11.邪魔者
現れた男たちは、痛みに呻く者たちを一瞥し、汚いとでも言うように服を払う。それを見たハロルドは思い切り軽蔑の眼差しを送った。
「金のない者にこのような施しをされては困りますなぁ!!」
「傷ついている自領の民を助けて何が悪いのかな」
ハロルドの嘲笑交じりの言葉に苛立ちを隠せないような男たち。その隣でエリザベータが「この程度で表情を変えるなんて大したことない方々ですわね」と無表情で呟いた。それに対してミハイルが「所詮は地方でイキっているだけの外道ですから」と返すので、その顔は赤らんでいく。
「ここは俺の下賜された領地で、彼らは俺が責任を持つべき民だ。無関係の人間に文句をつけられる謂れはない。気に食わないのなら、早くこの地を去るがいい」
「我々は神に仕える神官です。たとえ、領主といえども我々を追い出すことはできない」
「なんだ。ここまで知らせは来ていないのか?最近、王都の神官たちがとてもたくさん悪いことをしていたことが発覚して、君たちの権力はそんなに大きなものではなくなったんだよ」
実際に宗教活動は現在国の管理下に置かれ、その許可がないものに関しては正式なものとはみなされない。
目の前に現れた男たちの格好は、食べるものも少なく苦しんでいる様子だった民たちに比べ、非常に煌びやかで、身につけているアクセサリーは明らかに大きな宝石が付いている。その様子は聖職者としてと不似合いだ。
遠くからその様子を見ていたジョシュアは側付きの男に合図をすると、彼は頷き、姿を消した。
(絶対に不正をしているだろう)
呆れたような顔をしたジョシュアは「まともな奴はいないのか」とつい呟いてしまった。それを聞いたマリエはだいぶ複雑そうな顔をした。そんなやばい人間たちと手を組もうとしてたんだぞ、という感情もちょっとだけあった。そして、「逃げられたのが不幸中の幸い」と一息吐いた。
「大体、ここは誉高きハンベルジャイト伯爵領。貴様のような目立たぬガキに明け渡される土地ではないわ」
「ハンベルジャイト伯爵家は解体されたんだよな」
「断頭台に乗せられなかっただけ温情ですわね」
「むしろバッサリ殺してあげた方が温情だったのでは?甘やかされてきた貴族の人間が、平民……しかも罪人として生きていくのは難しいと思いますよ、姉上」
三人の言葉を嘘だと決めつけている目の前の男たちだが、彼らは何も嘘を言ってはいない。
エレノアたちは現在平民として放り出されている。顔に傷を負ったエレノアは、今まで可愛がってくれていたはずの親や教会の人間から役立たずとして罵られ、元ハンベルジャイト伯爵夫妻は教育に関する責任のなすりつけあいや、今後のことについてずっと喧嘩をしている。
ハロルドは顔の傷を見ても回復薬を与えなかった。未だ盲目である彼女は初期に回復薬を与えられていれば、その症状はいくらかマシだったかもしれない。けれど、友人を巻き込み、殺しかけた少女に与える情はなかった。ハロルドは自分に対することよりも、友人に危害を加えられた時の方が根に持つ傾向にある。特に仲がいいアーロンを殺しかけたのだから尚更だ。
(生きている方がキツイことってあるからな。というか、あの子もある意味では被害者らしいって後から聞いたけどそんなのこっちには関係ないし)
魔道具であるメガネを押し上げる。そのレンズの下にある瞳の色は冷たい。
「ハル、もう埋めちゃう?うっざぁい」
一番気の短いリリィは姿を消した状態でハロルドの耳元で囁いた。一瞬頷きかけたけれど、先ほど過剰に美しい教会の方に走っていく数名の影を見た。正式に裁いた方がダメージが大きいだろうと「今度ね」と止めた。完全に禁じないあたりにハロルドも慣れていた。
(じゃあ、あとは時間稼ぎかな)
エリザベータに目配せすれば、彼女も無表情のまま頷いた。大人しく見えるらしいハロルドたちに大きな声で怒鳴る悪趣味成金聖職者約10名。彼らは「負け犬がギャンギャン吠えやがる」くらいにしか思っていないハロルドたちに気を取られたせいで、自分たちの本拠地に思い切り捜査の手が及んでいることにまだ気がついていない。
加えて、ハロルドたちが若干煽っていたせいで少し後ろに嫌悪感が増しているジョシュア第二王子と本来大事にしなければならない聖女マリエがいることにも気がついていなかった。
いつも読んで頂き、ありがとうございます。
ジョシュア「我々に気付かず、地味擬態しているハロルドに突っかかるのはどうかしていると思う」




