45.竜の王子と騎士
捕えられたユリウスの牢が開く。
彼は目の前にいる暗い表情の少年を見て、目を大きく開く。
「久しいな、ユリウス・オルカ」
「デイビッド殿下、思い出していただけたのですか……っ!?」
その表情がパッと明るくなる。心底嬉しいというものだがデイビッドの表情はやはり明るくない。
「殿下?」
「まずいぞ」
「殿下……?」
「我々は、ちょっと引くほど、エーデルシュタイン王国に迷惑をかけている」
厳しい声で出された言葉に、ユリウスは「そんなもの、どうでも良いのでは?」などと思ったが、こういう時に発言すると碌なことにならないことを学習しているのかその言葉を飲み込んだ。
デイビッドは記憶が戻ってから、穴があったら入りたい気持ちでいっぱいだった。
彼はマーレ王国の現王と公爵令嬢だった母を持つ。彼の母親は元々、現王の婚約者だった。現王は王太子時代に多くの貴族が集まる夜会にて婚約破棄をする。道が分たれたはずだったが、公爵令嬢が不運だったのは、彼女が紺碧の髪に瑠璃色の瞳を持ち、ドラゴンの言葉を解する、竜の乙女と同じ性質を持っていたことだろう。
王家の血を汲む公爵家の、竜の乙女。
そんな彼女が他の貴族や他国の人間の元へ行かされることなどあってはならないことだった。
——だから、彼女は嫁入り途中で王家に攫われその身を汚された。
あまりにも身勝手。
あまりにも傲慢。
けれどマーレ王国の王家はそれが当然許されると思っていたのだ。
あくまでも妾とされた彼女は、どうすることもできなかった。
実家は公爵家ではあったが、その性質は綺麗過ぎて他の者たちに疎まれていた。どうにか、彼女の母が妹を連れて逃げるので精一杯。父も、兄も、彼女を守っていた人たちは兵を差し向けられ死んでいった。
誰も助けてくれない中、彼女は息子を産んでしまった。
自身に似た息子を見た彼女は予感した。
殺される、と。
だから、どうにか目立たぬように育て、けれど知識だけは必死に詰め込んだ。
腕の中の息子が、いつかこの憎い、憎い、全てを滅ぼしてくれることだけを祈って。
そんな生まれであるデイビッドは、母親を亡くした後も目立たぬように慎重に生きてきた。
髪の色、目の色を変えて、離宮でひっそりと。
ユリウスはそんなデイビッドの前にある日いきなり落ちてきた。そう、落ちてきた。ドラゴンに乗った、年上の男が空から落ちてきたのである。
そして「運命だ」などと言ってそのまま護衛に収まったのである。普通ならばそんなことにはならなかっただろう。けれども、デイビッドに護衛がついていなかったこともあってまかり通ってしまったのである。
強く、主人思いで、ドラゴンと友誼を結ぶユリウスだが、少々素直すぎた。
(私が毒など飲まされなければな……)
ちょうど流行り病が蔓延し出した頃に、遂にデイビッドの容姿が暴かれた。
国を出ようと考えていた最中の出来事だった。
手のひらでコロコロと転がされた唯一の側近。デイビッドは死を覚悟して城を飛び出すことしかできなかった。
幸運だったのは、逃亡中に多くのドラゴンが助けてくれたことだろう。そうでなくては国を越えることはできなかった。
その結果、なぜか異様に神に愛されて逆に薄幸な少年に喧嘩を売ってしまった。
記憶が戻らなかったらそれが続いていただろう。考えると吐きそうだ。
「ユリウス」
「はい!」
「このままだと我々も、竜たちも死ぬ」
主の言葉をユリウスは否定する。
「自分がいて、あなたを死なせることはあり得ない」
「いや、それは昔から全然あり得た話だがそれはまぁ置いておくとして」
「デイビッド様!?」
「とりあえず、責任は取らねばならない。私はどちらかと言えば被害者だが、それでも一応王族だ」
紺碧の髪、瑠璃色の瞳を受け継いだ竜の裔が前を向く。
この先の未来はわからずとも、神子の慈悲はわかっている。
失敗を、するわけにはいかなかった。
記憶取り戻す前から、デイビッドはユリウスを「こいつは裏切らないだろうなぁ」とは思ってるけど、同じくらいポンだと思ってる




