3.女神の託宣
今年最後の更新です。
やけに眠い日だった。
妖精たちのおねだりと自分の食欲に従っていちごのタルトを作った後くらいから、強烈な眠気を感じていた。
けれど、ハロルドは割とやることが多いので、目を擦りながらもいつも通り働いていた。
幼馴染の勉強をみたりだとか、自分の予習復習。畑の手入れに、肥料の研究。これでも今日は少ない方だ。
日によってはフォルテの教会に行ったり、狩りに行く。最近ではなるべく魔物の討伐依頼をして欲しいとギルドに張り紙がしてあった。そう強くはないが、魔物がやはり増えている。そして、それらは何かから逃げてきた様子だった。
スノウが「おかしい」というのだから、異常事態であるのだろう。
うとうととしながら夕食を取っていると、アーロンが「今日はさっさと寝ろよ」と後片付けを手伝ってくれたので、ハロルドはいつもより早めに眠りについた。
目を閉じると、何かに引っ張られるような感覚がある。落ちていく意識がはっきりした頃には、これが夢であるとはっきりと理解した。
(ここは……フォルテ様やアルス様じゃないな)
自然たっぷりな二柱の神域と違って、どこか冷たい雰囲気の場所だった。荘厳な神殿のような場所で、水晶でできている。
「よく来ました、我が子よ」
気がつけば背後に少女のような姿の存在がいた。
床につくほどの長く美しい黒髪、それを頭上で二つのお団子を作っている。紫水晶のような瞳が神秘的だ。瞳は吊り上がっているがまあるい形であるからか、どこかイタズラっぽくも見える。背は小さく、おそらく150cmはないのではないかと思えたが、高めのヒールを危なげなく履きこなしていた。背が低いからか、思わず大きめな胸に目がいきそうになる。
美しい少女に「我が子」と呼ばれて、その存在の名前に心当たりを見つけた。
「ユースティア様……?」
そうハロルドが口にすると、彼女はまるで「正解」とでも言うかのように優美に笑みを作った。
「呼んでも、呼んでも、なかなか眠ってくださらないのだもの。わたくしに何か不手際があったのかと思いましたわ」
「いや、やること多いので」
「あなたはもう少し休んでも良いのよ?」
その言葉に苦笑いする。領地云々は現在王家に丸投げなので、基本的にはハロルドがやることというのは趣味、生活のため、自分が進んで背負い込んだものになる。
「引き取って、それで終わりってわけにもいかないでしょう」
ミハイルも、ペーターも、何があっても大抵大丈夫、というところまで引き上げるのが手を差し伸べた自分の責任だと彼は考えていた。拾ったならばその命に責任を持たなければいけない。人間なら尚更だ。
幸い、彼らは優秀で勤勉だ。学園を卒業する頃には、新しい目標もあるかもしれない。
「ふふ、いい子。わたくしは鼻が高いわ」
嬉しそうに笑むユースティアはすっかりハロルドを我が子認定していた。ハロルドからすれば、特に関わりがあるわけでもないのでちょっと怖かったりする。
「可愛い子、よく聞きなさい」
愛し気に、心配そうに彼女は告げる。
この国に迫る悪意があると。
それは、龍——ドラゴンであると。
「わたくしの可愛い子、あなたはきっとそれを迎え撃ち、英雄となれるでしょう」
「えいゆう」
ハロルドはその言葉に目を点にした。
そんなもんになるつもりはない。後、そんな素養が自分にはないと知っていた。
「けれど、嫌なのでしょう?わかっていてよ」
ユースティアは、「だからこれは王に伝えるの。国に対策を取らせなさい」と言って両腕をハロルドへと広げると、膝がひとりでに折れる。そのことに驚いていると柔らかな温もりに包まれた。抱きしめられているようだった。
「勤勉で可愛い子。覚えておきなさい。国一つや二つより、人の百や千より、わたくしはあなたが気に入っているわ。あなたが生きにくい場所ならば、そんなところ、滅びてしまえばよいのよ」
神らしく、傲慢で、けれど愛に満ちた言葉ではある。
しかし、ハロルドは根っから普通の人間である。
(え、こわ。こっっっわ……)
リリィの言っていた意味がちょっと理解できて、だいぶフォルテに助けを求めたい気持ちだった。
こっわい女神(ただし神様としては割と普通。むしろ気遣ってくれるだけ良心的)。
今年は皆様がたくさん読んでくださったおかげで嬉しいお話をいただいたりした印象的な年でした。来年も頑張ってお話を書いていければと思いますので、引き続き宜しくお願い致します。
皆様も良いお年を。




