32.二人の知らない夜の出来事
名前には力が宿る。だからこそ、初めに贈られるそれは何よりの祝福なのだ。
スノウはそんなことを思いながら眠るアーロンを見下ろした。すーすーと心地良さそうな寝息をたてている。
スノウは家族のため、友人のためにどうやって共に生き残り、戦い抜くかを考え抜ける力をアーロンに感じていた。力が足りないと思えば悔しがるし、その分努力もする。大切な存在のために力を振るいながら、それでも自分が犠牲になってでもとは考えない。アーロン自身が自分が誰かにとっての特別であるという自覚がある。
真っ当に愛されて育って培われた自覚と、彼自身の資質、友人と共に磨いた魔力が卵の状態だった神獣の目には美しく映った。
(なんか、おれの前のヤツらはあそこの領主一家の誰かを気にいることが多かったみたいだけどなー)
オブシディアン辺境伯家はかつては神獣と共に生きる家であったが、時代と共に彼らの考え方、生き方が防衛の方へと傾いた。神獣とは覚悟の方向性が変わったためそれなりの期間、姿を見せることはなかった。
しかし、それは彼らが悪かったわけではない。辺境の地を預かる者として、隣国の脅威に備え民たちを守らなくてはいけない。生死を分けた戦いが起こるほどの緊張状態ではなかったものの、マーレ王国はちょくちょく、ちょっかいを出してきていた。辺境伯家の守りが固いことを学んでか、それは少なくなってきてはいたが少し前のように欲しいものがあれば強奪を試みることもある。
尊敬できる者たちではあるが、共に生きる者としては選べない。神獣としての資質が彼らと対応するものではなかった。
そんなところに現れた適合者だ。欲しいに決まっている。
女神フォルテの臭いも感じたが、加護まで与えている訳ではないらしい。
「わふ」
眠るアーロンにきらきらとした光が降り注ぐ。柔らかな白銀のそれはまるで雪のようだ。
スノウと名付けたそれはただの獣ではない。生まれてそう時間が経ってないとはいえど、神として生まれた獣である。共に生きるものには加護を与えたがる。
そして、アーロンも知らないうちに魔力と知覚に強化が入った。
——そして、同時刻の温室。
そこは異界が如く空間を切り取られていた。
中には色とりどりの光が舞い、くすくすと愛らしい笑い声が聞こえる。柔らかに光る翅を広げて、たくさんの妖精たちがその誕生を心待ちにしていた。
やがて、大きな水晶花に似たそれはゆっくりと花開いていく。
一つは柔らかな白い光を、もう一つは神秘的な紫の光を発している。やがてそこから一人ずつ、新たな妖精が現れた。それに長く波打つような薄桃色の髪と水色の瞳を持つ女の妖精が手を翳した。
「ティターニア様」
名を呼ばれた彼女は、「大儀でした」とローズたち三人に告げると新たな妖精たちに力を注いだ。
「白のあなたはルクス、黒のあなたはルアと名づけましょう」
生まれたばかりの妖精たちは自分の名前を確かめるように与えられた名を繰り返した。
「わたくしたちの虹星花から生まれた可愛いあなたたち。さぁ、飛び立ちなさい」
にこにこと自由な世界へと誘うティターニアに彼らは「僕はここにいます」「俺も、あの男が気になるので」と残留の意思を告げた。そんな彼らにも、ティターニアは微笑みを向ける。
「それも我が子の決めた道。あなたたちの道行きが幸運であることを祈りましょう」
ティターニアはそう言って姿を消した。その瞬間に異界となっていた温室は元に戻っていく。少年の姿の生まれたてほやほやの二人はふよふよと感覚を確かめるように翅を動かして飛び始める。
そして、「朝になったらハルに紹介してあげる!」という先輩三人組の言葉に頷いた。そのままハロルドの部屋に潜り込んで、隣で眠った。
翌朝、「スノウ、顔の上に乗るんじゃねぇ!!」というアーロンの怒りの叫び声と「なんか増えてる!!?」というハロルドの驚愕の叫び声が同時に響いた。
スノウはアーロンの顔の上で寝てた。
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そして結構見返しているのに減らない誤字脱字……。




