20.呉越同舟2
ユリウスは実際に「なんであんな状態に持ち込めたんだ」とハロルドが思うほどに強かった。理由としては本人の「殺してしまうと目的が達せられないから」という一言で全ての疑問が解決した。怪我はしてもいいけど、殺してはいけないというのが彼には難しかったのだ。
「アルマも捕縛には向いていない。魔物を差し向けて弱ったところか困っているところを捕まえようと思ったが……雇った冒険者が私欲に駆られて死んだり捕まったりした」
「だっさぁ」
「仕方がなく、スタンピードでも起こしてどさくさに紛れて連れ去ろうとしたが、なぜか思ったより魔物が発生しなかった」
それはアーロンが「臭い、鼻もげそう」と言いながら香水を撒いた場所を焼き払っていたせいだろう。熱に弱いらしいそれは、村の周囲のものは全て消されてしまっている。進化した薬剤を持ってこられても困るので情報を漏らす気はないが、ハロルドは「やり方が最悪だな」と口にした。
「なぜだ。近くには辺境伯の軍もいる。犠牲は少なくないだろうが、お前が思うほど多くもないはずだ」
純粋に「弱いのが悪いだろう」と首を傾げるユリウスに、ハロルドは心の底から溜息を吐いた。なお、ユリウスの「お前が思うほどは」は広範囲のスタンピードであり、ハロルドが想定しているのは村の壊滅なので、彼にとってはめちゃくちゃ犠牲は大きい。
ジト目で、「凶行に及んだ理由は」と聞くと、隠すことでもないと言うように話し始める。
マーレ王国は国土の大部分が海に面した土地だ。他国を隔てるようにして山があるのも特徴的だろうか。
そんな国では、ある病が流行っていた。それは“ユール熱”という感染症だ。
急激な発熱に、悪寒、喉の痛み、咳。高熱は3〜4日続き、通常はそこから下がっていく。その中でも魔力を多く持つ者はさらに症状が長引き、酷い場合は一月経っても高熱が治らない。厄介なことに、それだけでは飽き足らず、肺炎や意識障害、けいれんなどを引き起こす場合もある。
運の悪いことに、マーレ王国で特効薬に使う薬草は育たなかった。それ故に多くの国民や、貴族がユール熱に感染することとなる。貴族が医師や薬師を独占しているせいで国自体が割と悲惨なことになっている。
その希少な薬草が国境で売りに出されている。マーレ王国はそれを高値で買い漁った。隣国で手に入ると知った彼らはエーデルシュタイン王国でそれを買い漁ってついに足がついた。ユール熱が流行っていることもバレて、薬草は余計に手に入りにくくなった。
「それで、薬草を育て、保有している者。もしくは神の加護持ちを連れてこいと言われた」
両方自分のことだと察したハロルドは「あちゃー」という顔をした。ユリウスは「薬草を育てているのは王太子直轄の部署らしく、手に入れるのは困難だった」などと言っている。
「だから、神の恩寵を受けたハロルドを狙った」
「神の加護持ちだからってなんでそうなるの」
「加護持ちが居れば、その身を心配した神が割と解決策を授けるケースが多いからだ」
実際に、現在のユール熱の特効薬ができたのは前聖女が召喚された時に流行っていたのを見かねたフォルツァート神の差配によるものらしい。
(あの神、一応そういうのもやってたんだな)
アルマという黒いドラゴンがハロルドを止めた。それと同時に、ユリウスが剣を振るう。その目に映ったのは血飛沫だけだ。
「現在のマーレの王は各地方から集めた美姫を後宮に入れ、放蕩三昧だ。俺はその中のある側妃の息子である11番目の王子に仕えている」
「へぇ」
「その主人を人質に取られてここに来る羽目になった」
王族は買い漁った薬草で作った薬を処方されて比較的元気な者が多いというのに、彼の主人はその母親の側妃の家族が気に入らないからと薬を与えられなかった。
そんな彼の主人の薬を手に入れるという目的もあったようだ。
(それ、本当に生きてるのか?)
ユリウスの忠義心を思って口には出さないけれど、他の王族に処方された薬を与えられないほどに疎まれていて、丁度腕の立つ護衛が離れているのだ。消されていてもおかしくはないだろう。
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