13.資料と予感
エリザベータと一緒に、ノアに言われた部分を読めば酷い仕打ちに関する内容が書き連ねてあった。「邪悪すぎる」と呟いたハロルドは悪くない。
奴隷商と結託して美しい容貌の子供を育てて売り飛ばし、そうでないものは劣悪な労働を強いられる。失敗すれば折檻をされ、鬱憤を晴らすように痛めつけられていた。
「もう嫌だ。ゴミ以下の存在じゃないか」
マリエ曰く、フォルツァート自体は脳筋なだけでそれなりに人間が好きらしいが、それを信仰する人間がクズしかいないのか、とハロルドは頭を抱えた。滅ぼすべきでは、なんて思考まで出てくる。
「しかし、このままにしてもおけませんわね」
「そうだよな。流石にこの森の視察くらいはしとかないと。……一人でも多く保護できれば良いんだけど」
最悪魔物の釣餌にされたと記載のある孤児たちは全員死んでいる可能性もある。その中に知り合いと同じ名前の子供もいたが、流石にこんなところには居ないだろうと資料から目を離した。
「とはいえ、俺もさっと見ていくことしかできないけどね」
「ハルが直接動かなくても」
「そうは思うけど……何か嫌な感じがするんだよ」
なんだか目を逸らしてはいけないような気がした。特に勘が良いというわけではないけれど、嫌な予感というものほどよく当たる。放っておけば後悔する。そんな予感がハロルドを動かしていた。
「ハル、ざこ女神の影響が強いからぁ……うーん。行った方がいいって思ったら多分そう行動した方がマシな結果になりそぉ」
相変わらずざこ女神呼ばわりなのを聞いてハロルドは苦笑した。リリィはハロルドが後悔しないのならばなんでもよかった。ついでに動いて何かあっても自分たちが守ればいいし、それはそれでハロルドの自業自得な部分もある。真綿で包み込むだけが愛ではないだろう、と思いながらティースプーンを持ってハロルドのカップから紅茶を掬い取った。
「お花の香りがするぅ」
「ああ。ラベンダーを使ってみたんだ。どう?」
「おいし〜」
にこにこする妖精を微笑ましそうに見つめるハロルド。エリザベータはそれをジトリと見つめている。ハロルドはアルスにも言われていたが、妖精たちに手持ちにある食品や嗜好品を普通に分け与えるどころか、彼女たちのために用意するなど甘やかしていた。
「エリザ、どうかした?」
「いえ、別に」
エリザベータの目線が気になって問いかける。返答に首を傾げながら、「エリザも好みのものがあったら教えて」と伝える。婚約者に贈るべきものはいくつか用意しているけれど、エリザベータの好み自体はまだよくわかっていないままだ。妖精たちは自分たちの好きなものをガンガン主張してくるのでその点はわかりやすい。
「エリザ、苦労をかける」
「大したことはないわ」
思っていたよりも腐敗している地域だったため、復興にも時間がかかるだろう。貴族に対する信頼もないことが予想される。
巻き込んでしまったことには申し訳ない気持ちでいっぱいだ。
「あなたと一緒ならば、乗り越えられると思うの」
ぎこちなく微笑んでそう言ったエリザベータの手を取る。ハロルドはそのまま彼女の瞳を見つめて「ありがとう」とどこかホッとしたような笑顔を見せた。
「やっぱり、悪い方」
目を逸らしたその横顔は少し赤く色づいていた。
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