32.すれ違う者たち
細かい条件や書類の作成などを経て、疲れていたハロルドだが、フォルテの神殿へと足を運んだ。途中で出会ったエドワード・ラピスラズリも一緒である。
ハロルドは婚約をしたという報告と花を捧げる為、エドワードはウィリアムに用がある為の訪問である。
(まぁ、フォルテ様が気に食わなかったら夢にでも出てくるだろうからな)
呑気にそう思いながら順番を待っていると、目の前にいる同い年くらいの少年が必死に祈りを捧げていた。ミッドナイトブルーの少し長めの髪が目の前で揺れる。
「クソ親父とバカ母とクソビッチ姉がまともになりますように。まともにならないなら僕の知らないところで……にますように」
小さい声でブツブツと呟かれるのは、怨念が籠りに籠ったひっどい願い事である。背後にいた為か最後の小声まできっちり聞こえてしまった。そもそもフォルテは争いごとの神様ではない。「そんなことを言われても」と困るだろう。
「あと、ちょっとまともになった姉は穏やかに暮らせますように」
普通の願い事もできたのか、と逆に感心しながら順番を待つ。
「タンザナイト伯爵家の嫡男ですね」
その言葉に「エリザベータ嬢の」と口に出したハロルドにエドワードは頷き、「異母弟に当たります」と答えた。
祈りを済ませた彼は少しだけスッキリとした顔で侍従と共に去っていく。
「そういえば、弟はまともだって言ってましたっけ」
「ええ。ただ、あれだけ不穏な言葉を吐いていると……切羽詰まっているのかもしれないな」
エリザベータから溢れる実家の話では「父親が見る目がなくて詐欺に騙されかけたのを辛うじて食い止めたのにキレられた。意味がわからない」だとか、「義母が女性用風俗営業店の男性店員に狂ってとんでもない金額を落としてきたので、その補填のために義母の宝石とドレスを売り払ったらキレられた」とか、「異母妹が結婚相手を高望みするくせに勉強をしない上に、ちやほやしてくれる男性と遊んでいる」とか、割と酷い話が多かった。
唯一異母弟の話だけは「あの子はまともに話を聞いて、手伝ってくれるの」などと普通の家族らしい反応をしていた。
(そんな親と姉だったらあんな願いが出るのかな……?)
異母弟の調査をしてもらって、結果次第では彼だけ助けるのも手かもしれない。そんなことを考えながら祭壇に辿り着いた彼らは捧げ物を置き、報告とお祈りをしてから神殿を去った。
彼らはまさか、本当にこの先もエリザベータの異母弟と関わることになるなんて思っていなかった。
いつも読んで頂き、ありがとうございます。
ミハイルくん、すごく家族にいなくなってもらうか、家族から逃げたがってる。




