11.父親
ホームルームが終わって、ヴィクトリアに呼び出されたのはハロルド、アーロン、ルートヴィヒ、ミハイルだった。共通点として、人外の存在に気に入られている四人である。
そして、指定された場所にいたのはこの国の王太子であるアンリ・シャルル・エーデルシュタインだった。
「数日前、フィアンマ帝国の一行が到着してね」
「皆様、さっさと帰りたがっているのですから前置きとか要りませんことよー?」
ヴィクトリアの棒読みのような言葉にアンリは苦笑している。
アンリについてきていたらしいエドワードが「殿下のしつこさにうんざりしておいでなのです」と苦笑している。ロマンスの予感に湧き立つような四人ではなかったため、全員が「ヴィーちゃん先生大変だなー」くらいの気持ちで二人を見ていた。
「……神の加護を得た者たちとの面会と、災厄を抑えているのだから神子を一人くらいくれないかと要求している。特に、『ハロルドは実の父親と一緒にいた方が幸せではないか』と」
「父親?俺に父はいませんが」
すっかり存在を消し去ったかのようにサラッとそう告げたハロルドに、アンリは苦笑する。
「若干君に似ているし、まぁ……あとは確認も一応取れてしまったからね」
「はぁ……。あの人、農作業もできないし、狩りもできないし、かといって商売が上手いわけでもない。女性に貢がせることしかできないタイプのダメな大人なのに、一緒にいて幸せになれるはずないじゃないですか……」
久しぶりにガッツリ平民の価値観で述べられた心の底からの感想。アーロンは心から頷いている。彼らが暮らす地ではそんな男性は普通に考えて「ない」部類の男なのだ。
「少なくとも俺の知っている父親ってそういう人だったんですけど、もしかして急に勤勉になりましたか?」
父親が消えたせいでハロルドに彼の代わりを求める者は、それなりに、いた。
その意図は様々だったが、消えた当時の記憶に良いものはない。必死に、隠れるように生活をしていたことを思い出して嫌な気分になるだけだ。
ハロルドの実父、ケリーに悪気はなかっただろう。ただどうせならば美しい妻をとミィナを口説き落とした。妻が別の男に思いを寄せたまま、自分に心を移さなかったことでプライドが傷つけられたから、商人の甘言につられて村を出た。子どもは母親といるべきものだったから気にも留めなかった。それを悪いとは思わないのがケリーだった。
けれど、やられた側はたまったものではない。
「向こうも同じでしょうが……正直なところ、関心がありません」
近くにいる時ですら、ハロルドにあまり関心がなかった人間だ。今だって名前を覚えているかも怪しい。
そして、それはハロルドからケリーへの気持ちもそうだ。存在すらほとんど忘れていたくらいである。
「神子が欲しいと言うなら、勇者殿に行って貰えばいいのでは?」
ルートヴィヒの言葉に、アンリも「まぁ、それを選ぶのは私たちではないからねぇ」と溜息混じりに口に出す。
「神の怒りが何を導くかを、我々は見たばかりだからね。結局は君たちがどうしたいか、どこに行きたいかが優先される。とはいえ、きっと今から面倒な声掛けも多くなると思う。あまりにも度を越していると判断した場合、遠慮なく我々を頼って欲しい」
「……え、俺も?」
「君もだ、アーロン。というか、歴代でもあれほどに神獣に懐かれている人間はそうはいない。何をしたんだ?」
不思議そうなアンリにアーロンは微妙そうな顔をした。
あの神獣が、アーロンとハロルドのご飯が大好きな可愛い腹ペコワンコなだけである。
いつも読んで頂き、ありがとうございます!
スノウはたぶん「おれは狼って言ってるだろ!!」ってわうわう言ってると思う。
【宣伝】
2024年12月25日に巻き込まれ転生者は不運なだけでは終われない2巻がオーバーラップノベルスさまより発売いたしました。
今回もRuki先生に素晴らしいイラストをたくさん描いていただいたので、ご期待ください!!
新しいキャラも描いていただきました!
特典等詳細は著者活動報告にも書いておりますので、ぜひご確認ください!
以前お知らせしたSSに加えて、オーバーラップ通販様、書泉・芳林堂様よりイラストカードが特典となっております!
3巻制作決まりました。引き続きよろしくお願いいたします。




