53.ドラゴンとエルフ
バリスサイトのエルフの森。
ハロルドの肥料、アンネリースの魔法、多くの人々の願いと執念によって蘇ったその土地にドラゴンを引き取ることになった。
理由は単純で、エリザベータがジョシュアの背後から「これ以上、ハルに負担をかけるつもりですの?」と圧をかけたからである。
オブシディアン辺境伯領にはハロルド、アーロンの家族が住んでおり、アンバー領は復興途中。ジョシュアもバリスサイトへの誘導を行おうとしていたので、元婚約者の圧に顔を引き攣らせながら「もちろんそんなつもりはない」と頷いた。
「ところでエリ……ルビー嬢。お前、性格変わってないか」
「愛、ですわ」
「愛かぁ……」
愛って何、と突っ込む勇者はいなかった。
そんな大人の都合でバリスサイト行きが決まったドラゴンたち。彼らはマーレ王国の人間がやらかしたことでもう帰る気を無くしていた。
復活したエルフの森は精霊樹の存在から魔力濃度が高くなっており、彼らにとっても過ごしやすい。人間族も少なく、子ドラゴンたちも怯えずに済む。
ドラゴンに魅了された乳母ーズも「もう子どもも手が離れておりますし」「おほほ、孫ができてから何だか息子夫婦に煙たがられておりますの!」などと言って一緒に移住した。家族にとっては青天の霹靂である。まだ現当主である彼女たちの夫たちは「ウソ……ワシら、ドラゴンに負けた……?」と引き継ぎの終わらない仕事を抱えて頭を抱えた。
「小さいドラゴン……可愛いのぅ、可愛いのぅ……」
「ルルティア様、涎が出ております」
「ルルティア様、アナベルちゃんがアンネちゃん様について行ったからって気ぃ抜きすぎですー」
「気持ち悪いです。とても」
ドラゴンを迎えるエルフたち。その長老がルルティアだ。
見かけは妙齢の美女だが、この集落の中では最も年齢が高い。
後ろにいるのは、弓を背負ったエルフの少年が二人。ライトグリーンの髪に緑の瞳の二人は態度も表情も違うけれど顔は同じ。双子の兄弟だ。
「神子様も厄介ごと引き寄せんの得意だよねー」
「本人にそのつもりはないんです。言わないであげてください、レイ」
「いやぁ、ライ。そんなこと言われてもねぇ」
ドラゴンたちは何もなければ大人しい種族だった。危害を加えれば暴れ回るが、そんなもの、手を出した方が悪い。凶暴なドラゴンならば、ハロルドがなんと言おうと処分されていただろう事は想像に難くない。
加えて強い生き物であるため、彼らがいるうちは魔物の動きが活性化することは少ないだろう。
エルフは魔法と狩りを得意としている種族だ。一方で近接戦には向いていない。そういった方面にも優れる同族が生まれる事はあるが、非常に稀である。
「これは我々の自衛にもなる。……最近、この辺りでは王家直轄領ゆえ何もないが、別の場所では奴隷として連れて行かれる同族もおる。人間と親しくしているエルフをわざわざ狙うてな。胸糞悪い話ぞ」
この場所に必死に逃げてくるエルフもいた。
今は無事かもしれないが、緑豊かな土地になった今、この土地を欲しがる貴族もいるだろう。そうなれば、領主との話し合いも必要だったかもしれない。実際に前のバリスサイト領主は他種族を嫌っており、エルフを追い出したいと思っていた。この場所が維持できるのも当たり前のことではない。
「ドラゴンがここにいる限り、王家はここを他の貴族に明け渡したりはしない。神子様みたいな例外ならまだしも、野心ある人間にドラゴンを渡せばどうなるか……身をもって知っておるからのぅ」
「ルルティア様悪い顔ー」
そんな様子を一匹のドラゴンが天から見下ろしていた。
そして鷹揚に頷いた。
「我が同胞が穏やかに暮らせるならそれで良し」
だが、と目を細める。
——すでに血も、契約も無くなった国を守護する必要はあるまい。
正式な資格者はすでにこの国に馴染んでいる。
マーレ王国の人間が想像もしない出来事がすでにもう起こっていた。
愛、だとぉ……!?
ちなみにレイくんの「アンネちゃん様」は誤字じゃないです。彼はアンネリースをマジでそう呼んでます。




