4.懸案事項は多く
そんな話をしていたアーロンたちも、まさかこれ以上にハロルドへ負担が掛かる出来事が近づいていたなんて全く考えていなかった。
誰もハロルドの父親がまだ生きているなんて想像していなかったし、今更ぬけぬけと顔を出すようなことができるとも考えていなかった。
さらに、それがフィアンマ帝国にいることなんて誰がわかるだろうか。
そして、マーレ王国が愚行ゆえに滅んだというのに、近づくような馬鹿がいるなんてことも普通ならば考えないだろう。
だからこそ、ハロルドの好感度を上げようとしても、大きなことはしでかさないだろうと誰もが考えていた。
しかし、もう一つの厄介ごとも記録に残っていなかったこともあって、発覚が遅れていた。
「おい、ハロルド。花の国の連中が来るってマジ?妖精共避難させるんなら手伝うぜ」
嵐を予見するかのように、カラムがひょっこりと現れた。
どこから現れたんだ、と言うような目をしているハロルドに、彼は「ここに扉を作った」と自室にいつのまにかあったサボテンを指差した。なお、このサボテンに咲く花は希少な薬の材料になる。
「カラム、できればそういうことする前に相談して……」
「ハハ、俺らの仲じゃねぇか。っていうか、後ろにいるやつら、なんかやたらとパワーアップしてないか?」
「それより、花の国がまた何かやろうとしてるのぉ?見かけ次第殺したほうがいいならそうするわよ」
リリィが不機嫌さMAXでそう言う。不機嫌、どころか恨みや憎しみすら感じる声音だ。
ローズとネモフィラも忌々しい、という表情を隠せていない。ルクスとルアだけが困惑するように彼女たちを見つめていた。
「あの国はなー、昔妖精を戦争で使う魔道具の燃料にしやがった国なんだよ。砂の妖精族でも結構な数が捕まって被害に遭った。だからジャンナガーデンに引き篭もるヤツらが多い」
「あの光景、アタシたちだって忘れはしないわ。先代様が多くの妖精を逃すために、犠牲になったしね」
「ボクは輝石が滅びたくらいに生まれた。だから、詳しくない。でも、聞いてる」
「キセキ、とは?」
ルアの言葉にハロルドとルクスも頷いた。
「このエーデル……なんとかって国を、俺たちはそう呼ぶ。昔はここにも宝石のような妖精たちがいた。……滅びたがな」
妖精の、一つの種族が滅びるほどのことが昔あって、その中心にあった国が『花の国』だということらしい。
「海のヤツらも近くにいるなら教えてやったほうがいい。もう同族の悲鳴を耳にするのはたくさんだ」
忌々しくて、痛々しくて、思い出すことすら嫌だから多くを語りたくない。
カラムは吐き出すようにそう言って、姿を消した。
「ティターニア様のところかしら」
「新しく生まれた子たちもいるし、避難には時間がかかるかもぉ?」
「……色々、心配」
彼らの様子を見たハロルドは、そっと溜息を吐いて手紙を用意した。
彼らが姿を現すとは思えないものの、思い当たる光景は、ハロルドも知っていた。
(マーレの、妖精や妖精王から力を奪っていた装置。おそらくはその開発元)
壊れた貝殻に色褪せた珊瑚。
踏み潰された、弱った妖精。
──そんな光景を、見たくないと願うのは彼も同じだった。




