31.会場入り
ハロルドたちが、近衛兵に連れられて会場に入ると、色とりどりの花や、料理の数々、楽団が演奏する柔らかな音が響く煌びやかな世界が広がっていた。
「すげーな。俺には一生縁のない世界だと思ってたわ」
「俺だってそうだよ」
コソコソとそう話す元平民二人に、エリザベータは「それは、普通に無理だと思うけれど」と思ったが、ハロルドが現実を見たくなさそうだったので黙っておいた。
国を滅ぼせるほどの加護を持つ男と、巨大な魔物を矢の一つで仕留める男が言って良いセリフではないのだ。
ハロルドは完全に現実逃避で、一応は『(不本意ながら)自分が特別である』という自覚はある。しかし、アーロンはそんな自覚が全くなかった。神獣にあれだけ懐かれておきながら。
側にハロルドやルートヴィヒがいたために、少し感覚が麻痺しているのかもしれない。
エリザベータは周囲を見回すと、溜息を吐きたくなった。
ハロルドを狙う人間は少なくなった。怒りを買って、神罰を起こされては敵わないと、よほど愚かな家でない限りは娘をそれとなく拘束しているし、問題を起こすと判断された時点でハロルドが現れる場には行かせないよう閉じ込めている。
しかし、アーロンを見つめる視線は熱い。
(仕方がないわ。この年で爵位を得ることができる実力と、神獣に懐かれる人間性。複数の加護を持つ神子の一番の友で……世間的には美丈夫というらしいですし)
エリザベータはハロルド以外に興味がないのでいまいち理解し難いし、アーロン自身もハロルドやルートヴィヒが友人のせいかやはり感覚が麻痺しているが、アーロンは背が高く、容姿も整っている。ガチ勢同士が水面下で足を引っ張りあっているせいであまり目立たないが、普通にモテている。
「なんか、スゲー見られてね?」
「なんでだろうね」
「いや、なんでじゃないだろう。お前たち、自分が目立つ自覚はした方がいい」
呆れたような声と共に現れたのは第二王子ジョシュアだった。傍らには修道服を着たマリエが佇んでいる。
「年齢と顔だけで十分目立っちゃうから」
「ほら、ハル。言われてんぞ」
「いや、アーロン。お前もその歳でリヴァイアサンを一撃で仕留めたのを目撃されているだろう。軽く英雄扱いされることだぞ」
「美味しかったねぇ、リヴァイアサン」
マリエがうっとりとうなぎ味の魔物に想いを馳せる様子を見て、ジョシュアは表情を和らげた。周囲は「美味しい!?」と信じられないとでも言うような顔をしている。普通、リヴァイアサンのような大きく、強い魔物を食材とは認識しない。
「珠さんから、新しいカタログももらったの!ハロルドくんのおかげで美味しいものがたくさん食べられて幸せ。ありがとう」
「いや、俺は場所と肥料を提供してるだけなので」
内心でハロルドは「新しいカタログ?」と疑問に思っていたが、誰かが喜んで買い物をしているならば別にいいだろうと考えを切り替えた。食材の栽培だけで、特に影響を与えるようなことはしていないと考えていたせいもある。実際、新しく何かを開発しているわけでもない。ちょっと異国の調味料が、一部で出回っているだけである。
そして、その一部の人たちがそれをめちゃくちゃ気に入って、それなりの金額で定期購入を始めたなんて思ってもいなかった。




