10.領地の変化
ハロルドは話し合いを終えると、みんなで邸の外へと繰り出した。
以前とは比べ物にならないくらいに綺麗になっている。
「これだけ復興してるのなら、安心して良さそう」
「……一体どんな場所だったんだよ」
アーロンの言葉に、ペーターが光無き眼で「知りたいの?本気で?」と告げる。その様子からヤバそうな雰囲気を感じとって、「今はいい」と意見を変えた。
「後でね」
「おう」
ハロルドがこっそりと耳打ちすると、アーロンも頷く。
ペーターは周囲を見回して、明らかに雰囲気が変わったことに安堵していた。教会が建っているが、以前のゴテゴテした成金屋敷感が無くなっている。孤児院があった場所には大きな木が植っていて、かつてを思わせる光景が消えていた。
「あそこ、無くなったんだ」
「流石に移設してもらったよ。あんな場所に再建するなんて気分が悪いし」
子どもたちが苦しめられてきた場所だからこそ、大きく離れた場所に変えて、人員もウィリアムに頼んで信頼できる人を揃えてもらった。
「道も整備されて、流通も良くなっています。治安も王都以外では一番良いのではないでしょうか」
「住みやすい領地としても有名になりつつあるよ」
「ローズクォーツ」
「はい、次から敬語にします……」
ファビアンとアシェルに苦笑して、前を向く。
魔物と厄介な移住者がいなければ、治安がいいというのは何よりだ。とはいえ、それは王家がハロルドのために人を寄越してくれているからでもある。
「……うーん、人を育てないといけないのかな」
「何年かしたら多分人員問題は解決するだろ。なんか、すげー環境改善してんだろ?助けてもらった孤児とかがお前のためにって頑張る可能性って高いんじゃねぇの?」
「人は良くも悪くも慣れるからね。期待しすぎるのもよくないかな」
ハロルドの言葉はドライだ。だが、アーロンの指摘が的を射ていることをファビアンは知っていた。
ハロルドは自分の求心力を甘く見ている。地獄から掬い上げてくれた年若い領主を、ここの領民は崇拝していることを知らないのだ。
親は子に、ハロルド・アンバーという人間がどれだけ素晴らしく得難い人間かを説き、移住してきた人間にもそれを理解させようとする。実際に住んでみればどれだけ暮らすのが楽になるか実感してさらに敬うようになる。
(東和魔族たちも大概だが、領民も多くはハロルド様と女神フォルテを信じている)
ハロルドはただ、「暮らすならば安全で豊かな土地がいいだろう」、「馬車がガタガタするのは嫌」、「子どもたちは健やかに育つべき」などといった彼の中の良心に沿ってファビアンと共に領地運営をしているに過ぎない。
だが、以前の領主を知っていればこそ、私財を投じて領地を豊かにしていく姿や、自ら肥料などを研究する姿が胸を打つ。
ハロルドにしてみれば、自分で使うには大きすぎる貯金を経済を回すために使っているだけだし、肥料作りも趣味である。たまたまできることをしているだけなので、自覚がかけらもない。
向けられている視線をファビアンが辿る。ハロルドを見て拝んでいる平民たちの姿が見えた。
「……アレは、この辺りの風習か何かか?」
「いや、違う。ハロルド様の威光に平伏しているだけだ」
「嫌がるだろうな……」
アイマンの問いに、ファビアンは頭が痛いと言うような表情を見せた。
いつも読んで頂き、ありがとうございます。
ちなみに割とファビアン自身もハロルド贔屓だったりする。




