12.薬学都市イラージュ
仲悪い(ある意味当然)な二人
神や妖精たちに『砂の国』と呼ばれているラムル王国。
エーデルシュタイン王国との間には砂漠が、花香との間には熱帯林がある。
国民の多くは熱帯林側で生活をしているが、貿易をする者や冒険者、史学者は砂漠で活動している者も多い。
ラムル王国において優れていると知られているものが薬学だ。
神話の時代より、医神アルスを信仰する者が多く、その中でも優秀なものたちが集まる都市があり、神と同じく、人々を病から守りたいと願う者たちが日夜研究に勤しんでいる。
それこそがラムル王国第三王子アデニウムも長く暮らす薬学都市イラージュである。
「ここに来るんだったら、長く滞在できるもう少し平穏な時に来たかったな」
「嘘だろ……?こんな退屈な場所、いる意味がない」
「勇者様と違って、うちのハルは学者肌なもんですから」
「あ?」
またバチバチやっている。
ハロルドは二人を見ながらため息を吐く。
そもそも、ロナルドがせっせと近づいてくるのがおかしな話なのだ。なぜ急に自分たちに興味を持ったのか、とハロルドは思うものの、ロナルドの思考などわかるはずもない。
「一回ぶん殴らないと立場がわからねぇみたいだな」
「へぇ?もしかしてアンタ、勇者じゃなくて蛮族だったわけ?」
「なんだと?」
「なんだよ」
「はいはい。喧嘩しない」
間に入ってロナルドに離れるようジェスチャーをする。
仲良くしろとは欠片も思わないが、顔を合わせた瞬間こうなるのは避けてほしい心境だ。
「アーロンがあそこまで嫌いになるなんて珍しくないか?」
「致命的なところで気が合わないから仕方がないことではあるんだけど」
スノウが不思議そうな顔をしている。
本来、アーロンは比較的温厚だ。しかし、こと友人や家族が関わることになると話は変わってくる。
ロナルドの家族を家族と思わない態度は、アーロンが彼を嫌う理由に十分だった。
(せめてペーターのことを覚えていて、何か労わることでも口にしていれば話は変わったのかもしれないな……)
ロナルドにとって、『家族』とは前世の家族なのだ。
ハロルドもまさか名前すら覚えていないなんて思っていなかったが、あの様子では本気だろう。
(守るべきものがなく、力だけを求め、野望にひた走る勇者、か。危ういな)
一度暴走すれば、止めることのできる人間が少ないということも含めて、危うさが目立つ。
ハロルドは諸々の事情もあってロナルドのことは嫌いだが、それでも不幸を望んでいるわけではない。
とはいえ、これ以上、ロナルドのことを考えるのも嫌だったので、切り替えて周囲を見る。
薬学都市と言われるだけあって、多くの本屋や薬草を取り扱う店がある。食事をする店でも薬膳を売り出しているところが多いようだ。
ハロルドは「やっぱり、できれば私用で来たい場所だなぁ」と口に出す。
「おれはちょっと苦手かも。臭いがキツすぎる」
「狼向けではない土地かもしれないね」
スノウが嫌そうな顔をしていることに苦笑する。
獣除けなども置いてある関係もあるだろう。
「長期休暇とかでカラムに助けて貰えば少しくらい遊べるかな」
エーデルシュタイン王国の面々の顔が青くなるようなことを言いながら、ハロルドは店の前を通り過ぎる。
今日はこの土地に泊まるので、本当は見て回りたいところだ。ゆっくり観光する時間が許されないことはわかっているが、そう思うのだけは許されるだろう。
いつもはアーロンにベッタリのスノウとルーチェは喧嘩している二人から離れるようにハロルドに引っ付いたままだった。




