10.奉仕活動
問題のあるという村に着くと、空気が重い。メガネをかけてから馬車から降りたハロルドはそこにいる多くの怪我人や病人を見て難しい顔をした。
(薬草とか結構持ってきて良かったな)
聖女の奉仕活動がメインとはいっても、彼女の身体は一つであり、全員が助かるという保証はない。そもそも聖女が来るとは知らなかったため用意だけはそれなりにしてある。アンリ個人からのお礼品でもらった素材で作った掛け鞄を撫でて在庫を脳内で整理する。
アンリは「異空間収納のスキルがあるとはいえ、それがバレると面倒なんだろう?王家がお礼として渡したという扱いにしてもいいから自分用の異空間収納式鞄を持っておきなさい」と材料一式を融通した。実際、確かにあった方が便利だ。エリザベータにも同じものを渡している。ハロルドはエリザベータ本人にそこまでデザインの好みというものがないと聞いたので、ルビー侯爵夫人に相談して作成した。
もう一つの馬車に近づくと、ハロルドは手を差し出して「エリザ」と呼ぶ。扉が開いてエリザベータが出てくる。ハロルドの手を取って、心なしか穏やかに微笑んで馬車を降りた。
「そっちの馬車はどうだった?」
「楽しく過ごしましたわ」
エリザベータの言葉の意味は「楽しく(あなたの様子を見て)過ごしましたわ」である。何となくそれを察したハロルドは少しだけ苦笑をして「それはよかったよ」と言うと、後ろからひょっこり顔を出したマリエも何か恐ろしいものを見るような目でハロルドを見ていた。
「アタシ、あの気持ち悪いのふよふよしてるの見てたんだけど」
「ウチも。まぁ、ハル気にしてないしぃ〜?」
珠は「懐の広い旦那さんでよかったな」と言いながら、ひょいひょいと軽い足取りで馬車を降りてきた。そして、そのまま手をマリエに差し出すと、彼女もまたゆっくりと降りてきた。
ある程度の距離をとってジョシュアが駆け寄る。
「マリ、何もなかったか?」
「う、うん。ちょっとアレなもの見ちゃったけど。これも多様性ってやつよね、うん」
多様性で済ませていいものかはわからないが、ハロルドは納得しているようだからと黙っている。
とりあえず、簡易診療所という形でテントを設営しマリエとジョシュアはそちらに、大きな鍋を数個並べたテントにハロルドとエリザベータが向かった。
「珠さん、買いたいものがあるんだけど」
「はいはぁ〜い!!にゃふ、ウチもたっくさぁん持ってきとるで〜」
ハロルドが頼むと、嬉しそうに彼女は鞄を叩いた。彼女が持っているのもまたマジックバッグである。それも、ハロルドが作ったものよりももっと品質が良いものだ。中に入れておけば商品の劣化も防げるという代物であり、しかも魔力を登録した者以外は中身を引き出せない。
珠から食材を買い取って、一緒に来た騎士たちと一緒に炊き出しを行う。その匂いに誘われて、ゆっくりと人が集まってくる。
「量は用意してあるから並んで。横入りした者は最後尾に無理やり連れて行きますわよ」
魔法で拡大した音声に慌てながらきちんと並ぶ。
その村にいるのは怪我人、病人、老人、女子供だった。年頃の男が少ないのは、スタンピードの際に老いた両親や妻子を守って散っていった者が多かったからだ。そうでない者も少なからず傷を負っている。
そうやってハロルドたちが奉仕活動を行っていると、弱った村人を蹴り飛ばしながら、寂れた村には相応しくない煌びやかな格好で近づいてくる男たちが現れた。
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