14.寄り添う女神
フォルテに祈った後のハロルドはやはり「早く寝ろ」とアーロンに自室へと追いやられた。ティターニアによってある程度回復させられているとは言ってもまだ顔色は良くなかった。
そして目を閉じると、意識がゆっくりと落ちていく感覚がある。
花の香りを感じて柔らかな光の中、ゆっくりと瞼を開く。誘うように風が吹くと、四阿のようなものがあり、そこにテーブルと椅子、そしてお茶会でもするかのような用意がされていた。
その椅子の一つにクリーム色の長い髪の美女が座っている。その姿を見てハロルドは少し安心したような表情になった。
「お久しぶりです。フォルテ様」
「ええ、久しぶり。……その、少し見ない間に苦労をかけたね」
ちょっぴり気まずそうである。
そんなフォルテを見て、ハロルドは笑みを溢す。
「いえ、こうして来てくれているだけでありがたいです」
最近怖い女とばかり関わっていたハロルドは(自分にとってはほぼ確実に)安全な女神にホッとしていた。
この空間もハロルドにとっては暖かく、穏やかで慣れたものだ。フォルテに勧められるがままに椅子に座ると、一人でにカップに紅茶が注がれる。
(そういえば、昔話とかってよく冥界のものを口にしてはいけないっていうけどこれって平気なのかな)
そんなことを考えながらジッと見つめる。食べてはいけないものを自分に出さないだろうと判断してカップを手に取った。
「晴のおかげで力も増しているし、仕置き程度はできたぞ」
「じゃあ、加護の撤回とかは」
「そこまでは無理だった。だが、もう私を差し置いて会いにいくことはないだろう」
そう言うフォルテはちょっと拗ねている。「私が見つけた晴なのに」という気持ちだ。
フォルツァートは晴が死んだ遠因である。その妻が気に入った、というだけで我が子と呼び可愛がろうとするのは虫が良すぎるのではないか、と思ってしまう。
「そうだ、晴。その目だが」
「目……?ああ、鑑定眼ですか」
「そうだ。お前に害意を持つものがわかるようにアップデートしておいた」
その言葉に「それならまぁ……目立たないか」と便利であることも重なって素直に受け入れる。
「あとはお前の魔力が、妖精やら精霊やら、あの過労死系薬師と自称母親のせいで増しているのはわかっているか?」
「それは、はい。なんとか抑え込める範囲にはなってますけど、正直なところ結構いっぱいいっぱいです」
「コントロールしやすいように制御用のアイテムを授けたいのだが、何がいい?」
フォルテの問いに少し考え込む。フォルテがそう言ってくるということは遠慮したらまずい、もしくはまずくなるタイプの増加量なのだろう。
何がいいか、尋ねてきてくれるあたりありがたい。一方的に渡す場合でもある程度目立たない様にはしてくれる女神であることはわかっているが、相談をしてくれると説明も聞けて良い。
「どこに着けるのが一番やりやすいでしょうか?」
「そうだな。魔力を扱うことの多い指や手首など、それから血の多く通う場所か。目立たない様にできるとは思うが耳はお勧めしないな。身体に刺す必要があるし、そんなに効果が出ない」
「体内に刺してるし、首の近くなのに?」
「刺すからこそ逆に効果量を大きくしてはいざという時に魔力があまり出せなくなる可能性がある。……制限が難しいのだよ」
そう言われて手首にしようと思ったけれど、すでにジャンナガーデンの鍵がついている。指輪は絶対にエリザベータが嫉妬すると思って少し困った顔をする。
「ふむ。まぁ、なかなか良い品のようだしそれに機能を追加するか」
ハロルドの言わんとすることを察したのか、彼女はそう言ってハロルドの手を取る。そして、腕輪に力を注ぐとその形が徐々に変わった。オアシスの水を思わせる石はそのままに、緑と花のモチーフが追加されている。
「目立たぬように魔法もかけておいたぞ。それと、今利用しているメガネもこれで新調しろ。起きたら異空間収納に届くようにしておく」
「……さらっと上位素材を渡されても」
「魔眼のアップデートもしてあるから、今までのものだとうまくいかない可能性もあるからな。何、私のやった力のせいなのだ。受け取っておけ」
ハロルドは「いや、本当にありがたいな」と心の底から感謝していた。彼は神たちのせいで環境を変えざるを得なかっただけでその本質は変わっていない。静かに普通に暮らしたいだけだ。
フォルテは割とポンコツなところもあるけれど、それでもフォローをしてくれる。生前からの付き合いなので安心する気持ちもあった。
「ありがとうございます」
「ふふ、お前が私の布教をしてくれたからできたことだよ。礼を言うのはこちらの方だ」
これ以上は身体に毒だ、おかえり。そう優しい声が響く。
温かな何かが身体に流れ込んでくるのを感じながら、ハロルドはそれに身を預けた。
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