14.教会下の孤児
意図せずエリザベータを陥落させて、妙に煌びやかな教会へと赴く。
外装よりも内装の方が成金趣味でセンスが良いとはいえない。謎の胸像を見ていると、「ピエール・ド・ルシナンテの偽物ですわね。こんなあからさまな贋作を買う馬鹿が存在するなんて」というエリザベータの少しだけ驚いたような声が聞こえた。
「ピエールがこんなに荒い削り方をするわけがないだろうが。馬鹿にしているのか」
「小金ができたからと商人を呼び寄せて甘言に乗せられたのでしょう。審美眼がないのに芸術品や骨董に手を出すと痛い目にあうという典型例ではないかしら?」
国内最高レベルの教育を受けてきた元婚約者コンビを見ながらハロルドとマリエは「ピエールって誰だ?」「ハロルドくんも知らないんだ。じゃあ、私が知らなくても仕方ないね」と呑気に話していた。
ハロルドは胸像を見ても、「美術の時に使ったやつみたい」みたいな感想しか抱けない。
(この荒い感じも味といえば味な気がするな)
悪い作品には見えなかったが、贋作であり、サインまでしっかり真似されているのならば良くないだろうと廃棄を決めた。犯罪者の根城など、そもそも残しておく気はない。最終的には取り潰す。
建物自体はまだ証拠を集めきっていないのでしばらく残しておくつもりだが、孤児たちが虐げられてきた場所をそのまま置いておくのは縁起が悪いと思った。
「殿下〜、地下から生死問わず被害者出てきました。えっぐいのでしばらく来ないでください」
うんざりした顔でノアが報告すると、ジョシュアは眉を顰めた。ノアがそう言うということは「余程」なのだろうと想像がついた。
遺体は地下室にあった扉から外に出され、近日中に埋葬されることになった。生きている者たちも震えていたり、酷い者だと目が虚ろだ。地下室の様子を見せてもらうことができなかったハロルドであるが、孤児の様子を見ていれば凄惨な状況だった、ということだけはわかる。
「ただいま残ってた孤児のリストと照合中。違法奴隷を売買してる連中の足も掴めそうだ」
「そうか。法に則って裁かねばと思うが……」
「ああ、うん。わっかるー!!ぶっ殺したいよね。最悪すぎて!!」
ノリは軽いが目が笑っていない。
ノアはきっちり地下の様子を見てきたので余計に思うところがあった。
「この惨事に加えて、まだトラブルが残ってるんだよな」
ハロルドは珠に頼んで布や子供用の服を出してもらいながら、そんなことを呟く。土地を回復させるとかそういう問題の前にたくさんある面倒ごとに頭痛がする。
とはいえ、ハロルドがこの土地をもらっていなければ、王家もここまで立ち入ることはなかった。ハロルドという女神フォルテに愛され、医神アルスの加護を得た神子が引き継ぐことが決まったために、遅くなったとはいえ孤児たちが救われたという一面もある。
「これ、他の土地も見て回った方がいいんじゃない……?」
「王家かて、簡単に全員には手ぇ伸ばせへんわ。トラブルも一つや二つちゃうしな」
「頑張ってくれてるよね、陛下」
リチャード王を思い出しながらハロルドは複雑そうな顔を見せた。ハロルド的には「よく国を運営できているな」という思いすらある。
問題のある転生者、異世界人などに巻き込まれ、神罰を落とされて、それでもと立ち上がり続けることは並大抵の人間ができることではない。自分だったら折れているだろうと思えた。
「この報告見たら、元伯爵夫妻とかはかなり罪状を追加されそう」
「親族とか部下の関与次第では結構な人数が処刑されそうやな」
「僕もああなってたかもしれないから、キッツイ処罰があった方がいいな」
ミハイルは冷たそうに見える顔立ちをしているが、それも彼の魅力だと言わんばかりに整った容貌をしている。そして、ハロルドが引き取ると言わなければ、平民としての生活を知らない彼はすぐに捕まっていたかもしれない。
(姉上と敵対してなくて良かった)
エリザベータの願いによってそばに置かれていることはわかっている。ホッとする反面、苦いものが込み上げてくる。
同母の姉や両親の行く先はきっと順風満帆なものではない。もしかすると、すぐに今怯えている孤児たちのようになるかもしれない。
「何にしても、全部救おうったって無理な話です。理想はいつでも現実からはほど遠いものですから」
ミハイルの自分を落ち着かせるように、とどこか感情を抑えたような声で告げられた言葉にハロルドは静かに頷いた。
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