27.触るな危険1
セルピナの件はさっさと報告をお願いして、ハロルドは普通に学業に専念していた。彼は一国の盛衰に自分が関わることはないと思っているし、それで人に恐れられることを望んでいるわけではない。そして、妖精たちにもしっかり自分から離れないようにと話をしているので、現在のところは神の力を借りて滅ぼすようなことをしなくてもいいと思っていた。
しかし、それで困るのはハロルドではなく、むしろ彼を襲ってきた者たちだった。
愚かしくもハロルドの家に突撃した者たちは死ぬ前に自白剤でペラペラと言わなくてもいいことまで全て話していたし、まだ悪巧みをしていた者たちはハロルドに一瞥もされぬままであるせいか、話しかける機会すらありはしない。
ハロルドに近づけないということは、彼の側にいる妖精や精霊にも近づけないということだ。
ハロルドが強大な力を持っているからこそ、国との連携は最小限で、歴代の加護持ちと同じように『自分だけでなんでもできる』『どうにでもなる』と考えている人間だと思っていた。
しかし、実際はどうだろう。
やったことが翌日にはすでに王家へ伝わっており、優秀なものほど見切りをつけて名ばかりなはずの東宮の元へと去って行った。
すでに警告のようなことも受けている。男には後がない。
「それでも、一匹でも捕まえられれば……!!」
あれだけの力を持つ少年の側にいる妖精だ。きっと、極上の燃料だ。一匹だけでも相当な期間、国を潤すことができる。成果が出れば認められ、出世も可能だろう。
取らぬ狸の皮算用でしかない。できるかどうかもわからないことを考えながら、そのために何が必要かと考え込む。
武器である魔道具の一部は押収された。エネルギーコアもその中にある燃料ごと奪われたままだ。
「次に備えて新たな燃料も確保しなければ」
しかし、この国には存在するはずだと聞いていた妖精も、精霊も姿を見せない。
存在すら探知機に引っかからない。
となれば、男に想い出せる存在は一つだった。
——輝きを失った哀れな神鳥。
それが今、どういった存在になりつつあるかまでは考えもせず、ただ「一度は取り込むことができそうだった」という理由で彼はそれに標的を絞った。
今はエーデルシュタインの少年に譲られたと聞いていた。しかし、それがハロルドでも王族でもないのならば、手はある。
「確か婚約者がいるのだったな。子爵家の」
男は口角を上げる。
ハロルドの婚約者は侯爵家の令嬢だ。当然、相応に家は守りが厳重で手が出しにくかった。
しかし、子爵家。下位貴族だ。どうとでもなるはずだ。
『令嬢を人質に差し出させればいい』
男はそれをとても良い案だと思ったのか、窓の外の月を見上げて満足そうに顎鬚を撫でた。
そこに『何が』滞在しているのかも、敵に回そうとした『少年』がこの国でどういう扱いを受けていた存在なのかも男は理解していなかった。
少なくとも、知っていれば少しくらいは躊躇していたかもしれない。




