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第54話 文化祭2 12(2)

 リュックを背負って、すでに薄暗い校舎の外に出る。踊り狂う学生たちを遠巻きに眺めている3人を見つけると、奈都が睨むように目を細くした。

「おーそーいー」

「心の中にいる神と対話してた」

 テキトーなことを言いながら奈都の頬を両手で挟んでぐにぐにすると、奈都が驚いたように目を見開いた。

「な、何? 新しいスキンシップ?」

「神がそうせよとおっしゃった」

 ついでに両手で奈都の胸を揉みしだくと、奈都が悲鳴を上げて自分の体を抱きしめた。我ながら変なテンションだ。

 絢音が楽しそうに笑っている横で、涼夏がじっと私を見つめる。心配してくれているようだが、幸いにもなんともない。

 踊りに参加しない後夜祭はそれほど楽しいものではなかったので、終了前に切り上げて帰路についた。すっかり暗くなった夜道を歩き始めてすぐ、涼夏が口を開いた。

「それで、どうだった?」

 絢音は知っているのかにこにこしたままだったが、奈都は「何が?」と首を傾げた。

「例の川波君に告白された」

「一大事じゃん! 神と対話してる場合じゃないでしょ!」

 奈都が真顔でそう言って、堪え切れないように絢音が笑い声を立てた。その辺は説明が面倒なので割愛して、涼夏の質問に答えることにする。

「やっぱりきっかけは糸織の告白みたい。糸織と付き合う前にケジメをつけようってことだと思ったけど、糸織と付き合うかはわからないとか、わけのわかんないこと言ってた」

「余計な嫉妬が生まれないに越したことはないな」

「また3人だけの帰宅部ライフが戻ってくるね」

 絢音が元気にそう言うと、隣で奈都が「3人……」としょんぼりした呟きを漏らした。どう考えても日頃から帰宅部ではないと主張しているのに、こういう時だけ仲間に入りたがる。

 川波君がどうするかはわからないが、糸織が恋を覚えた以上、私たちと遊ぶ時間は減るだろう。この帰宅部は男子禁制だし、恋愛トークも望まれていない。

 川波君と糸織のことは置いておいて、せっかく文化祭があったのだし、今日の振り返りをしよう。魔女っ子喫茶でそれなりに語りはしたが、奈都とは一緒にいなかった時間が多く、話したいことはまだたくさんある。

 何から話そうか考えていたら、その沈黙を別の意味で解釈したのか、奈都が不安そうに私の顔を覗き込んだ。

「聞くまでもないと思って聞いてないけど、断ったよね?」

「聞くまでもないね」

「でも何かちょっと引っかかってるとか?」

「何も引っかかってないね」

 心配すること自体が私に失礼だと思うが、安定していた関係性が喪失した残念感がないでもない。よく冗談で、川波君が私を好きだという感情を利用していると言っていたが、それは実際その通りで、今回の件は少なからず私の日常に変化を及ぼすだろう。

「例えば、今回私はまた実行委員をやったけど、私が手を挙げれば川波君もやるだろうっていう確信があったし、実際にそうなった。人間関係的な面倒事も全部押し付けてたし、川波君がいなかったら断ってたのは確かだね」

 その感情は恋ではないので正直に吐露すると、奈都が「依存?」と若干もんにょりしたように聞いてきた。

 安心させるように首を横に振って続けた。

「便利な道具的な」

「それならいいけど。よくないけど。これだから美人は」

 奈都がやれやれと肩をすくめる。涼夏が私を擁護するように言った。

「好意を向けられるだけで迷惑だから、せめてその好意を便利に使わせてもらうくらいはしてもいいと思う」

「これだから美人は!」

 奈都が強めの語気で、同じ言葉を繰り返す。隣で絢音がくすくすと笑った。

「バンドで忙しかった私が言えたことじゃないけど、そこは私たちで協力し合ってカバーしていかなきゃだね。そういう意味では、私も川波君に千紗都を任せてたところはある」

 反省反省と、絢音が楽しそうに言った。

 総じて、あの男は便利だった。好意を使ったのは申し訳なかったが、思わせぶりな態度は一度として取っていないので、そこは理解して欲しい。

「はぁ。告白とかすんなよ、まったく」

 大きくため息をつきながら、右腕でガシッと涼夏の肩を引き寄せて、左手でおっぱいを撫で回した。ふんにょりしていて、実に心地良い手触りだ。

「テンションがおかしいな」

 涼夏が身をよじりながら呆れたように言った。そのまま左手でシャツのボタンを外して手を突っ込み、ブラのカップの上から中に手を入れると、涼夏が可愛らしい悲鳴をあげた。

「公衆の面前でなかなか大胆な行動ですね」

 私が生乳を揉みながら冷静にそう言うと、涼夏が顔を赤くしながら「自分で言うな!」と声を荒げた。奈都は他人のフリをするように一歩距離を置き、絢音はいいなぁと呟きながら、控えめな自分の胸をふにふにと押していた。

 確かに、胸を触りたい衝動に駆られた時、私の手の選び先が均等ではないことは改善しなくてはいけない。私は3人を均等に愛しているが、バストサイズの格差が私の行動に影響を及ぼしているのは間違いない。

「深く反省した。今度絢音のおっぱいを撫で回す」

「今度じゃなくていいけど」

「じゃあ今からする」

 涼夏を解放して、絢音を背中から抱きしめて指先で胸をいじり回すと、絢音がくすぐったそうに声を漏らした。

 奈都が三歩離れた場所から、心配そうに眉をゆがめて私を見た。

「チサ、無理してない? 明らかにテンションがおかしいよ?」

「おっぱいに目覚めた。みんなが私のおっぱいを揉みまくる気持ちを理解した」

「目覚めないで。そう言われると、普段私たちがチサにしてることの範疇を出てない気もする」

 奈都が納得するように頷くと、涼夏が「私はしてないな」と静かに首を振った。十分していると思うが、みんな自分のことはわからないのだ。

 紅潮した顔で嬉しそうに微笑んでいる絢音を放して、涼夏の隣に並んだ。涼夏が私を見ながら、少しだけ笑った。

「ちなみに、告白すんなよは川波君の話? 糸織の話?」

 涼夏の言葉に、奈都が「その可能性もあるのか」と呟いた。

 そもそも糸織が告白していなければ、私たちの関係性は何も変わらなかった。もっとも、誰からも恨みを買わないなら、川波君に彼女ができるのは大歓迎である。口ではああ言ったが、別に遠慮なく二人は付き合えばいい。

 そんなようなことを話していたら、古沼の駅に着いた。明日は涼夏も絢音も遊べないので、また今度帰宅部の打ち上げをする約束をして絢音と別れた。

 3人でイエローラインに乗り込んで、明日はバイトだと若干憂鬱そうな涼夏を久間で見送った。明日は暇なので、ぶらっと職場に冷やかしに行くのもいいかもしれない。

 最寄り駅までの短い時間で、奈都と後輩ちゃんの話をする。奈都が、「マイちゃん、私よりチサのことが気に入ってないか?」と不満げに零したが、もしそうだとしたらそれは奈都が冷たくしてきたツケだろう。そう断言すると、奈都が驚いたように眉を上げた。

「冷たくしてないから。優しいから」

「朝会うと、私と二人で行くからとか突き放すじゃん」

「ただの冗談じゃん」

「あれ、冗談だったの?」

 それはびっくりだ。どう考えても冗談とわかる情報はなかったと思う。

 最寄り駅で降りて、並んで改札をくぐった。明日は奈都とも遊べないので、ぼっちである。せっかくなので、ご飯とお風呂を済ませてから泊まりに来るよう言うと、奈都は大袈裟に息を呑んだ。

「いいけど、どうしたの? 友達を二人失って寂しいの?」

「そんなことはないと思うけど、もしかしたらそうなのかもしれない。奈都のおっぱいを揉みまくる」

「完全に目覚めちゃったんだね。私もチサのおっぱい揉みまくるよ?」

「それはちょっと……」

 ごめんなさいと体の前で手を合わせると、奈都が納得いかないとため息をついた。

 また後でと言って奈都と別れる。明日は暇だし、今夜は飽きるまで胸を揉み続けてやろう。1分くらいで飽きそうだが。

 ひとまず、私の2年次の文化祭は終了した。なんだか色々な男子の問題に巻き込まれ、しかもまだ、絢音の後輩君のことも、川波君と糸織のことも片付いていないが、それはそれとして文化祭は楽しかった。

 すぐに10月になる。今夜一晩くらいは奈都と文化祭の思い出を語り合って、明日からはまた帰宅部の秋を充実させる方策を練ろう。他人の恋愛事に感傷的になっている暇も余裕も、私には無いのだ。


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