32.のんびりセレナ
湖の縁に腕を出して、魚のような尾をゆらゆらと揺らしながら、精霊は「痛いの〜、ヒドイの!」と抗議の声をあげていた。彼女を思い切り蹴り飛ばした拍子に落ちたネモフィラを掬い上げると、ハロルドは一つ咳払いをしてから「あなたがこの森の精霊ですか?」と尋ねる。
そんなハロルドの顔を見た精霊の青白い頰に、ポッと朱がさした。
「そうなの!セレナなのっ!!」
身体をくねくねしながら、「王子様のお名前も教えてほしいの」と言っているセレナにハロルドは「王子様はここにはいないけど」と困惑したように答える。ルクスが「ハルのことではありませんか?」と耳打ちすると、ハロルドは複雑そうな顔をした。
「私はハロルド・アンバー、この土地の領主になりました」
自己紹介をすると、セレナはキラキラした目でハロルドを見つめていた。
ブランと違って全体的に人外であると分かる風貌の彼女は指を組んで「はろるど……ハロルドというの。覚えたの!」とハロルドを見上げた瞬間に再び吹っ飛んだ。
「貴様、ようやく起きたのか!?我があれだけ大変な目に遭ってたのに、呑気に寝ていたというのか!?」
気づけば、小さな身体を怒りに震わせた緑色の髪の少女が立っていた。久しぶりにあったブランを見て、少し嬉しくなったのかセレナは「わぁ〜、ブラン、久しぶりなの〜」と水からひょっこり顔を出して手を振る。
「要求ばっかりで、湖を汚すことしか考えないバカな人間のために働くからたいへんになるの〜。セレナは、好きな子のためだけにがんばるの〜!おうじさま……ハロルドのためならがんばってもいいの〜」
「昼寝していて閉じ込められた間抜けに言われとうないわ!」
「うぐ……それを言われるとツラいの〜」
ブランがとても真っ当に見える。
なお、彼女自身も人助けにと魔物退治を頑張っている間に棲家を奪われた精霊である。
「でもでも、素敵な人と出会えたからセレナも頑張ってもいいの〜」
「お前、妙に頑張っても絶対やらかすであろう?我、しばらくここに出張するからずっと寝ておれ」
「ブランがいいとこ取りするつもりなのー!!酷いのー!!」
そもそも魔物退治を単独でこなす事になった理由はセレナがずっとサボっていたからだ。仕事を分けようにも「面倒なの〜。ブランが勝手にやればいいの〜」といった様子だった。酷いの〜も何もない。ブランは彼女を一切信頼していなかった。
「ブランはなんでここに?」
「長年居着いた土地故、異変があればわかる。コイツが反省するまで閉じ込めておいてもよかったのだぞ」
「上に被さってた花が魔物だったんだよ。その上、匂いで更に多くの魔物を集めてたんだ」
「花の魔物?森にはしばらく来ておらんかったが、我がこの辺りにいた頃にはそんなもの……これは甘蓮か。まだ成長しきっていないからマシだが凄まじい勢いで育ち、増える性質がある。セレナ、お前ハロルドが来なければ近々捕食されていたな」
「なんでそんなモノがここにあるの〜!?」
湖にわさわさあった事に気付かなかったセレナにドン引きしているブラン。
「人間のことはある程度人間が頑張るべきだ、と我もフォルテ様に釘を刺されてしまったからな。とりあえず体制が整うまではここに居てやる。セレナは絶対またのんびり昼寝してサボる。我にはわかる」
ブランの言葉に、ハロルドはそれはそうだと頷いた。
しばらくはブランや国から助けを借りなければならないだろうが、立て直しが出来次第、冒険者ギルドや自分が雇った人間と協力して魔物の対処をしなくてはならないだろう。
「恨みもあるかもしれないけど、しばらくは頼むね」
「任せておけ。我もハロルドに救われた身だ。恩は返そう。……まぁ、流石に人は選ぶかもしれんが」
それは直接彼女に害を及ぼした人間は除くと言いたいのだろうか。ハロルドは少しそんなことを考えた後で「ろくなやつじゃなさそうだしいいか」と頷いた。
置いてけぼりのセレナが「セレナもお話に入れて欲しいの〜」と水面をちゃぽちゃぽと叩きながら主張していた。
精霊セレナ、捕食される寸前だった
セレナはロリ巨乳系人魚型精霊。全体的に青緑っぽいので人外み強い。ぽわぽわしてる。




