17.エサはラムルローズ
アルスはハロルドの温室にある薬草をウキウキと収穫しながら、花香で失われた薬草や枯れた土地が多くなっていること、異常気象が多いことを話してくれた。薬草を与えれば聞きたいことを大体教えてくれるあたり、(都合の)良い神である。
「土地の魔力を吸い過ぎて、植物を育てる環境でなくなったから、わざわざ魔石を使って土地を整えているんだ」
「それなりにしとけばいいのに。愚か」
「まぁ、愚かだからあのフォルテ様にすら見捨てられるんだ。あの娘もスキルを剥奪されたと聞くしな」
ネモフィラに同調しながら、ホクホク顔をしているアルスの目の前にラムルローズを出すと、手をワキワキしている。
「そ、それは……!もう手に入らないと思っていたラムルローズ……!!どうして君の手に」
「ちょっと、とある筋から」
これは砂の妖精たちが「おいしいおやつ!」「お礼に宝物あげる!」と差し出してきた種を育てたものである。ラムル王国では絶滅したと言われていたが、妖精たちはしっかり種を保存していた。そして、それを育てたものを後にハロルドからもらって大喜びしている。妖精たちからすれば、ハロルドへ何か与えるのはいいことしかない出来事だった。
ハロルドは手を伸ばすアルスをひょいっと避ける。
悲しそうに項垂れるアルスを見ながら、「いつまで妖精や精霊に隠れていてもらっていればいいか、わかりますか?」と尋ねる。
「えー……。滅びるまでではないか?マーレもそんな感じだったようだし」
「俺も好き好んでああいうことやりたくないんですよ。いい加減色々と怖いので」
「人間って権力が好きな生き物だと思うんだけど」
「人には身の丈というものがありまして」
人によってはそれがとても魅力的なものであることは否定しないが、ハロルド個人としては自分がそういった力を持つことは不向きな人間だと思っていた。元々が田舎でのんびり生きたいという思考の持ち主だ。もうそうやって生きることは難しいとはわかっているが、積極的にあれこれ手に入れたいとは今でも考えていない。
「そうか?」
アルスはあまり納得していない様子だ。
彼からすれば、ハロルドは自分が貰っている収益を領地でじゃぶじゃぶ投資しており、中でも教育・福祉関連のものはとても価値があると思えるものだった。効果が目に見えて変わるのは、まだ少し先にはなるかもしれないが、それに躊躇いなく投資できるのはある種の素養ではないかと思う。しかし、本人にやる気がないならば仕方がないと口を噤んだ。
「だが、おそらく平和的解決は難しいぞ。欲が膨れ上がり、限度を知らぬ者というのは一度矛を納めても、好機だと思えば嬉々として襲いかかってくる。納得をした顔をして、どこに穴があるだろうかと常に血眼で探る」
アルスの視線はラムルローズに釘付けだが、言っていることは理解ができる。
「今の連中のことはわからないが、そういう人間たちだからこそ苦境を強いられているのだということは僕でも断言ができる」
ハロルドから見た彼らはそんなに切羽詰まっているようには見えなかった。だが、アルスの言っていることも嘘だとは思えない。アルスにラムルローズを渡すと、少し考え込んだ。




