13.不機嫌な女神
お久なあの方。
あたり一面に咲く花々。
そこはいかにもファンタジーというように美しい花畑だった。そこにある神殿のような建物は、真っ白で可愛らしい、けれどどこか清らかな印象を与える。
その花畑に用意された四阿にはテーブルと椅子。そこにお菓子とお茶が用意されていれば、とても気持ちよくお茶会ができただろう。
けれどそこに座っているのは不機嫌さMAX、もうこれ以上機嫌が下がることはあるのかというほどの感情を抱えながら手紙を持つ美女。
そして両手両膝をつき、深々と頭を下げる土下座スタイルの筋肉質な青年だった。日焼けした肌に燃えるような赤い髪は短い。太陽のような金色の瞳を持つ青年は夏の神エスターである。
「ユースティアめ、最近大人しくしていたと思っていたのにやってくれたな」
クリーム色の真っ直ぐで長い髪を耳にかける。青い瞳がエスターを射抜く。
「うちの母が毎度、ご迷惑をおかけして申し訳ございません。フォルテ様」
「貴様も難儀なこと。愛故に我を忘れる母と気難しい兄の尻拭いに訪れるなんて嫌だろうに。……そういえば昔は恋に溺れた妹の後始末もしておったな」
一気に可哀想なものを見る目へと変わったことを感じるエスター。だが、それでもここで油断はできない。ここで頭を上げて機嫌を損ね、次の瞬間に牙を剥くのが神だ。
「結局お前の妹は私のお気に入りを夫として持っていったな?覚えておるぞ」
一瞬楽しそうな声であったが一転、ド怒りボイスへと変わった。さらに深く頭を下げる。
エスターは自分の親兄弟が動き回った結果、目の前の彼女がどれだけ迷惑を被ったかを知っている。
「……そろそろ頭を上げたらどうだ?私の晴は別に神同士の戦争を起こせなどと言っているわけではないのだからね」
「ですが、実際にそうなる可能性もございますので」
「嫌味か?力を取り戻しつつあるとはいえ、私の力はまだお前たちの父には及ばない。アレで悪気がない上に、妻子を大事にするのだから厄介だ。暴君なだけであればいくらでも手はあったものを」
だから慕うものもいるのだ。
それが忌々しいとでも言いたそうな表情だった。
エスターがゆっくりと顔を上げると、「それにしても、これだけ恐怖されているのに母気取りとは」と少し呆れたようなフォルテを見て、エスターは「やっぱり怖がられてるのかー」とどこか遠くを見るような目をしていた。
「ふ、アレだけ可愛がっていると主張しておいて無様よなぁ」
フォルテは花を摘むとそれが小鳥に変化した。それが飛び立っていく。
「冬のには何も言わぬ。ユースティアにはこれ以上の出過ぎた真似は、私が許さんと釘を刺しておいた……が」
「が?」
「まぁ、罰は必要だな。貴様も何かあり次第報告に寄れ。確かにフォルツァートにはまだ及ばぬ。だが、私が動けば惨事になることは覚えておけ」
フォルテは基本的には愛情深い女神だ。
けれど、その慈悲は彼女を尊敬し、尊重するからこそ与えられるものだ。
数年前までの弱った彼女であればそこまでの権能はなかったけれど、ハロルドの雑な布教と、彼に影響されてフォルテを信仰するようになった人の子の影響は想像以上にフォルテの力を取り戻している。
度を越した接触をして、自らの寵児の体調にすら気を遣えなかった女神にだって、多少の罰を与えられる。
天秤を一方的に傾けるなど、すでに造作もないことだった。
ちなみにこの後、彼女は律儀にも書類を書いてユースティアに飛ばす。自分への罰だとしてもある種正当なのでユースティアも受け取る。
エスターは夏を迎える準備をしながらお兄ちゃんのご機嫌取りをしてて忙しい。可哀想。




