22.囚われの女神様
悪意に満ちたスライム部屋を出てすぐに、黒いモノで覆われた金色の球体が目に入った。中で怯えながら膝を抱えているのが幸運の女神トゥーナであった。泣きすぎたのか目が真っ赤だ。耳も気分に連動しているのかぺシャリとしている。
「さて、じゃあ……ルクス」
「はい」
杖を一度上に持ち上げるとルクスの魔力とハロルドの魔力が混ざり合う。金と銀の光の螺旋が杖の周囲に現れる。
ハロルドは音を鳴らして杖を地に降ろす。コン、と鳴ったその場から、波紋のように光の螺旋は伸びていった。
それはいつしか部屋全体を包みこんで悪きものを浄化していく。
(いつのまにか、光の魔法が強くなっているような……ルクスは進化?している感じじゃないし……)
光の魔法が強くなっているのはユースティアの影響である。そんなことをハロルドは知らないので不思議そうな顔をするが、「まぁ、今はいいか」と浄化に集中することにした。
ゆっくりと黒いモノは消えていき、金色の玉は徐々に地上へと降りてくる。
それと同時に、ハロルドに向けて攻撃が始まったが、アーロンが結界を張っているので全く当たらず、攻撃をしてくる魔物はシャルロットとアイマンが切り伏せている。
ようやく、トゥーナが解放される頃、ハロルドがノアに声をかけた。
「今から飛んでくるちっさいやつ捕まえて欲しいです。トゥーナ様を取り返したので、多分弱っていると思いますけど油断しないで」
「見た目は?」
「小鬼に蝙蝠の羽生えた感じの気色悪いやつ」
「了解」
ノアが返事を返した瞬間だった。
ハロルドが言った通りの見た目の生き物が飛び出してくる。
ノアがその影を踏むと、動きが止まる。そして、黒い刃のナイフを突き刺すと、「グゲッ!?」という声を発する。
「さぁ、全力で浄化をしよう。」
ルクスがそれに「はい!」と元気よく答える。全員に目を閉じるように指示をすると、光の奔流がその場を満たしていく。
悲痛な鳴き声は魔物のものだろう。全力で無視して念には念を入れて浄化をする。
「わぁ、ダンジョン消えちゃったのだわ!?やっばいのだわ!?」
ハロルドはダンジョンコアなんて代物がどこにあるのかわからなかったので、「もう全部洗い流してやるか」くらいの勢いでゴッと浄化していた。
そして「もういいですよ」とハロルドが口にすると、同行者たちは目を開ける。
「この場所は……入った場所から結構離れてますね」
「ダンジョンなど、人知の及ぶものではないのだから、そういうこともあろう」
アデニウムがそう言うと、黒いウサ耳の女の子が「発生源がいつも影響を受けた場所と一緒だとは限らないのだわ!」と告げた。
「わたしを助けてくれたことに礼を言うのだわ!ありがとう、みなさま。わたしはトゥーナ。人間には幸運の女神だなんて呼ばれているかしら」
黒いうさぎの耳にサイコロの耳飾りがついている。柔らかそうなふんわりした髪をツインテールにしている。外見の年齢は7、8歳といったところか。丸い袖口のレースがたくさんついたブラウスに大きなリボン、ふんわりしたシルエットのスカートが愛らしい。大きな目の愛らしい顔立ちをした少女は、安心したように「怖かったのだわ」と呟いた。
「エスターにいさまがお暇になるまで、うろちょろするのは避けるべきだったのかしら」
「あ、多分、今は四季を一人で統括しているから忙しいよ」
「まぁ!では、ネーヴェにいさまが暇ね!」
「やらかしてアンネリース姫のペットになってる」
「え、ハロルドくん待って。新情報」
「……ねえさまは?」
「なんか、春の女神様は一から修行し直しとかでユースティア様の補佐をしていて、秋の女神様は旦那さんがついに耐えきれずに逃げ出して半狂乱だって。オルタンシア様とドンナ様はエスター様の補佐をしているらしいけど」
「ほんと待ってハロルドくん!というか君ちょっと神様事情に詳しすぎない?」
ノアのドン引きした声にハロルドは苦笑した。なぜかたまに愚痴を言いにやってくる女神がいるのだ。春の神が溜め込んでいた仕事が思いの外多かったらしく、それもあってユースティアは「おまえなどに神の資格はないわ!!下に堕としてやる!!」とブチギレてフォルツァートがソレを抑えるといういつもとは逆の展開になっているらしい。
「とんでもないことになっているのだわぁ!?というか、よく考えたら人間のペットになっているネーヴェにいさま、何やったの!?」
ごもっともである。
ネーヴェの居場所発覚




