25.潜在能力
ハロルドたちが出ていって、「エッグい毒使ったってとこは隠せてるかな〜」とノアは割とガチで施してある特殊メイクを見ながら呟いた。これでも部下の「流石にこの遺体を神子様に見せるのは酷」という気遣いでマシな様子になっている。おかげで残念ながらエッグい毒に関してはバレているが、見た目的にはそれなりに美しくなっている。腐敗も防ぐし一石二鳥だ。
ハロルドが冷静で助かった。調べではハロルドの両親は共に問題がある人物だ。積極的に始末をするつもりはないが、会ってしまったならば、その先でハロルドの害になる可能性があれば片付けなければならない人物ではあった。積極的に嬉々としてやる人間が出ていることには恐怖するが、結果は変わらない。
「エレノア・ハンベルジャイトのおかげで、バカが何やらかすか分からないって警戒してるのはしょうがないよなぁ」
ハロルドが危惧しているのもある意味ではそれだっただろう。まともな精神を持っていたのならばやらない事を、自分の利になる『かもしれない』と平然と行う者がいたのだ。危険があるのならば排除したいと考えるのも当然のことであった。予想外のバカのせいで国に影響を与えるわけにはいかない。マーレ王国のように。
(あの子も思うところがない、って訳ではなさそうだけどね)
意図せずとはいえ、貴族になったのだから、ある程度は呑み込んでもらわねばならない。多くの権利を持つ代わりに、多くの民を導く義務が課せられている。理解しようともしない者もいるが、それは少数だ。
場合によっては家族を切り捨ててでも守らなければならない事はある。それが早々に訪れてしまった事を不運だとは思うけれど、それでも本来なら彼が決断するべき事だ。それを理解しているから、やりきれない感情を呑み込んだのだろう。
そんな事を考えながら、次の仕事に意識を向けようとした時だった。不意に、そこに『誰かがいる』感覚を覚える。ノアが振り返ると、無感情に遺体を見下ろすペーターがいた。
「……なぁんだ、意外と綺麗な死体じゃん。やっぱり俺がこの手で殺しておくんだった」
その姿を確認してノアは目を見開いた。確かにある程度、部下が周囲にいるため油断していた。けれど、ただの孤児一人の気配すら分からないほど彼は弱くない。
(嘘だろ、このガキ)
冷や汗が出るのを感じる。
何かマズイものを見つけてしまった心境だ。
「これ、そんなに楽な死に方してないよ」
その内心を隠してそう話しかける。殺した当人から聞いた様子を事細かに話してやると、やがて納得したような顔をして笑った。
正直なところ、ノアはドン引きしている。
「ハロルドはそこまでお見通しだったんだ……すごいなぁ」
その声はどこか恍惚としている。その様子にもまた心の距離が離れるのを感じながら、ノアは貴族的な笑みを崩さない。
ハロルドの言葉は「性病その他諸々抱えてるし苦しみながら死ぬだろうなぁ」という意味合いであり、「エグい毒でめちゃくちゃ苦しんで死ぬ」という意味ではなかった。ただ死に方の説明をしただけなのに、それをハロルドが仕組んだかのような、そんな微妙なすれ違いが起こっている。
「本当に、こんなクズから産まれた事は、無かったことにしなきゃ」
ゾッとするほど冷たい瞳で遺体を見下ろす。
そんな時だった。テントの外から「ペーター?どこだー?」と呼ぶハロルドの声が聞こえる。表情がころっと嬉しそうなものに変わった。
「ハロルドが呼んでるから行かなきゃ。あ、教えてくれてありがとう。お兄さん」
にこりと微笑みを浮かべるペーターを見送ってから、ノアは彼とは対極にその笑みを消した。
「ねぇ〜?まぁ〜たあの子、クッソめんどくさい人間に懐かれてない?」
頭を抱えながら、「ハロルドくんにあの子の鑑定頼もう、アレはやばい」と呟いた。
ハロルドの悩みがさらに増えることが決まった瞬間だった。
あかん




