16.アルスの来訪
海の妖精王をカラムに預けた数日後、リオから返信が来た。
同じくらいに氷の中にいた少女は目覚めたらしい。ただ、記憶を喪っており、何が原因で氷の中にいたのかすら覚えていないようだ。
リオは「彼女にとってはその方が良かったかもしれない。あまりにも悲しいことが起こり過ぎたから」と綴っている。今後のために見張りである者たちと職業訓練を始めるそうだ。また、火の精霊エリュテイアに関する忠告も素直に聞いてくれているようだ。
(それにしても、そこまで暴れ回っているのに何もないのはどういうことだ?)
そんなことを考えるハロルドの後ろから、「もう神罰は落ちているからだよ」という声が聞こえた。
ハロルドが驚きつつ振り向くと、彼のベッドに座るアルスの姿があった。なぜか皿を持っている。
「……何ですか。そのお皿」
「フォルテ様にお願いしたのだが、ソレイユフリュイも苺も分けてもらえなかったんだ……」
アルスはしょんぼりしつつ視線を斜め下に下げている。「僕もハロルドの美味しい野菜や果物が食べたい」と若干いじけている。ハロルドは少しだけ「この神、薬草以外にも興味あったんだ……」と思った。
「嵐の姉妹にも自慢されるし、散々だ。何で僕にはないのに、エスター兄上の方には供えているんだ?」
「嵐の……?いや、エスター様には頼まれたので」
「雨のオルタンシアと雷のドンナ。合わせて嵐だ」
ハロルドをジッと見つめながら皿を両手で持つアルスに、溜息が重なった。ハロルドの周囲の妖精も数名同じタイミングで溜息を吐いている。
作物目的に現れるフットワークの軽い神がいるとも思っていなかったせいもあるだろう。
ハロルドは苺のジャムとソレイユフリュイをいくつか渡すと、最初の疑問に立ち返る。
「そういえば、神罰が落ちているって……」
「花の国はすでに数名の神が今後一切関与をしないと神託を降ろしている。積極的な神罰でないので目立っていないかもしれないが、あそこは神の加護なき土地だよ。……もっと早く土地が死ぬか、人が滅ぶと思っていたが存外しぶといな」
ハロルドはアルスの物騒な言葉に少し驚いた様子を見せる。
少なくともハロルドにとって彼はいつも親切な神だった。それに、医療関係であれば人に混じって学問を修めるなどかなり人に近しい存在である。そんな彼がそう望んでいるかのように口に出す言葉とは思えなかった。
「まぁ、何事もやり過ぎは良くないということだ。僕たちにだって好き嫌いはある」
アルスはせっせと異空間収納式鞄にもらったものを入れながらそう言う。
「まぁ、それでも国の外に出て妖精を食い物にしているのならば、おそらく限界が近いのだろうな。……大地を切り離せるかフォルテ様に聞いてみるのも一興か?」
「そんな物騒な……国にいる全ての人が罪人というわけではないのでしょう?」
「『そう』だよ」
予想外に肯定された言葉に、ハロルドは固まった。どちらの意味だろうかと思案する。
「自分たちさえ良ければいいと、人族以外の全てを燃料にしようとする恥知らずの国など、そこに住んでいるだけで罪人と断ずるに値する」
神にここまで言われる時点で、嫌な予感しかしない。
「もしかして、アルス様は何か危機に関する忠告をしに……」
「いや、ここに来たのは美味しそうなものをもらうためだ」
断言されてしまったハロルドはなんともいえない顔をした。




