10.忠告と昔話
エリザベータが可愛いのはハロルドの前だけの話だが、それはそれでいい。アイマンは「正直、俺はあんな女怖いだけだが」と思いつつもそう結論付けて、注意しておきたかったことについて話し出す。
「そういや、マーレ王国の連中が大荷物でこっちに来てたから、気をつけたほうがいい。あそこの国の連中は一部を除いてタチが悪い」
眉を顰めながらそう言うアイマンの表情には不快さが滲む。
「今の王になってから、あの国は碌な話を聞かない。特に今は何の神やら精霊を怒らせたのか国境を雪に覆われている。神の加護を得ていると分かればその瞬間誘拐しかねない」
「もう誘拐未遂にあってるよな、ハル」
「冬に一回ね。というか……しつこいな、あの国」
すでにその原因が女神フォルテの神罰であると知っていた二人はそんなことを話す。ちなみに現在はその権限を分捕って冬の神が頑張っている。そのせいで被害は増えていた。
「……いや、理由それじゃ」
「ドラゴンまでけしかけてきた向こうが悪い」
しれっとそう言う弟分にアイマンは苦笑する。ハロルドは自主的にそういうことを頼む人柄ではない。おそらく、本当に向こうが悪いのだろうということがすぐにわかる。
「ドラゴンなぁ……あそこの竜騎士も統制が取れなくなってきているというし、竜王の名も落ちたものだな」
「竜王?」
「ああ、お前たちが知らないのも無理はない。古い昔話だからな」
アイマンは足を組んで、ゆっくりと話し始める。
——昔、昔。神話の頃のお話を。
「昔、昔、あるところに、それは美しい紺碧の髪の乙女がいた。乙女は心根まで美しい娘で、心優しく、周囲に愛されていた。
ある日のことだ。娘は山ほどに大きな、傷ついた竜を見つけた。可哀想に、と手当をしようとする娘を竜は威嚇する。
それでも娘は諦めなかった。懸命に自分に尽くす娘を見た竜はいつしか人に心を開き、娘を妻としてその地を治めた。やがて娘は子を産み育て、それが現在の王族である。
要約するとそんな感じの逸話があるんだ。そして、実際に人よりも遥かに強い種であるというのに、あの国のドラゴンは人と共に生きている」
だから、マーレ王国は強く信じている。
自分たちは龍神に守られている、それ故に何があっても大丈夫だと。
「……よく加護みたいな、神の都合で取り上げられる可能性があるものをそこまで過信できますね」
「それをお前が言うのか」
「むしろハルだから言うっていうか……」
「何で気に入られたのか分からないからな、よく分からない理由で取り上げられる可能性もあるだろう?」
アイマンは納得すると同時に「そういう考え方で普通に生きている限りは大丈夫だと思うぞ」などと思ったが声には出さなかった。
アルスを思い出しても、ハロルドはめちゃくちゃ気に入られていた。本人は「目立ちたくない。田舎で細々生きたい……」というちょっと枯れた考え方なのに。
どの神もそういうハロルドが可愛いのだろう。
アイマン「だから逆に不憫なんだよな……大人の俺らが無理しないように気にかけてあげないと」
カラム「がんばれ(神獣の腹を撫でる妖精)」




