16.森の探索1
どこか機嫌が良さそうにハロルドの横にいるエリザベータは女性騎士を視線で追い払っていた。現在のハロルドは本来の美貌がメガネによって封じられて他者の目には「冴えない少年」となっているはずだが、それでも油断はできないと普段から目を光らせている。実際にその女騎士はハロルドの素顔を知っていたので正解ではあるかもしれない。
(エリザベータ姉上、マジで過保護だな)
ミハイルは威嚇するような異母姉を呆れたように見るが、それを気にする様子もなく、ハロルドは地図を見ながら進んでいた。入り口にいたならず者から手に入れた地図には幾つか印が付いている。孤児の名前なのか、人名のように見えた。
それが間違いでないとわかったのは、一つ目の名前の場所にたどり着いた時だ。
濃い血の香りの先に、胸に月のような模様のある熊の魔物がそこにはいた。口元にはベッタリと血と肉片がついている。ニタリと笑うように腕を振り上げた瞬間だった。その熊は肉体に違和感があったのか少しだけ止まった。しかし、目の前にいる神の気配を纏う少年を食らう方が先決だと腕を振り落とす。
振り落とした、はずだった。
「GYAAAAA!?」
腕から吹き出る血は自分のものだとようやく気がついてソレは叫んだ。いつの間にかハロルドの目の前には大きな女がいた。
彼女が再びその剣を振ると、今度はムーンベアーと呼ばれるその魔物の首が落ちた。コロリ、と地面を転がるその表情は何が起こったか分からないとでも言うようだった。
「神子様、お怪我は」
「ないです。ありがとうございます、シャルロットさん」
女聖騎士の名はシャルロット・ラリマー。背は180cm以上で剣を持ち腕や足は筋肉がしっかりついて太い。しかし、おそらく多くの者がまず先に目に入るのはその豊満な胸部だろう。
何もかもがデカい。それがシャルロットという女性だった。
ウィリアムが推してきただけあって、彼女は生真面目でよく働く。そして何よりも非常に強かった。
(気のせいかもしれないけど、前に来たマーレの竜騎士より強くない?頼もしいからいいけど)
さっと定位置に戻っていくのも早い。エリザベータはもっと遠くに行って欲しいと思っている様子だが、ハロルド個人としては好印象だ。素顔を知っているのに、ある程度の距離をとって接してくれるのはありがたかった。
「ハルを守るのはアタシたちなのに〜」
「いつも十分守ってくれているよ、ありがとう」
むくれているローズにそう言うハロルド。それに気分を良くしたのか、嬉しそうに肩の上で鼻歌を歌っている。
「神子様は悪い方ですね」
「わかりますか」
後ろでエリザベータとシャルロットはその様子を見ながらコソコソとそんな話をする。彼女たちにはハロルドが妖精たちを誑かしているように見えた。
彼女たちは事情を知らないけれど、そもそも妖精たちは押しかけである。育てていた花が目当てでハロルドの元に押しかけてそのまま居座っているのであって、誑かしたとかそういう事は一切ない。花が育てば帰ると思っていたハロルドだったが、野菜に魅せられ、花に魅せられて、ハロルド自身を気に入ってしまった結果今では強火のハロルド推しだ。彼女たちがいるからこそ余計に彼は「触るな危険」系の存在になっている。
「僕的にはどっちかっていうと、可哀想なタイプだと思うんだけどな」
ミハイルが呆れたような、けれど周囲に聞こえないくらいの小声で呟いた。
ミハイルから見れば、ハロルドは別に誑かそうとなんてしていないし、彼に近づく女性には何かしら問題がみられた。自らの異母姉も含めて、だ。妖精たちは我が強く、性格にも難がある。ジョシュアが「一時期アンネリースを降嫁させるのでは、とも言われていた」と言っていたが、あのお転婆王女に難がないと言える貴族の方が少ないだろう。みんなに優しいというのが「悪い男」というのであれば、そうかもしれないが、それで多くが救われているのだから何も言えることがない。
(無欲なのにこのままだと王太子の側近くらいまでにはされそうだし、下手すると爵位も男爵じゃ済まない可能性あるよな)
やっぱり可哀想な性質をしている、とミハイルは主人兼義兄となったハロルドの後ろ姿を見つめた。
いつも読んで頂き、ありがとうございます。




