30.触るな危険4
愛らしいのは姿だけだ、なんて襲撃者が気づいたのは地に伏してからだった。一人は辛うじて自害できたが、その様子を見たブライトが「歯かな?」と呟くと、二人目からは初手で容赦なく意識を落とすか、口に何かを突っ込んでくるようになった。
「ふふ、こ〜んがり焼いちゃうかしら!」
ブライトだけに気を取られていると、赤髪の愛らしい少女が、触れるだけでその部分が動かなくなるような炎の魔法を操ってくる。
予想もしていなかった惨劇がそこにはあった。
彼らは「自分たちは蹂躙者」だと思っていた。
ところが、現実はどうだろうか。
「うーん……。この間逃げた連中とはやっぱり質が違うなぁ。だったらコイツらは末端なんだろうけど……」
戦っているとは思えないほど呑気な声で、ブライトはそう言う。
襲撃者たちだって、国元では優秀と言われる暗部の部隊であった。確かに最初にフィアンマ帝国の元に忍び込んだ者たちには劣るものの、雑魚扱いされるほどではない。だというのに刃物が通らず、体術でも敵わない。後ろに控える少女が操る炎も厄介だ。
「ま、僕の婚約者に手を出そうとしたんだし、ある程度酷い感じでも許してもらえるか」
つまらないとでも言うように、石を投げると、逃げようとした者の足にぶつかって、悲鳴が上がる。小さな石がぶつかった程度であることが信じられない音がして、呻く男のそばにいくつかの影が落ちる。
数秒もすると、転がっていた男たちは回収されて、そこには誰も残っていない。
「これは全部、もらっていくね」
「どうぞ」
冷たい男の声だけを残して、全てが消えた頃、誰かが近づいてくる足音が聞こえた。
「こんなところで何をしておられるのですか?ブライト様」
「うーん……虫取り?」
「あら、そんなことに興味がおありでしたのね」
門の中からエトナが顔を出すと、少し呆れた顔をしていた。もちろん、言葉通りの虫取りでないことは理解している。
「おほほ、美しいものには虫が寄ってくるのは仕方がないことかしら!」
「ブライト様……」
「私が原因です。巻き込んでごめんね、って翻訳して……」
前は美しかった彼女だが、今の姿は『可愛らしい』としかいえないだろう。そして小さな鳥の姿だったルーチェはまだ弱っているのだと判断されていた。
実際は、その姿は今の主であるブライトの影響によるもの。むしろ、襲撃の時よりも力を増して、更に手を出しにくくなっている。
「こんなに可愛らしいのに、自認が美しいなんだよねぇ。襲われる理由も弱ってると思われてるからだし」
「……それは、ここにいる理由にはなりませんことよ」
「僕への脅しの材料」
「なるほど」
ブライトとエトナは、政略での婚約者とすれば仲が良い方だ。だからこそ、納得がいったのかエトナは静かに頷いた。
「ゼーゲン様がいるから大丈夫だとは思うんだけど……ハロルドくん家の結界を破壊したって聞くし、できる限りさっさと片付けておきたくて。子爵……ローウェルさんの許可は得てるし、確保ができた以上は帰るから安心して」
そう話すブライトに、エトナは「心配してくださったのですね」と微笑みかけた。
「そりゃあ、家族になる人だもの。心配くらいするよ」
さらりとそう言った彼に、エトナは頰を染めた。この暗闇でバレないことに、どこかホッとしつつ、視線を逸らす。
後ろにいた侍女が「お嬢様」と声をかけると、エトナは頷いた。
「……あまり無理はなさらないでね」
「わかってるよ。君が屋敷に入るまではここにいるね。……おやすみ、エトナ」
「ええ。おやすみなさいませ、ブライト様」
ブライトはそのまま、彼女が屋敷に入るのを見届けて、一息吐く。
「これで落ち着くと良いけど」
今回導入された人数は多かった。国外に連れてくることができる人数は限られているだろう。
ここから、どう出てくるかわからないが、手足はだいぶ捥いだはずだ。
気にかかるのはルーチェを最初に襲撃した人間がこの中に入っていなさそうなことか。
まだ気を抜くことはできない。オパルス邸に背を向けた彼の目は鋭いままだった。




