21.神の視線が逸れる時
久々の。
今までどれだけ鬱憤を溜め込んでいた人間が多かったのかよくわかる糾弾だった。
大きな権力を望まぬ愚かな神子。持っている位は男爵。
お優しくていらっしゃる神子様に何ができる。
彼らはそう侮っていた。
ハンベルジャイト家だけを捨て石にすればどうにでもなると。全てを背負って彼らにだけ消えてもらおうとしていた。
突如現れた聖剣。
今の持ち主である聖騎士の女。異教徒の女を広い心で受け入れれば、それが手に入るはずだったのに邪魔された。
腹は立ったが、神子自身には何もできずとも、大切にしているものを人質にすれば手に入ると思った。
たかが孤児を襲撃したところで、なあなあで済む話だと思っていたのだ。
それが崩れたのは神罰のせいか、それともジルコニア公爵家の執念すら感じる証拠のせいか。
こんなはずではなかったと捕まった者たちは臍を噛む。
「大丈夫だ。我らの神は、敬虔なる信徒たる我々を助けてくださる!」
豪華な教会や神殿、美しい女に、良い貢物。それらを信者から毟り取って与えてきたのだ。
ずっと、何世代にもわたって許されてきた。我々だけが許されぬのはおかしいだろう。
ならばその視線は自分たちに向くはずだ。彼らは今更そんな都合の良い夢を見ていた。
「いやぁ、俺も流石に嫁の神子に手を出す阿呆は助けらんねぇわ」
声が聞こえて下界を覗くフォルツァートは呆れながらそう言った。
彼にとって、あの美しい少年は特にどうこうする価値を見出せないが、それでも妻のお気に入りだ。
フォルツァートは脳筋馬鹿だし、考えなしだし、自分の加護を与えた人間にはダダ甘だが、それ以上に『愛妻家』だった。
三人いる妻のうち、二人を心から愛している。
ヴィーナはどちらかと言えば保護をする意味での婚姻だったため、どちらかと言えば友愛に近い関係性だ。ちょっと……かなり……とんでもなく、胸に目が行くのだけは許して欲しかったりするが。
「つーか、マリエもキレてるし俺もいっちょしばいときたいけど、やると怒られるよなぁ」
最近、ユースティアにしばかれたばかりのフォルツァートは少し考えてから、髪を一本抜いた。それに息を吹きかけると金色の小鳥が現れる。
それを見送って、フォルツァートは満足そうに頷いた。
「アルスならまぁ、生かさず殺さず良い感じの罰を思いつくだろ!ティアはもうやってるから他のやつにしといたほうがいいだろうし」
我ながら良いアイデアだと彼は笑う。
そして、声を遮断して日課の筋トレに向かった。
今日も彼の筋肉は仕上がっていた。




