14.悪い予感
ハロルドが自作の自白剤をファビアンに渡すと感謝された。使わずに済むのが一番ではあるが、シラを切り通す気しかない連中の相手は大変であったらしい。あと、効果を教えてくれるというのは少しありがたかった。場合によっては在庫全部を自分が持つ異空間収納へとぶち込んでおく必要がある。
(なんか、何が慈愛の調薬師だっていうような薬剤も高性能になるのって、ちょっとどうかと思う)
魔法薬、特に身体回復薬などの効果が上がるのは大歓迎だが、物騒なものまで効果が上がってしまうのは考えものだ。
「ハロルド、農地の魔物による被害と新しい肥料と前の肥料の比較資料だ」
「ありがとうございます」
アイマンから声をかけられて、それを受け取ったハロルドは軽く目を通すと頷いた。
「やっぱり問題が出てる領地に近接しているところが被害が大きい……効果が落ちるとは思ったけど、執拗に狙ってくる魔物も減るのであればこっちで使う肥料は新しく調合したものの方がいいか」
「トルマリン子爵家だったか?確か良質な織物が有名だったな」
「アシェルさんの話では、その流通も止まっちゃってるみたい。何かあったと見て間違いはないんだけどなかなか先に進めないんだとか……」
冒険者たちが進めない何かがあるらしい。ルクスが「少し見てきます」というので、常に認識阻害を自分にかけ続けることと、結界を纏うこと、気持ち悪いと感じたモノには近寄らないことをしっかりと言い含めて送り出した。
「厄介なことになっていなければいいが」
逃げ出した領民たちは「急に税率を上げると通達された」、「娘をよこせと要求された」、「領主の使いに親を殺された」と訴えているという。その時点で『問題のなかった領主』に何か起きているのはまず間違いない。
「問題が出てきたのも本当に最近だな」
「うん。逃げ出した多くが口を揃えて領主様に何かあったんじゃって言ってるところ見ると……」
悪い予感しかしないのは確かだった。
「ルクスや冒険者、今調査している者たちの知らせを待って判断するしかなさそうだな」
アイマンの言葉に頷くと、「ハル」とネモフィラに頰を突かれた。
「どうしたの?」
「返却したクソガキ、来てる」
めちゃくちゃ嫌そうな顔でそう言うネモフィラ。外を指さしているので、窓辺に向かう。
荷台のついた馬車が外に来ていた。二人の少年が馬車から飛び出す。
金髪と銀髪の少年たちには各々、尾が二本ついている。狐の耳がついた活発そうな少年たちは和服がよく似合っている。
そんな彼らの後ろから、ゆっくりと長い黒髪の美女が現れた。狐のような耳があり、尾は一本。一目見ただけで彼女が強い魔力を持っているのが感覚的にわかった。赤い振袖には牡丹が描かれている。ゆっくりと彼女がハロルドの方へ目を向ける。
「……あの子達、黄金と白銀?」
「そう」
「と、いうことはあれが黒金さんか」
珠から聞いた名前を思い出しながらそう口に出してハッとする。
見守りバットくん再び案件の予感がした。
いつも読んで頂き、ありがとうございます。
ハロルドは「大体、慈愛ってなんだ。慈愛って」って思ってる。アルスにしかわからない。




