28.シャルロットへの身上書
ハロルドがエリザベータにお願いをしている頃、王城を訪ねる一人の男がいた。
筋骨隆々として、背は高く、厳つい顔つきの男は目立つ桃色の髪をしていた。短く刈り上げられたそれは、顔の傷もあってか愛らしさなど微塵も感じさせない。
彼は客室に通され、そこには宰相であるカーティス・アメシストが座っている。不機嫌そうな顔のまま、その前にドサドサと紙の山を築くと、彼……デューク・ラリマーは「何とかしてほしい」と呻くように言った。
「シャロの剣が聖剣になったことで、婚約の話が増えている。この身上書を送りつけてきたやつらの誰にも嫁がせたくはないが、無視できぬ家名もある」
「おや、嫁に出したがっていたのでは?」
「コイツらは俺たちの可愛いシャロに大女とか筋肉バカとか巨漢とか言ってきやがった連中だぞ!おまけに、一生結婚なんかできないとか、ブスとか、金積まれても無理とか言ってきやがったパッパラパーだぞ?絶対にそんなところに嫁になんか出さん。それくらいならばヤツらの家ごと焼き尽くしてくれる……!」
相当怒りが溜まっているのか、感情を隠すこともできない様子だ。戦場における華々しい活躍で有名なラリマー子爵家を敵に回したくはないが、一方で未婚の令嬢に求婚しただけで相手を咎めることも難しい。
「では、早く婚約者を見つけるしかないと思うがね」
「できればとうにやっている」
シャルロットは美しい顔立ちをしてはいるが、並の男よりも背が高く、筋肉がついていてガタイがいい。そして、強い。
それ故か、顔合わせをしても婚約を断られ続けていた。
「シャルロットがほしいのではなく、聖剣を手に入れたいだけ。そんな連中に愛娘を嫁がせたい親はいない」
言っていることには納得ができる。だが、貴族である以上、必ずしもそう言えるかは時と場合による。
「せめて、シャルロットを美しい、可愛いと言う男でないと納得できん……!」
愛妻に似た美しい顔立ちの愛娘を貶し続けた男の家にやるのなんて死んでもごめんだった。なお、どう考えても体格はデューク似である。
「あのタンザナイト嬢ですら受け入れてくれる度量の広い婚約者が見つかったのだ。我々のシャロにだってきっと運命の男がいるはず」
その言葉にカーティスはそっと目を逸らした。
エリザベータは魔法使いとして非常に評価が高かった。怖がられてすらいた。ジョシュアという婚約者がいたのもその才能ゆえではある。それに加えて現在では魔道具を使ってまで慕う相手を見張っているというヤバい要素まで加わっている。
ハロルドが「まぁ、俺以外にやらないのであればいいかな。危ないわけでもないし」と渋々受け入れているのは特殊事例である。
(いや、度量は広い……のか?)
そう思ったカーティスは一瞬、「そういえばあの子、神子特例婚礼法を知っているのだろうか」なんて思ったが、知っていても彼はそれを望む人間ではないのですぐにその考えを脳から追い出した。
「とりあえず、後ろ暗いところがあるこの辺りは手を回せる。我々としても、現状彼女に抜けられるのは痛手だ」
ハロルドの身辺を任せられる人間はそう多くない。特にシャルロットは非常に腕が立つ。ハロルドを推してはいるけれど、仕事と私事は分けられる人間だ。
(だが、それはそれとして早急に婚約者を見繕う必要があるかもしれないな)
かと言って、ハズレを引くとハロルドの警護が手薄になり、しかもラリマー子爵家を敵に回す。
厄介なことだ、とカーティスはため息を吐いた。
シャルロットは顔がママ似、その他がパパ似。ママはめっちゃ美人で結構華奢。
末っ子なので家ではめちゃくちゃ可愛がられている。
なお、きょうだいで一番、デカい。




