4.兄と弟
複数取れたのでホワイトクックの肉をお裾分けすることにしたハロルドは、アーロンの家の戸を叩いた。きっちりと無駄なく素材を捌けたので少し機嫌がいい。
「ハル兄じゃん、久しぶり」
「うん。久しぶり、グレン」
少しだけ不機嫌そうに現れたのはアーロンの弟であるグレンだった。チョコレート色の髪と緑色の目をしている。少し吊り目に見えるのが生意気そうな印象を与えた。
お裾分けだ、とハロルドの手にしたものを見て、パッと表情を明るくする。それにハロルドが微笑むとそっぽを向きながらも、そわそわと「ありがと」と言った。
「最近どう?」
「ハル兄の教えてくれた通りにすると薬草採取で間違いがないから助かってる。弓矢を使った狩りは……オレには向いてないかも」
難しい顔をするグレンは小さな声で「兄貴みたいには、できない」と呟いた。その言葉にハロルドは「あ、それは俺にも無理」と普通に返した。
普通はあんな精度で弓矢は当たらない。アーロンの命中率はそれくらいすごかった。
「無理だよ、無理。アレを基準にするのはダメだよ。一緒にいると感覚麻痺してくるけど、普通は飛んでる鳥に矢なんて早々当たらないんだよ」
魔法で滅多打ちにしたり、追い込んで仕留めることならハロルドにもできなくはないけれど同じことはできない。あれは異質だ。スキルによるものか、あるいは彼自身の才覚によるものだろう。
「ふぅん……兄貴、すごいんだ」
素っ気ないように言うけれど、どこか誇らしげだ。そんなグレンを見ながらハロルドは「これだけお兄ちゃん好きなのが見え見えなのに、アレなんだもんなぁ」と苦笑した。二人が話していると、「あれ、ハル?」とアーロンの声がした。
現れたアーロンは妹のミラを肩車して、ちょんまげを作られていた。なんともいえない間抜けな感じにグレンの目が細められた。
「ダッセェ」
ハロルドに「肉、ありがと」とだけ言って、アーロンには目も合わせず中に入っていった。
「悪い、後で怒っとくわ」
「いやぁ……俺には普通だから何とも言えないな。もう少し、グレンとも話す機会を増やしたらいいんじゃないかな」
素直になれないお年頃なのだろうか。グレンはアーロンに対してだけ態度が悪かった。でも、よそから見ていたらグレンがアーロンのことを自慢の兄だと思っていることがよくわかる。態度がもう「うちの兄貴すごいでしょ」という感じなのだ。
「ハルにーちゃん!んっ!!」
アーロンに下ろされて両手を広げて抱っこをせがむミラを抱き上げると、「追いかけて話し合ってきたら」と声をかけた。
グレンは我慢をするタイプだった。自分も母や兄に構ってもらいたいという気持ちを我慢していたら、だんだん素直になれなくなってきた。ハロルドは他人ではあるけれど、大好きな兄の友人で面倒見も良かったのでそれなりに話せた。本当にそれだけの話である。
(まぁ、基本的には現実で“お兄ちゃんのことなんて、全然好きじゃないんだからね!”とかされても、可愛くも何ともないからな)
そんな理由で友人をけしかけた。こればかりは相手が弟だろうが妹だろうが同じだろう。そういうものは創作物で、相手が本当はどう考えているかある程度分かるから「可愛い」と思うのだ。
少しだけ考える素振りを見せて、アーロンは「ハルが言うなら、うん。話してみるわ」と言って追いかけた。
「ミラ、今日は何をしてたの?」
「かーちゃんのおてつだいした!」
「そっか、えらいね。俺がご褒美をあげよう」
きゃっきゃと喜ぶミラと遊びながら、男二人の話し合いを待っていると、アーロンの母親であるソーンが帰ってきた。
「おや、ハロルドくん。帰ってきてたんだね。ウチのもいる?」
「はい。今グレンと話してると思います」
「グレンも寂しがってたからね。ミラの相手をしてくれてありがとう」
母親にもグレンがお兄ちゃんっ子なのはバレバレのようだ。
翌日、「グレンに狩りのこと教える約束させられたわ」と苦笑するアーロンがいた。
いつも読んで頂き、ありがとうございます!!
グレン
アーロン弟。現在10歳。素直になれないだけで兄貴が帰ってきてとっても嬉しいしそわそわしてる。
ただ素直になれないので「俺って嫌われてるのかなぁ」とアーロンに思われているのはちょっと仕方がない。
手先は器用。あと、ハロルドよりは弓矢の扱いが上手い。
ミラ
アーロン妹。現在5歳。あんま体が強くない。ちょっとずつ元気にはなってる。
お兄ちゃんっ子(両方)。ハロルドのこともちょっとお兄ちゃんだと思ってる。
父親の顔を知らない。




