は苦手だし」

「ボールゾーンか」

 確かに、したいことより、したくないことから絞り込んでいくのは手だ。例えば奈都は、体験教室的なものは何となく恥ずかしいみたいなことを言っていた。京都だと着物体験やお茶の体験などが出来そうだが、奈都はあまりやりたがらないかもしれない。

 もっとも、奈都に関しては、基本的にストライクゾーンが狭すぎるので、あまり配慮しなくて良いだろう。着物を着て写真を撮るとか、涼夏は喜びそうだが、金銭的な理由で絢音も厳しいかもしれない。

 苦手というと、今回の旅行とは関係ないが、私は知らない人と一緒に何かをするのが得意ではない。謎解きゲームでチームを組むとか、ボドゲカフェで相席になるとか、そういったシチュエーションは苦手だ。私のボールゾーンと言える。

「結局、修学旅行かな。初京都なら有名なところを押さえるのも悪くないと思う」

 絢音が京都の観光スポットの紹介ブログを開いて指で弾いた。何か少しでも変わったことをしたいとは思うが、まずは基本が大事である。ひとまず今日は、レベル1なりの勉強をすることにしよう。

 ちなみにその夜、テキトーにグループに流したメッセージに、涼夏が「ごく一般的な女の子だ」と返し、それに対して奈都が、「ごく一般的な可愛さじゃない」と書いていた。奈都は本当に可愛い女の子が好きだ。

 私がそうツッコミを入れると、絢音が「私も!」と書き、涼夏も「千紗都の可愛さは尋常じゃない」と奈都をフォローしてくれた。優しい人たちだ。


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