48.ドラゴン2
そのドラゴンは、自らの子がもういない事を受け止め沈む。それと同時に、少し遠くから聞こえる元気な子ドラゴンの声に耳を傾け、安心した。
目の前にいる竜の裔に「守れなくてすまなかった」と言われても心は凪いだまま。子を殺した男は死んでおり、復讐すら果たせない。
「なんて?」
「復讐すら果たせないなんて、と嘆いています」
「できるでしょう?確かにあの子ドラゴンを殺した相手は死んでいるけど、さらった相手は生きているわけだし」
ハロルドの言葉に、ローズも「あの気色悪い男!次会ったらこんがりローストしてやるんだから!!」とプンスカしていた。よほど気持ちが悪かったのだろう、と思いつつも「ほどほどにね」と宥めるように口に出した。なお、犯人を心配しているのではなく、ドラゴンに手を出すような人間であるため、ローズが危険な目に遭わないかを心配している。
真正直にそれを伝えたらしく、ドラゴンの瞳は少し正気を取り戻した。
「さて、今日はもう無理だけど、明日には子ドラゴンたちを連れて外の子たちも説得しに行こうか。俺もできればあの子たちのためにも親を殺したくはない」
そんな発言をするハロルドのことを、エリザベータは「甘い」と思うけれど、彼の甘さに救われている一人として口を噤んだ。
ハロルドは子どもを「愛されて当然だ」と思っている節がある。そして何よりも、元気で、健やかに生きてほしいと思っているのが感じられる。それは人だけでなく、動物に対してもそうなのだろう。
(こういう方だから、神の目を引くのでしょうね)
自分は利用されても「仕方ない」と思っているくせに、友や子どもが巻き込まれると怒りを見せる。自分だけのことであれば飲み込むことも、自分以外のことならば動く。自己犠牲、というものだろうか。
エリザベータはそんなハロルドを心から心配していた。
何のことはない。これはハロルドの人格が日本人の成人であったことの影響が出ているだけである。今は自分も子どもだという認識はある。だが、反面、完全にはそうなりきれない。
ハロルドからすれば「優先して守るべきものを守っているだけ」であり、「特に自己犠牲なんて考えていない」のである。無意識下で「大人は子どもを守る義務があるだろう」と考えているだけである。そして、その思考を自覚した瞬間、「俺も子どもだった……」と頭を抱える。大体そんなことの繰り返しである。
「この件が終わったら、一緒にゆっくり、お茶でも飲もうね。エリザ」
「はい」
ハロルドは心配そうにしていたエリザベータに声をかけると、パッと明るくなったように見えた。
相変わらず表情のわかりにくいエリザベータ。そんな変化がわかる人間は少ない。
ハロルドは疲れていても、何やかんや婚約者を気遣っていた。
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